投資家の目線

投資家の目線301(原発事故と情報の非対称性、エージェンシー問題)

 今回の地震では、福島の原子力発電所事故が大きな問題となっている。よい傾向の報道もされているが、まだ予断を許さない。
 孫崎元外務省国際情報局長は、twitterでたびたび星条旗新聞(米軍関係者向けの新聞)の記事を紹介している。3月15日の記事では、地震発生以降、米国は屋外での活動を控えるよう勧告を出していたようだ。17日には、東京地域の海軍基地の家族の自主的避難を報じていた模様だ。米軍は無人偵察機などを飛ばして福島の原発事故の観測をしている。そのため、米軍は有用な情報を多く持っていると考えられる。情報の非対称性を考えれば、米軍の行動を観察することは放射線被害を避けるために大いに効果があるだろう(AFNの放送も役に立つだろう、21日AM9:30頃の段階では米軍関係者の自主的避難は継続中の模様)。

 また次の記事によれば、資産の保護を優先させたため、東京電力が冷却のための海水注入を行ったのは菅首相が海水注入を命じた後の12日夜だったという。経営状態が悪く債務超過に至りそうな場合、株主の代理人である経営者は成功する確率は低くても成功すると大きなリターンが得られる(債権者だけでなく株主もキャッシュが回収できる)ようなリスクの高い投資を行う可能性がある。これは「株主と債権者の間のエージェンシー問題」のひとつである。冷却に海水を使わなければ圧力容器がそのまま使えるようなので、東京電力側としては得るものが大きい(失うものが少なくてすむ)。これは似たような例だと思う。それにしても首相が命令しないと海水注入のような重大な判断ができないとは、電力会社の経営者に原子力発電所の運営を任せてよいのだろうか?

「資産保護」優先で海水注入遅れる─福島第1原発事故 2011年3月19日 WSJ日本語版


 3月19日の日本経済新聞沖縄版には、九州電力の社長の会見が掲載されている。
「想定外の事態が福島では発生した」という質問に対し、「事故を踏まえ、新たな安全指針が国から出されると思う。それに加えて九電としてもできる限りのことをやっていきたい」と社長は答えている。抜本的な安全対策は、結局国からの支持待ちなのか。




 18日の共同通信はウォールストリート・ジャーナルが「80キロ圏退避の根拠に疑問」という記事を伝えていると報道した。しかし、それは次に記事の前半部分に過ぎない。後半では「憂慮する科学者同盟」という団体が、「米国内での緊急避難計画の避難範囲基準が10マイルであるのに、どうして50マイル避難を勧告できるのか」と疑問を呈し、緊急避難地域を拡大するよう提唱していることを報道している。共同通信が後半部分を削ったことに何か意味があるのだろうか。

半径80キロ避難指示の「科学的根拠」が疑問&ト原子力推進団体 2011年3月18日 WSJ日本語版


 昨日、Web Iwakamiで佐藤栄佐久前福島県知事のインタビューがUst中継された。著書「知事抹殺」にも原発の問題が書かれているという。

追記:原子力の専門家は首相に楽観的な情報だけを伝えていないだろうか?
Web Iwakamiの福島みずほ党首インタビュー(2011/3/17)を見るとよい。

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・中華人民共和国が北澤防衛大臣に医療部隊や医療船を派遣する用意があると伝えたという(2011/3/16 Record China)。また、15日からインドネシアで米中を含む26カ国でARF「災害救援実動演習」が行われた。大きな災害がどこの国で発生するかわからない。多国間の災害救援体制の構築は急務と感じられる。
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