アリ@チャピ堂 お気楽本のブログ

日々の読書記録を勝手きままに書き記す

村上春樹論

2012-04-21 12:00:00 | 小説
2009/10/03
村上春樹の理由。
 呪文と同じ、人の心に何かを刷り込む力。読者の心の中に何かが書き込まれる。(普通の小説家
は原稿用紙に物語を書くが、良い小説家は読者の心の中に物語を書き込んでしまう)説明や意味で
はない、理解するのではなく埋め込む力。貼りついたら剥がせない、磁力のようなものではなくもっ
と粘ついた附着感が残るもの。長い間貼ったままにしたガムテープを剥がした跡、ソースの染み、
血の跡とかそういうもの。評価以前に、力のあるなしが問題。人間のシステムはとても高度で不思
議だが、最もありふれたシステムになった。村上春樹の作品について語るとしたら、自分についた
染みがどんな形なのか、何を変えてしまったのかを探すこと。体験として語れない文学は弱い。多
くの読者が喪失感を抱く、染みは人の外装に穴を開けて、その内側にある大きな空洞を覗き見させ
るのだろうか。
 人は多次元世界の中にいて、「自分」という内容物がある重さや大きさを持っているとイメージし
ているが、実はその先の次元から見たら、薄く引伸ばされたり縮められたり、定まった形さえ失って
しまうことに気づかされる。文学は次の次元への扉を開ける鍵になりうる。それは絵画も音楽もそう
に違いないし、特別な体験や衝撃的な発見もまた目の前にまったく違う世界を開かせて見せる。
いや、まったく違うのではなく、気づかないほどの差異、そして大きな違和感を覚えさせるもの。現実
の中から掬いだした鍵となる暗号、それを伝えるもの。どれだけの人の扉を開くのか、それが力であ
り、村上春樹の文学にはそれがあるのだろうか。

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 「世界の終りとハードボイル... | トップ | 楽しい辞書作り »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

小説」カテゴリの最新記事