投資家の目線

投資家の目線819(アルケゴスショックとファミリーオフィス)

 アルケゴス・キャピタル・マネジメント(以下アルケゴス)との取引で、クレディ・スイス・グループや野村ホールディングスなど、大手金融機関が巨額の損失を出している。クレディ・スイス・グループは44億スイスフラン(約5200億円)、野村ホールディングスは約20億ドル(約2200億円)、三菱UFJ証券ホールディングスは約2.7億ドル(約300億円)、みずほフィナンシャルグループは約100億円の損失の見込みと報じられていた(モルガン・スタンレーは9億1100万ドル(約1000億円)の損失 2021/4/17追記)。JPモルガン・チェースは金融機関全体で損失が50億~100億ドル(約5510億~1兆1030億円)になると推計している(「金融機関のアルケゴス関連損失、最大100億ドルにも≠iPモルガン」 2021/3/31 Bloomberg)。
2021/4/28追記:野村ホールディングス 合計約3,077億円、UBS 約8億6,100万ドル(930億円)の損失発生 (「アルケゴス損失、世界の銀行で計100億ドル突破*?コとUBSが追加」 2021/4/27 Bloomberg)

 アルケゴスはビル・フアン氏の個人資産を運用する投資会社(ファミリーオフィス)で、デリバティブ商品でレバレッジをきかせて資産額以上のポジションを保有してした。しかし、アルケゴスが追加証拠金を差し入れなかったために、一部の金融機関が担保にとった株式を大量に売却、担保の価値が下がり、大きな損失につながったようだ。『同社の取引について知る関係者によると、アルケゴスが利用していたレバレッジの多くは野村ホールディングスやクレディ・スイス・グループなどの銀行が、スワップや「差金決済取引(CFD)」を通じて提供していた。この取引ではアルケゴスが実際に原資産を保有することはない。米国の上場企業の株式を5%以上保有する投資家は通常なら、持ち分を開示する必要がある。しかしアルケゴスが利用していたとみられるデリバティブ(金融派生商品)を通じてポジションが構築された場合はそうではない。取引所外で取引されるこの商品を使って、フアン氏のような運用者らは開示することなく上場企業の持ち分を積み上げることができる。』(『アルケゴスショックの背後に「CFD」-秘密裏にポジション積み上げ』 2021/3/29 Bloomberg)という。高いレバレッジをかけたファンドの破綻としては、アジア通貨危機やロシア危機を契機として発生したLTCMの破綻がある。

 特に、米国のメディア企業バイアコムCBSなど数銘柄で巨額のポジションを保有していたとされる(「ウォール街不意突いたアルケゴスー破綻までレバレッジ全容見えず」 2021/4/2 Bloomberg)。目につかない形で、特定企業の株式について大きなポジションを積み上げた例としては、阪神電鉄の株式とその転換社債型新株予約権、株式交換で完全子会社化が決まった阪神百貨店株式を買い占めていた、いわゆる村上ファンドを思い出す。特定企業の持ち分を目につかないように積み上げたのは、M&Aを狙っていたためだろうか?「ブルームバーグ・ニュースが確認した顧客への電子メールによると、ゴールドマンは百度(バイドゥ)とテンセント・ミュージック・エンターテインメント・グループ(騰訊音楽娯楽集団)、唯品会(ビップショップ・ホールディングス)の株式66億ドル相当を米市場の取引開始前に売却した。電子メールによると、その後メディア企業のバイアコムCBSとディスカバリー、オンラインファッション小売りのファーフェッチ、中国の愛奇芸(iQiyi)と跟誰学(GSXテクエデュ)の株式計39億ドル相当も売却した。」(「ウォール街に臆測飛び交う-「前代未聞」のゴールドマンのブロック取引」 2021/3/28 Bloomberg)と、アルゴゲア事件に関連して放送・通信株の売却が取りざたされている。

 先手を取って株式売却に動いたゴールドマン・サックス・グループは損失が軽かったようだ。「「『清算』は最初に引き金を引いた者が勝ち」。ウォール街のベテラントレーダーは解説する。」(「米欧当局、アルケゴス注視 巨額運用で行き詰まり 金融、手数料目当ての構図」 2021/4/1 日本経済新聞朝刊)。不良債権を出さないコツは他者より先に債権を回収することだと、かつてノンバンクの人から聞いたことがある。バブル崩壊後、真っ先に債権回収に動いたのは商社。次にノンバンクが回収に動き、最後まで残って不良債権というババをひかされたのが銀行をはじめとする金融機関だった。商社は取引を通じて実質的な融資を行っている(商社金融)。かつて存在した商工ファンドの創業者も商社出身だった。

 アルケゴスの事件を受け、米国ではファミリーオフィスの規制に動くようだ(「焦点:アルケゴス問題で分かった監視の穴、米当局は規制強化へ」 2021/3/30 ロイター)。以前、フアン氏はインサイダー取引で処分を受け、「顧客資金の運用をSECから禁じられたフアン氏は、自身の資産を管理・運用するファミリーオフィス、アルケゴスをスタートさせた」(「ウォール街銀行をSEC招集、フアン氏絡み株式売却協議-関係者」 2021/3/30 Bloomberg)。また、「主にキリスト教保守派の理念に基づく地味な活動に手厚い資金支援を行う一方、自身は郊外のニュージャージー州に住み、バスを利用するなどビリオネアの基準からすれば、質素な生活を送っていた。」(「ビル・フアン氏の知られざる顔-キリストに奉仕する投機家」 2021/4/2 Bloomberg)とも報じられている。

 新生・村上ファンドと言われる「レノ」も『「約200億円」(銀行関係者)ともされる村上氏の個人資産がレノの資金源とみられる。』(「新生・村上ファンド その野望と内情 この先、村上氏はどう出るのか? 金融業界」 2013/2/11 東洋経済オンライン)とされ、「レノ」もファミリーオフィスに分類されるのではないだろうか?損失がアルケゴス事件ほど巨額ではなくとも、鉄砲がもとで廃業になった小川証券等のように、中堅以下の証券会社なら経営破たんする恐れは否定できない。1000億ドル(約11兆円)近くとも言われるアルケゴスとはポジションの額は違うだろうが、日本でも米国と同様の規制は必要と考えられる。

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