投資家の目線

投資家の目線817(NTTと東北新社の接待とESG投資)

 NTTが総務官僚への接待に対する国会での追及を受け、社内規定を改正するという。「NTTは26日、総務省接待問題を受けた再発防止策として社内ルールを見直し、国務大臣規範や国家公務員倫理規程などを踏まえて利害関係のある政治家、公務員との個別の会食を禁止する方針を明らかにした。贈答品も禁じ、違反した場合の罰則を定める。」(「NTT、政官と会食禁止へ 社内規定見直し、罰則制定」2021/3/26 共同通信)と報じられている。

 NTTのHPでは贈収賄防止がうたわれており、『NTTグループは「国内外を問わず、法令、社会的規範および社内規則を遵守する」ことを「NTTグループ企業倫理憲章」に明記しています。「贈賄防止」に関しては、理解し守るべき事項をまとめた「贈賄防止ハンドブック」を作成して国内外の全社員へメールなどで周知しています。』と記されている。社内規定を見直すということは、接待に関する規定は十分ではなかったのだろうか?企業活動に求められるESG(Environmental, Social and Governance)項目には腐敗防止(贈収賄)が含まれる(証券アナリストジャーナル2018年1月vol.56 NO.1「エンゲージメントを通じたESGの推進」櫻本惠、加藤泰浩、村岡義信、鈴木俊一 p42 図表2)。ESGの観点から「接待・贈答」に関する社内規定がある企業もある。NTTは、ESG投資という観点からは問題がある企業だったと言えるのではないか?

 NTTはNTTグループ中期経営戦略『Your Value Partner 2025』(最終更新日:2021/1/26)で「グローバル事業の競争力強化」をうたっている。以前にも書いたが(投資家の目線815(公務員への接待問題) 投資家の願い)、2019年にはスイスの資産運用会社で贈答品に関する社内規定違反が見つかり、過去3年間に受けたコーヒーや朝食、昼食、ディナーなどのもてなしの記録が調査された(『セールスに「そのランチの支払いは誰が」とGAM<Mフトも確認指示』 2019/3/7 Bloomberg)。このスイス企業の例と比較して、NTTトップの総務官僚に対する接待は、グローバル基準に耐えるものではなかったのではだろうか?企業の倫理がグローバル基準から逸脱していれば、「グローバル事業の競争力強化」を目標とする中期経営戦略の達成もおぼつかない。

 東北新社も総務官僚に対して接待を行った。総務省は放送・通信の監督官庁なので、NTT同様に利益相反が疑われる案件だ。NTTと異なり、東北新社HPのCSR(Corporate Social Responsibility、企業の社会的責任)のコンプライアンスの事項について見ても、個人情報保護や下請法、インサイダー取引、ハラスメントの項はあっても「接待・贈答」など贈収賄防止に関して具体的に定めた項は見当たらない。そのため、東北新社もESG投資の観点からは好ましくない投資対象と考えられる。

 NTTは贈収賄防止をうたっていたにもかかわらず、贈収賄が疑われる事件が発生した。ESGを重視する投資家は、投資企業に具体的な社内規定の開示を要求した方がよいのではないだろうか?
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