マウスはゲームには向かない。これが原則である。
現行のPCでもマウス対応のゲームは山ほどあるが、プレイしやすいか、ってぇとそうじゃないゲームが多いんじゃないか。昨今のゲームだとマウス+カーソルキーとか、マウス+WASDキーとか、マジでUIがキチガイ染みている。
ぶっちゃけ、PCゲームに於いては、妄信的にマウスを使う、んじゃなくって、別のUIをキーボード上に展開した方がいまだマシな結果になるんじゃないか、と思う。
とは個人的な感想なんだけど、1990年前後には、
「マウスを使う為のゲームデザインとは何か」
試行錯誤した結果がボチボチ現れて来ていた。
つまり、それまでは
「既存のゲームのUIに無理矢理マウスを当てはめよう」
として来て失敗してたわけだが(最悪の例としてはMacintosh版Wizardryが挙げられる)、そうじゃなくって
「マウスならではのゲームデザインとは何か?」
ここで初めて方向転換が見られたのだ。
と言うわけで、恐らく初めて「マウスを使う」と言う事を積極的にゲームデザインに取り入れて成功したゲームがここで挙げる都市シミュレータ、シムシティ(1989年)である。
ちなみに、Apple信者はこのゲームがMac産まれとしてMacの「革新性」を示す証拠として熱く語ったりする。まぁ、確かに一番最初にリリースされたのはMac版だ。一番売れたのはMac版じゃねぇけどな(笑)。
実は調べてみると、このシムシティ、開発版で一番最初に作られたのはCommodore 64版だったみたいだ。要するに、当時一番売れたPCプラットフォームであるCommodore 64向けに練られた案だったのだ。ってぇこたぁ、恐らく、キーボード操作か、あるいはジョイスティックを想定してたゲームなんだろう。
ところが、こいつが一番最初にリリースされる事はなく、最初にMac版がリリースされ、次に僅差でCommodore Amiga版がリリースされ、その後にやっと日の目を見る事となる。開発に着手したのが1985年、との事なんで、リリースされた1989年、ってのは4年も開発に時間がかかってしまい、結果市場におけるC64の優位性というのはとっくに失われてしまったわけだ。
いずれにせよ、Macならではの先進性があるゲーム、と言うのはApple信者が言ってるだけの大嘘である。事実は、恐らく、開発版でのジョイスティックでの操作がやりづらかったんで、取り敢えずマウスで動かすのがポピュラーだった、移植版であるMac版とAmiga版を先に仕上げてしまった、ってトコだろう(タイミング的にはMac版が若干先に発売されたが、開発自体は両者とも同時に進行してたらしい)。
Apple信者の妄言はさておき、そしてMac云々は置いておくが、シムシティは、
「マウスを使う前提にリファインされたお陰で操作系にも革新性が出たゲームになった」
と言うのは間違いない。確かにこのゲーム、マウスじゃないと操作が厄介に感じる見た目である。
上の画面はDOS版を元にして移植されたPC-9801版だが、MS-DOS-basedの癖にマルチウィンドウとか、確かに往年のMacやAmigaじゃないと実現不可能なプログラムに見える。いや、この移植だと大変だっただろう。そしてマウス操作、である。
マウスによるウィンドウの選択、開発エリア選択、そしてアイコン配置・・・これでもか、って程の「GUI」の威力を見せつけてくる。
ぶっちゃけ、こんな見た目のゲームはこれ以前には無かった。これがリリースされた当時、「未来のコンピュータのインターフェース」を確かに感じたのだ。Apple信者が、勘違いにせよ、シムシティを「Macの先進性」の代表と言いたくなる気持ちは分からないでもない。「これは俺らのプラットフォームのゲームだ」と。
しかし、実際はMac版なんかより他の機種向けの版の方が遥かに売れている。GUIのデザインの先進性はともかくとして、そもそも「何故か」ゲームとしてもシンプルで面白かったのだ。そして、Macユーザーよりも、MS-DOSユーザーの心をむしろ鷲掴みにしてしまったのがこのゲームである。日本だと、当然、Mac版は知らんけどPC-9801で死ぬほど遊んだよ、って人が結構多いんじゃないか?大体、Mac版だと他の版と違って白黒しか知られてなかったしな(当時のカラーマックであるMacintosh IIは本体だけで$6,000〜$8,000と言う高価なマシンだった為、そもそも米国でさえそんなに普及してなかった)。
そして、このゲームの最高の移植はこれまで見てきたどれでもない。その最高の移植は日本の企業によって行われた。ご存知、任天堂である。ハッキリ言って、シムシティで一番の傑作はスーパーファミコン版である。間違いない。マウス操作じゃねぇけどな(笑)。
これ、どういう経緯で任天堂が移植する事になったんだか良く知らんのだけど。と言うか、明言された事って多分ないのね。
ただ、1つ言えるのは、当時、SFCが発売された時、当然スーパーマリオワールドとF-ZEROが牽引役だったんだけど、「更なるSFCの普及に弾みを付ける為」戦略的に投入されたソフトだったのは間違いないと思う。SFC発売から半年、って絶妙なタイミングで投入されたトコを見ると、多分SFC発売前からソフトリリースのロードマップ的なスケジュールを任天堂が持っていて、既に開発を始めてたんだと思う(ちなみに、SFC用として任天堂からリリースされたソフトとしては4本目、である)。
確か当時だと「あのパソコンゲームでの大ヒット作、シムシティがSFCで遊べる」的なニュアンスだったのね。それだけでSFC優位が確実視されるくらいのビックタイトルだったのよ、当時は。要するにゲームボーイで言うテトリス的な役割を担わされたソフトだったわけ。
そもそも任天堂自身ってあんまりPCゲームの自社プラットフォームへの移植ってしないわけ。知ってる限り6本くらいしかねぇんじゃねぇの?銀河の三人(苦笑)、テトリス、ロードランナー、倉庫番、ザ・タワー、そしてシムシティ。銀河の三人はどうだか知らんけど(笑)、PCゲームでそもそも任天堂のお眼鏡に適うゲームがそもそもそんなに無くって、その数少ないゲームとして選ばれてるんだ、シムシティは。それだけ潜在的な「面白さ」があった、って事だな。
しかし、SFC版シムシティを遊んでみて、その後でMac版を始めとしたPC版を遊ぶと「すっげぇ地味なゲーム」にどうしても思うんじゃなかろうか。それぐらい任天堂によるSFC版シムシティの「アレンジ」は絶妙なのだ。
まずヘルパー役のDr. ライトの存在。
そして、特定の条件をクリアする毎にもらえるプレゼントの存在、等、「革新的だが地味ゲー」なシムシティを二倍も三倍も面白くしてくれたアレンジ。ホント、これをプレイした後Mac版をプレイしたりすると、あまりの地味さにガッカリする事間違いない。それくらい、任天堂の「アレンジ」はツボを心得てたのだ。
この後もSFC版は任天堂が移植してくれたらなぁ・・・とか思ってたんだが、基本的に任天堂はこれ一本のみでシムシリーズからは手を引く。後は基本的に、PC-9801へシムシリーズの日本語版移植を手がけていたイマジニアが引き継ぐが、イマジニアは別にゲームのツボを押さえてるわけじゃあなかったんで、その後のSFC版シムシリーズは第1作に比すると大して売れなかったんじゃないか、って記憶している。
とにかく任天堂は凄いのだ。