投資家の目線

投資家の目線735(トウモロコシとカジノ)

 8月25日、日本政府は米国から中国が輸入しなくなったトウモロコシを、民間企業が輸入することに同意した。韓米FTAで韓国の牛肉輸入量が増え、トウモロコシの輸入量が激減した(『韓米FTA発効5年:大騒ぎした「あの話」は全てデマだった』 2017/3/14 朝鮮日報)ことを考えれば、牛肉の輸入自由化とトウモロコシの輸入増は両立しない。日本政府が長期的にエタノール燃料に力を入れているようにも見えず、長期的なエネルギー戦略に基づいたものではないだろう。

 8月22日には、林横浜市長がカジノを含む統合型リゾート施設(IR)の誘致を正式に表明した。黒岩神奈川県知事も理解を示した。日産の業績はよっぽど悪いのだろうか?

 日産自動車の米国での販売台数(19/1~19/6累計)は63,659台減の717,036台と前年同期比8.2%のマイナスだった(資料①日産自動車ニュースルーム「日産自動車2019年6月度および2019年1月~6月累計 生産・販売・輸出実績(速報)」2019/7/30)。同(18/1~18/6累計)は38,993台減の780,695台(前年同期比4.8%マイナス、資料②日産自動車ニュースルーム「日産自動車2018年6月度および2018年1月~6月累計 生産・販売・輸出実績(速報)」2018/7/27)だったので、カルロス・ゴーン体制より米国での販売台数が落ちている。ゴーン会長逮捕後、日産幹部がライバルメーカーに転職する例も見られた(「現代自、日産元幹部をグローバルCOOに 米国販売回復狙う」 2019/4/19 日本経済新聞WEB版)。日本から北米への輸出台数(19/1~19/6累計)は121,360台と国内生産台数404,075台の3割を占める。同期間の北米での販売台数921,372台のうち米国での販売台数は717,036台と約78%を占めるため(資料①)、米国での販売不振は日産自動車の国内事業所にも大きな影響を与えるだろう(日産の19/1~19/6累計の日本国内の販売台数(含む軽)312,728台、中国718,268台、欧州306,972台、グローバル販売2,627,672台で、米中自動車市場の重要性がわかる)。

 日産自動車HPによれば、神奈川県には横浜工場(従業員数約3,300名2019/6時点)、追浜工場(同約2,600名2019/6時点)、座間事業所(同2,085名2010/8現在)、相模原部品センターなどがある。神奈川県に本社がある主要関係会社としては平塚市に本社・工場のある日産車体(従業員数1,797名2019/3/31現在、日産車体HP)、寒川町に本社工場のある日産工機(従業員数840名、日産工機HP)、そのほかにも日産グループファイナンス株式会社(横浜市)、特装車の生産等のオーテックジャパン(茅ヶ崎市、社員数433名2019/3月末現在、オーテックジャパンHP)、リチウムイオン二次電池開発のオートモーティブエナジーサプライ株式会社(座間市、従業員数約1,600名2019/4(US、UK工場含む)、オートモーティブエナジーサプライHP)、株式会社日産アーク(横須賀市、社員数129名2019/4/1現在、日産アークHP)、株式会社日産クリエイティブサービス(横浜市、従業員数3,000名2019/4/1時点、日産クリエイティブサービスHP)、株式会社日産オートモーティブテクノロジー(厚木市、従業員数2,678名2019/4現在、日産オートモーティブテクノロジーHP)、日産トレーデイング株式会社(横浜市、従業員数1,300名(グループ連結)2019/3/31現在、日産トレーデイングHP)、日産ネットワークホールディングス株式会社(横浜市)、ニッサン・モータースメ[ツ・インターナショナル株式会社(横浜市、従業員数194名2015/3末現在、ニッサン・モータースメ[ツ・インターナショナルHP)、フォーアールエナジー株式会社(横浜市)、ルノー・ジャャ投博ョ会社(横浜市)、横浜マリノス株式会社(横浜市)がある(会社名が記されているHP以外は日産自動車HP)。トランプ政権周辺に関わるIR誘致で自動車の対米輸出規制が避けられるなら、林市長や黒岩知事の行動も理解できないわけではない。

 トウモロコシの輸入も、横浜市のIR誘致も、トランプ米政権の問題にする自動車輸出の議論を避けるための搦手に見える。搦手で相手が譲歩すれば意味はあるが、譲歩が得られなければそれらはマルきりの損失になる(政権スタッフはともかく、ドナルド・トランプ氏はおそらく譲歩しないだろう)。『トランプ氏は「日本の民間セクターは公的セクターに良く耳を傾ける。米国とは少し違うようだ」と述べた』(「日米首脳、通商交渉で原則合意 9月下旬に署名へ」2019/8/25 ロイター)ので、日本政府は民間企業のやることに口出しできないという言い訳は通用しない。今月下旬、NYでのトランプ大統領との会見が懸念される。

 なお、安倍政権の外交姿勢で大韓民国からの観光客が激減しているが、「政府はIR施設を外国人観光客の誘致に向けた起爆剤と位置づける」(IR法案成立へ 全国で3カ所新設 入場回数は制限 2018/7/20 日本経済新聞WEB)。安倍政権の政策はまったく整合性が取れていないように思う。
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