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「ねぇ、この前部屋で流していた音楽は何ていう曲?」
鏡の前に座るキョウコは髪を解きながら、ソファーで横になっているケンを振り返った。
ケンは春のような柔らかい香りを鼻腔に感じた。
同時に出会いと別れが混ざった切ない香りにも思えた。
「あ、あれね。よかったでしょ」
ケンはソファーから立ち上がり、徐にキョウコの携帯電話を手に取った。
キョウコの携帯電話にストラップ類は何もつけていない。
同じくケンもストラップは何もつけていない。
気に入るものが見つからないのが理由のひとつだが、それ以上につけない理由があった。
「うん、何か一度聞くと忘れられないというか、聞いていて緑の草原にいるみたい」
「今度CD貸すよ、そうしたらケータイの着メロに設定して。オレから電話がかかってきたら流れるようにしてほしい。あのメロディが流れてきたら、俺からだってすぐにわかるし、あの歌は言わばオレの生き方を歌っている気がするんだよね」
キョウコに携帯電話を渡して、ケンは鼻歌のメロディに合わせて指揮者のような素振りでおどけてみせた。
「音…、外してるって」
ソファーに前のめりに倒れこみ、手を振りキョウコを招いた。
ちょっと待って、急かすケンに合わせることなくキョウコはまだ鏡を見ていた。
じっと一点だけを見つめて、数回瞬きをすると乱雑に置いてあった化粧品を元通りに並べ直した。
そして、うつ伏せになっているケンを覆いかぶさる様に後から抱きしめた。
どこにでもある男女の日常的な会話。
日々、繰り返される出会いと別れ。
この愛は永遠だと誓っても、そんな夢はすぐに消える。
慣れることが強さで、許すことがやさしさなのか。
誰かが言った、今がよければすべていいと。
愛という言葉に何度も嘆き、苦しむ人もいた。
それでも人は愛に憧れ、何度も恋をする。
この仲睦まじい二人には、どこか背後に潜む不安を必死に紛らわそうと、本音を隠しながら、身を寄せ合う姿があった。
「ねぇ、この前部屋で流していた音楽は何ていう曲?」
鏡の前に座るキョウコは髪を解きながら、ソファーで横になっているケンを振り返った。
ケンは春のような柔らかい香りを鼻腔に感じた。
同時に出会いと別れが混ざった切ない香りにも思えた。
「あ、あれね。よかったでしょ」
ケンはソファーから立ち上がり、徐にキョウコの携帯電話を手に取った。
キョウコの携帯電話にストラップ類は何もつけていない。
同じくケンもストラップは何もつけていない。
気に入るものが見つからないのが理由のひとつだが、それ以上につけない理由があった。
「うん、何か一度聞くと忘れられないというか、聞いていて緑の草原にいるみたい」
「今度CD貸すよ、そうしたらケータイの着メロに設定して。オレから電話がかかってきたら流れるようにしてほしい。あのメロディが流れてきたら、俺からだってすぐにわかるし、あの歌は言わばオレの生き方を歌っている気がするんだよね」
キョウコに携帯電話を渡して、ケンは鼻歌のメロディに合わせて指揮者のような素振りでおどけてみせた。
「音…、外してるって」
ソファーに前のめりに倒れこみ、手を振りキョウコを招いた。
ちょっと待って、急かすケンに合わせることなくキョウコはまだ鏡を見ていた。
じっと一点だけを見つめて、数回瞬きをすると乱雑に置いてあった化粧品を元通りに並べ直した。
そして、うつ伏せになっているケンを覆いかぶさる様に後から抱きしめた。
どこにでもある男女の日常的な会話。
日々、繰り返される出会いと別れ。
この愛は永遠だと誓っても、そんな夢はすぐに消える。
慣れることが強さで、許すことがやさしさなのか。
誰かが言った、今がよければすべていいと。
愛という言葉に何度も嘆き、苦しむ人もいた。
それでも人は愛に憧れ、何度も恋をする。
この仲睦まじい二人には、どこか背後に潜む不安を必死に紛らわそうと、本音を隠しながら、身を寄せ合う姿があった。