アリ@チャピ堂 お気楽本のブログ

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銀河の壺直し 追記

2010-10-07 22:30:00 | フィリップ・K・ディック
「銀河の壺直し」はディック教の福音書か


フィリップ・K・ディック
サンリオSF文庫「銀河の壺直し」カバーから転載

グリマングは物語の中でも言及されているけれど
その行いは神のそれである

水洗トイレのタンクの中に啓示を届ける
捉えられた場所から救い出す奇跡を行う
人が神に期待する行いとしての力を示して見せる

同時に、神は大多数の者の祈りに応えることをせず無力である
同じように、グリマングも無力である
グリマングが力を得るために彼への信仰を必要とする

神が完全であるために不完全である「反神」
正しさを示すための悪が描かれなければいけない
神の完全性はその影となる「否定」の「否定」として証明される
黒のグリマングともう一つのヘルズコーラ

グリマングが水底から引き上げようとしたものは
神を支える体系の復活であったのか

ヴァリスを読み直す前に
この作品がディックを解釈するための貴重な伏線になっているのではないか

作品を読む時、作者はその背後に隠れているものだ
作風や雰囲気としての作者の個性が際立つこと
独特の作風に対して惹かれ、その雰囲気を第一として作品に触れることは確かに少なくない
しかし、作品の中から作者を削り出そうとするような
作者を知るために作品を解剖する
ディック教徒ならではの作品へのアプローチがある
「銀河の壺直し」は作者を意図しない批評では採点のしようもないのではないか
しかし、ここからヴァリスにつながる彼の神学、哲学への理解や
作品として評価の高い「ユービック」「火星のタイムスリップ」などから
さらなるインスピレーションを絞り出すための
インデックスであり福音でもある
(キリスト教徒でないので「福音」「福音書」の用語を正しく使っているとは思えない点、ご容赦を、雰囲気です)

もちろん、ディックにまったくそのような意図がなく
違う目的と意識を持って書かれたものであるのに
それを読み違える、意味のないものに意味を付与して
ねじまげた誤りを押し付けようとしているのかもしれない

何もない砂漠から恐竜の化石を掘り出すようにして
時間をかけてディックの作品から何物かを掘り出す
ボケ防止を兼ねた老後の楽しみにはまたとない作業に思える
そういうことが可能な時が訪れること願ってやまない

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