投資家の目線

投資家の目線414(再読「江戸幕府・破産への道」)

 1991年に出版された三上隆三著「江戸幕府・破産への道 貨幣改鋳のツケ」(NHK BOOKS)を読み返した。江戸時代の経済を貨幣史の観点から見た本で、貨幣改鋳による出目(江戸時代に関して言うと、小判の金の割合を減らして銀の割合を増やすことでその差が幕府の手元に入る)の話が頻繁に出てくる(支倉凍砂氏のライトノベル「狼と香辛料」の第一巻も出目の話である)。


 元禄から何度か貨幣改鋳が行われたが、興味深いのは徳川吉宗時代の元文改鋳である。これは大岡忠相の建議と荻生徂徠の助言を受けて実行されたという。この改鋳は不況対策として物価(米価)引き上げを意図したものであり、その結果として物価水準は急暴騰することになるという(ギャロップ・インフレ:早足に進むインフレーション。馬の早足を表す「ギャロップ」から。インフレ率は年率10%超-数十%程度を指すことが多い。スタグフレーションに伴って生じることがある・・・Wikipediaより)。当時の物価高を揶揄する言葉として「文金高島田」が流行したそうだ。これはインフレを意図する黒田日銀総裁の金融政策に似ていないか?黒田総裁は2年間でインフレ率2%の達成を目標としているが、そんなに簡単に物価を管理できるのか疑問である。なお、インフレによって出目のかなりの部分が相殺され、幕府財政への寄与度はそれほど大きくなかったようだ。これは、インフレ期待で長期金利が上昇すれば国債の利払いに悪影響を及ぼし、ひいては財政負担が重くなることに通じる。


 事業仕分けなど小手先に終始し、本命である八ツ場ダムなどの効果に疑問がある公共事業の廃止に切り込めなかったことは、大奥経費の削減に失敗して財政建て直しができなかった当時の幕府に似ている。ただし、幕府財政を重症化させたのは軍隊近代化のための武器や船舶等の輸入、過激派行動の尻拭いとしての賠償金支払いなどで、これは防衛費の引き上げやISD条項など現在にも通じる話である。


 なお、経団連と連携する安倍政権は、商業資本と組んで重商主義政策をとった田沼意次の政策に似ているように思う。もっとも、商人等からの冥加金徴収や銀等の専売制などの規制強化も行った田沼時代と異なり、規制を緩和した上に法人税率を下げてどれだけ税収を増やせるかは疑問だが・・・。


 この本は「アベノミクス」を評価するのに有益な示唆を与えてくれるものだと思う。


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・飯島参与が訪朝した。それについて米韓への事前説明はなかったという。昨年、李明博大統領が駐〟i独島)を訪問したのも日朝協議の直前だった。米朝間の緊張は、対朝関係で日本が有利に働くだろうことは想像できるが、大韓民国の報復外交は考えておくべきだろう。
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