私の自主制作アルバム「空を見ていた。」が、オケを録音し終わり、ボーカルも入れ終えた時。
録音に関して言えば、後に残っている作業は、コーラス入れだった。
私は、学生時代にカセットで多重録音をしてる頃から、コーラスは好きだった。
私が好きになってきたバンドが、コーラスが優れているバンドが多かったせいもあるだろう。
ビーチボーイズ、イーグルス、ビートルズ、その他たくさん。
自分のアルバムの収録曲には、すべての曲にコーラスをいれたかったくらいだ。
ハモり・・ではなく、コーラス。
「空の少年」「母校が消えた日」「もっと早く出会えていたら」「少年編~青年編」には、コーラス用のメロディ・・・メインメロディとは別個のメロディを用意してあった。
実際そのコーラス用のメロディを録音し始めもしたのだが、録音したものを聴いてみると、どうも自分のイメージと違う。
イメージ通りに歌えていない。
そこで悪戦苦闘し始めるのだが、レコーディングスタッフが見かねて、「このままいくと、コーラス入れで何日もかかってしまうぞ」と進言してきた。
そんなことしたら、エンジニアによるミックスの時間がなくなる。ミックス・・・録音した各トラックの音を最終調整したりする作業だ。バランスなど。
ミックスの時間がなくなってしまうのは、まずい。
そこで、コーラスをやめて、鍵盤に切り替えた部分がある。
特に、「もっと早く出会えていたら」や「青年編」のオルガンのパートがそうだ。
欲を言えば、鍵盤もコーラスも両方入れようとしたが、終わってみればオルガンの音で正解だった気はしている。
オルガンの持つ独特の暖かい音色が、けっこう気にいっている。
特にラストの「青年編」での、オルガンのバッキングと、それに乗っかったリードギターの音色はけっこう気にいっている。
「青年編」では、オルガンのバッキングに、デュポンのリードギターと、ラミレスのガットギターのリードギターのかけあいが乗る・・そんな構成になっている。
メインメロディを奏でているリードギターがデュポンMD20というギターの音。デュポンは、「里山の向こうに君が見える」の2か所の間奏でもリードギターとして使っている。
で、「青年編」で、デュポンのリードギターに「合いの手」のように(?)からんでいるのが、ラミレスのナイロン弦のギターの音である。
デュポンは、通常のアコギとは少し違う音がしているし、それにからむガットギターは、2種類のギターの音の傾向の違いがよく出てるのではないだろうか。
ともあれ、録音すべきものはすべて録音し終わり、後はエンジニアの独断場。
録音された音の調整が始まる。
ここははひととおり、エンジニアにお任せになる。
これが実に根気のいる作業で、エンジニアは、録音されたすべてのトラックの音を調整していく。
音のバランス、テンポの修正など。
1曲につき、何時間もかかったりする。
その間、私はやることはないので、スタッフと別室でダベったり、無人の応接室などで、仮眠とったり。
この作業こそ、エンジニアの孤独な作業でもあり、腕の見せ所・・って感じ。
1曲作業が終わると私が呼ばれて、作業が終わったばかりの曲をモニター。
で、こちらの要望を伝えてゆく。ミックスの作業で、これが楽しい。
楽器演奏や歌を録音することよりも、このミックスの作業の方が楽しいかもしれない。
それぞれの曲に入れるべき素材・・・要するに各トラックの「音」を揃え終わり、録音した音を再構築していく。
曲が・・サウンドが、だんだん形になっていく。形にしてゆく。
この作業では、自分の頭の中にサウンドの完成図がイメージできてないと、エンジニアに何も伝えられなくなる。
この作業、とっても大事。
いくつもの素材・・・「録音した音」のことだ・・・の中から、必要な音を選び、不要な音はカットしたり。
その結果、録音したにもかかわらず、「使わないトラック」「ほとんど聞こえないトラック」なども出てくる。
どのトラックを選び、どのトラックの音量をメインにするか・・によって、曲の表情はまったく変わってくる。
蛇足だが、先日、ブライアン・ウィルソンの「グッド・バイブレーション」という曲の制作秘話を紹介したテレビ番組があったが、そこには、あの超難曲「グッド・バイブレーション」のレコーディングで録音された「使用されなかった音」が一瞬流れた。
