
神州天馬侠。作者は、あの吉川英治さん。
私がこの本を読んだのは、もうだいぶ前のこと。
その時は、このブログは開設していなかった。なので、この作品について書く場を私は持ってなかった。
だが今は、このブログがある。
というわけで、気が向いたので、この作品を取り上げてみたい。
とはいっても、単なる気まぐれで取り上げるわけではなく、もうずいぶん昔からこの作品については書きたいと思っていた。
なので、このへんで、それを実現させてしまおうと思う。
この作品の存在やタイトルを知ったのは、極めて幼少の頃である。
見るとはなしにテレビを見てたら、この小説のドラマ版が放送されていた。
放送された時期的に、本放送ではなく、再放送だったと思う。
リアルタイムでは私は見れなかったはず。
ドラマの内容は覚えていないが、このドラマの主題歌が妙に印象的で、幼少だった私の頭の中に刷り込まれた。
のどかで、のびやかで、勇ましくもあり、哀愁のメロディだった。
私の中でのその旋律のイメージは、夕暮れの原野に響き、そして風に舞って、少し渦を巻いた後に、遠くまで旅して消えてゆくようであった。
主題歌は、こんな感じで始まる。
♪ 唇噛んで~ 眉あげて~ 富士を背に立つ 伊那の若武者~
で、歌の最後の部分の
♪ 男の子なら 泣くまいぞ ああ神州天馬峡
という部分は、頭の片隅に確実に残り続けていた。よく歌ってもいた。
ただし、後から分かったことだが、何十年もの間この主題歌を覚えていたつもりではあったが、実は歌詞を間違えて覚えてた個所があったし、メロディも微妙に間違えて覚えていた。
例えば、上記の「男の子なら 泣くまいぞ」の歌詞は、私は長年「男の子なら 負けないぞ」だと思っていた。
また、途中で「お家再興 その日まで」という歌詞があるのだが、「再興」という言葉を知らなかっただんぞう少年は「お家 最高」か、もしくは「お家 太閤」のどちらかだと思っていた。
かろうじて「太閤」という言葉は知っていたし。
だが「最高」にしろ、「太閤」にしろ、どうも歌の歌詞の雰囲気には合わないな・・とは思っていた。
そりゃそうだ、間違って覚えていたのだから(笑)。
だが「お家 再興」なら、つじつまが合う。前後の歌詞にもつながる。
ともあれ、以前ネット上で、この主題歌を聴く機会があり、そこで正規のバージョンを聴くことができた。
なにせ「うろ覚え」だったので、目からウロコの思いだった。
このドラマの主題歌は長年欲しいと思い続けていたので、あちこちのCDショップで、この曲が入っているアルバムを探し続けていたのだが、多数のコンピレーションアルバムが出てるにもかかわらず、この主題歌だけはどこにも収録されていなかった。
また、幼少の頃の友達にこの作品のことを聞いても、誰も覚えてる人はいなかったし、それどころかこの作品自体を誰も知らなかった。
なので、私は間違えて覚えたまま、それが正規のバージョンであるかのように勘違いし続けていたわけだ。
で、正規バージョンを聴くのは・・もう諦めていた。
ならば、せめて原作だけでも読んでみようと思って買ったのがこの文庫版であった。
この小説は、少年向けの時代冒険小説であり、それこそ「血沸き肉踊る」という形容がふさわしい名作小説である。
ともかく、、読み始めからいきなりグイグイと話に引き込まれ、エンターテインメントに徹した面白さゆえに、どんどん読み進んでしまう。
少年向け冒険活劇なので、形態は小説ながら、漫画を読むような面白さで楽しめること、うけあいだ。
また、文体がどこか講談調で、読んでて「いよっ!名調子!」と言いたくなるような痛快さのある、名文体、名調子。
物語の主人公・武田伊那丸は、武田勝頼の遺児である。
武田信玄の時代に武田家は大いに天下に勇名をとどろかせたが、信玄の死後、武田勝頼の代に武田家は滅んでしまった。
伊那丸は名門武田家の再興という悲願のために大冒険を繰り広げる。
伊那丸の周りに、武田家再興のために、だんだん仲間が集まってくる序盤のくだりは、それこそ水滸伝のような面白さがある。
秀吉は伊那丸に好意的であったが、家康は伊那にとっては敵であった。
家康が天下の中心の世の中では、伊那丸はアウトローであろう。
水滸伝の主役格である宋江率いる梁山泊の好漢たちが体制側から見ればアウトローであったことを考えると、伊那丸のまわりに仲間が集まってくるくだりに水滸伝のような面白さを感じても不思議ではない。
胡蝶の陣の使い手である美少女・咲耶子(さくやこ)、大鷲に乗って空を飛ぶ竹童、天才軍師・小幡民部、ほか剣士・槍使い、弓名人、怪力の持ち主など多彩で個性豊かな仲間たちと共に、妖術をあやつる悪ボス・呂宋兵衛(るそんべえ)をはじめとする敵役と戦ってゆく。
武田家再興の悲願を胸に。
この小説は大正時代に当時の少年雑誌に連載され、その面白さで圧倒的な人気を誇ったらしいが、その面白さは今読んでも十分に面白い。
その面白さには、古さはまったく感じないし、古さからくる影響もない。
むしろ、その講談調の文体が今となっては新鮮にすら思える。
時代を超越した波乱万丈の大傑作冒険談であることは間違いない。
徳川が天下をとり、その徳川時代が何百年も続いたという歴史的事実の前では、滅んだ名門・武田家の再興という悲願は、いくら物語上でも実現させるのは難しい(むしろ、歴史上では、家康は武田家の武名を惜しみ、武田家の再興を許している。ただし、時代的にだいぶ後になってではあったが・・)。
なので、伊那丸たちの行く末を、作者はどうやって決着つけるのだろう・・・と思って読み進んだが、物語の最後に伊那丸一派に明るく希望の持てる結末を用意してくれたおかげで、読後感も実に爽快である。
はてさて、その結末とはどういうものであったか。
そしてそこに辿り着くまでの波乱万丈の物語とは。
それは、ぜひこの作品を実際に読んで、確かめていただきたい。
読みながら、先が気になって仕方なくなるだろうし、わくわくしながら読み進むことだろう。
その面白さは、保障する。
この作品はかつてテレビでも映画でも映像化されたようだが、最近では映像化の話はあまり聞かないなあ、、、と思って調べてみたら、そうでもなかった。近年取り上げられたことがあるみたいだ。よかった。
機会があれば観てみたい。
これほどの名作が、埋もれるのは、もったいないから。
もっとリメークされてもいいぐらいだと思える。
♪ 風林火山の 旗のもと お家再興 その日まで~
https://www.youtube.com/watch?v=su9zfZ4uUdo
↑ 物語の出だしの場所、恵林寺。ここから、この痛快冒険物語は始まる。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます