「知ってはいけない 2 日本の主権はこうして失われた」(矢部宏治著 講談社現代新書)は、日米の軍事密約に関する著書である。昨今、日本政府の文書改ざんや統計データの誤りが指摘される中、外務省の文書改ざん問題から始まるのが今風である。
同書では米国外交をアメリカンフットボール、日本外交を騎馬戦に例えている。言い換えれば、米国の外交は組織的に行われるが、日本の外交は首脳間の個人的な関係を重視していると言えるだろう。安倍首相はトランプ大統領とゴルフをしたりして首脳同士の個人的関係が良好だとアピールしようとしているが、組織的な米国の外交の前ではあまり意味はないだろう。そもそも、日米経済対話や対米インフラ投資を自ら提案しながら、その後まともに交渉をしない安倍首相は、ゴルフはできても仕事ができないタイプの人に見えるが…。
同書には、以前の自由民主党にCIAが資金援助していたことも書かれている。資金援助の仲介人としてロッキード社の役員もいたという。現在、配備が予定されているF35もロッキード・マーチン社製だが、財政問題を抱える現在の米国は、以前のように自由民主党に資金援助までしてつなぎ止めるほどの価値を日本に見出してはいないだろう。韓米FTAやTPPには贈収賄を禁止する腐敗防止条項がある。政府関係者への資金援助は、それらに抵触しそうだ。
同書P223には、「さらに新安保時代になると、それに加えて自衛隊の軍事利用計画と巨額の兵器購入計画までが、着々と進行しつつあるのです」と書かれている。日米新安保条約の面もあるかもしれないが、軍事オフセットの面もあるだろう。高橋和宏著「ドル防衛と日米関係 高度成長期日本の経済外交 1959~1969年」(叢書 21世紀の国際環境と日本007 千倉書房 P245、P246)では、米国製装備品を購入させることで国際収支のうち軍事部門の収支均衡を図る軍事オフセットが指摘されていた。国際収支対策のうち軍事収支についてはアイゼンハワー政権期(追記:新安保条約締結はアイゼンハワー政権時)から着目されており、ケネディ政権は中国の軍事的脅威を強調して防衛予算の拡大を迫ったが、池田政権は米国のそれを経済的動機と認識していたという。米国の国際収支の悪化で円高USドル安になれば日本の輸出産業には不利であり、日本の所有する米国資産の円建て価値は低下する。軍事に限定する必要はないが、日本はドル防衛に協力する価値はある。
同書では、辺野古基地を建設しても普天間基地は帰ってこないだろうと予想されている。なお、尖閣諸島の防衛とは無関係である。2005年10月29日の「日米同盟 未来のための変革と再編」(Ⅱ.2)で、島嶼部の防衛は一次的には日本が担うことになっている。かつ、「アメリカ後の世界」(ファリード・ザカリア著 楡井浩一訳 徳間書店 P283)によれば、2002年の、モロッコとスペインが統治権を主張するレイラ島をモロッコ兵が占拠した時(パセリ危機)、米国は両国を仲裁しただけでNATO加盟国のスペインを支援しなかった。モロッコ兵を送還したのはスペイン兵である。NATO加盟国の時ですら支援しないのだから、NATO非加盟国の日本では米軍の支援は期待しようがない。また、「日米同盟VS.中国・北朝鮮」(リチャード・L・アーミテージ、ジョセフ・S・ナイJr、春原剛 文春新書 P203)では、沖縄の海兵隊は「核抑止力の人質」としているが、米空軍嘉手納基地で不十分な理由は示されていない。
南京大虐殺は東京裁判(極東国際軍事裁判所)で20万人以上の犠牲者を出したことが認定されたが、それを認めない人々がいる。サンフランシスコ平和条約(第11条)には東京裁判を受諾することが書かれているが、彼らは同条約を破棄し占領時代に戻したいのだろうか?ポツダム宣言は民主主義的傾向の復活と基本的人権の尊重を求めており、降伏文書ではポツダム宣言を履行することになっている。民主的な教育基本法の制定に伴い、衆議院(第002回国会 本会議 第67号 昭和二十三年六月十九日)で排除決議、参議院(昭和23年6月19日 参議院本会議)で失効決議された教育勅語を復活させようとしたり、基本的人権を否定したりする勢力がある。United Nations(連合国、国際連合)には敵国条項(国連憲章 第107条、第53条)が残っているのに、連合国と戦争するつもりだろうか?このような連中がいると、日米安保条約は日本の暴発を防ぐ「瓶の蓋」としての役割が重要になってくる。
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