面白かった。あの曲には、本当はこんなパートも録音されていたのか、こんなパートもあったのか・・・と実感。
でも完成形では使われなかったからレコードでは聞こえない音だった。
もっとも、あの曲では、無数の音が録音されているから、そんな「トラックの選択」も可能だったんだろう。
私の「空を見ていた。」では、良くも悪くも、あんな無数の音は録音していない。だから、選択の幅は狭かったのだが、その分選びやすかった・・といえるのかもしれない。
そして、さらに。
リバーブのかかりぐあい。
フェイドアウト、フェイドインのタイミングの指定。
サウンドエフェクトの入り方。かけ方。
各トラックの音量のバランス。
各トラックの音の位置・・・いわゆるパンポット。
オケとボーカルの音量バランス。
その他・・。
急きょ弾き直したい個所が出た時(ほんの一瞬だったりする)に、急きょ録音ブースにはいって、チョコチョコっと音を入れたり。
こんな作業がエンジニアと私のやりとりで進んでゆく。
で、だんだん1曲1曲の姿がまとまってくる。
スタジオならではの、楽しい作業。
蛇足だが、「指パッチン」が出てくる個所があるが、あの「指パッチン」は実は私ではない。
最初私が録音したのだが、録音した自分の指パッチンを聴くと、どうも納得いかない。
そしたら、エンジニアが試しに指パッチンしてみたら、明らかに私よりうまい(笑)。
そこで、急きょ私はエンジニアにお願いして、指パッチンをエンジニアにやってもらうことにした。
で、更に、当初の私のイメージ通りに、録音した指パッチンの音の位置をリクエストし。
そうです。「空の少年」に出てくる指パッチンは、エンジニアさんの実演による指パッチンなのでした(笑)。
私の指パッチンは、あんな乾いた音は・・でましぇん・・。
とまあ、こういう作業が続き・・・・一通り完成したのは、レコーディングプラン最終日の朝10時頃だった。
徹夜での作業だったので、本当は眠かったはずなのだが、気持ちがハイになっており、あまり眠くないのが不思議だった。
終わって、事務所のスタッフのところに行ったら、スタッフがねぎらいのビールを出してくれた。
あんな充実したビール、あんなにうまいビール、そうそう味わえるもんじゃない。
プランニングスタッフは、私の録音の最中の段階を見て、少し心配してたようだ。
私にとっては、初めての個人名義でのスタジオ録音だったから、なおさら。
録音してる最中というのは、ほとんど一人での多重録音である場合、各トラックの音を一つずつ録音していくから、完成した時の全体像は分かりづらい。
あくまでも、完成図は私の頭の中にしかなく、それに向かって一つずつ録音してゆく。
バラバラに録音していく「各トラック」という「パーツ」が、最終的にどうまとまるのか・・・・・と心配してたようだが、それは私にとっては心配無用だった。
昔、原始的な方法ではあったが、カセット同士でのピンポン録音(多重録音)をしていた経験が、ある程度役にたったと思う。
だから、各トラックを録音しながら、音の迷子、パーツの迷子になることはなかった。
スタッフは満面笑みだった。
で、できたばかりの音源を事務所で聴く。
「母校が消えた日」を聴きながら、エンジニアは「この曲聴いてると、学校を思い出しますね」と、しみじみとポツリ。
また、「里山の向こうに君が見える」を聴いてる時、エンジニアさんにとっては、当初この曲を録音し始めた時の印象と、完成した状態でのこの曲の印象がけっこう変わったようで、「ずいぶん渋いサウンドになりましたね」と何度も言ってくれた。
とにもかくにも・・ひととおりレコーディング作業は・・終わった。
録音スタジオを使って行う作業が・・・音源に関しての作業が・・・終わった瞬間だった。
あとは、時期を待ってジャケット撮影だった。
疲れた体と精神に、朝のビールがとにかく優しかった。
事務所の窓からふと見下ろせば、、朝の築地の町が見えていた。
もう、とうに町は動き出していた。
夜の闇を抜けた道路は活気をとりもどし、太陽はキラキラ輝いていた。
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