1)
安眠を破るけたたましい音が、アネモネ魔法学院の敷地内にある女子寮の中に響きわたる。
「 な?何?」
「 あぁ、ついに、私にも後継者が…。うふ、うふふふふ。」
この騒がしい状況でも、自分の世界から戻ってこないタフィに、呆れた視線を送りつつ、クオラは、確認のために部屋の外に出ようとする。
「 ちょっと、確認してくるわ。タフィさんは、ここにいて。」
当学院中等部一年ウンディーネ組のクオラ・バロニア・ティルル・ポエニカは、室内にしゃべる風船で自称、大魔導士のタフィ・テックス女史を残し、部屋から廊下へと飛びだした。
夕食過ぎのこの時間にしては、やけに女子の人口密度があがっている廊下に、氾濫した川のように、無防備のクオラを巻き込みながら、人混みの波が通り過ぎる。
「 やけに騒がしいけどぉ?どうしたの~?」
あまりに戻らないクオラを心配して、タフィが廊下に出たときは、すでにもぬけの殻となっていて、寮内は静寂を取り戻していた。
「 あ?あれれ???」
そんな戸惑うタフィに、あっ、ふ~せんさんだぁという幼い少女の声が掛かり、ぽてぽてと声の主が、タフィに向かって近寄ってきた。
2)
その一方で、人の波に巻き込まれたクオラといえば、なぜか、寮住みの女子のほぼ全員が集っている 大浴場の更衣室に流されてきていた。
「 ぃ…、痛たたたた…。何だってのよ?みんな。」
クオラは、非難するような視線で、近くにいる女生徒に、事の次第を問いただした。
「 あ、クオっち。痴漢だって。」
そうか、そうか、モンスターでも侵入したのかと思ったら、ただの痴漢かぁ。よかった、よかった。と、クオラは気が抜けたような笑みを、彼女に見せて、思いを口に出した。
「 なぁんだ。痴漢かぁ~…。」
「 なぁんだじゃないわよ。クオっち。ちかんよ?痴漢。」
そう女生徒に窘められて、しばしの沈黙の後で、事の重大さに今更ながら気が付いたクオラは、
「 ……って?!ぇえっ!痴漢~っ!!!」
と、思わず叫びそうになったのだが、
「 私たちのパンツ、盗んだでしょ…。」
「 知らないよ。」
やめて、これ以上は、命の危険が…という少年の声がしばらく続き、少年にリンチをすませて落ち着いた少女たちの声が聞こえてくる。
「 じゃあ、何で更衣室に隠れてたのよ~?」
「 だから、お嬢を探してたんだって…。」
「 誰よ?お嬢って…。」
などと漏れてくる言葉の断片から、何らかのボタンの掛け違いがあったようだ。
「 じゃあ、盗まれた下着は、誰が盗ったのよ?」
女生徒の一人が、少年に問いただしていると、再び、緊急アラームのような不協和音が、寮内に鳴り響いた。
今までのヘタレた様子から一転して、少年は少女たちに対して、不協和音に対抗するように叫ぶ。
「 全員、耳を塞げっ!」
少女たちは戸惑いながらも、彼の指示通りに耳を塞いだが、彼の支持を守らなかった少女たち数名には異変が生じる。
そして、少年を、問い詰めていたリーダー格の少女も例外ではなかった。
「 ぃや…。何?なんか、ぃい。」
顔が火照ったように赤く染まり、挑戦的で勝気な視線が、扇情的で蠱惑な視線へと変化していき、自ら、衣服をはぎ取って、少年の目の前で、ストリップを演じていく。
「 ちっ!奴の魔奏にやられたか。」
そう言って、少年は、更衣室の天井に視線をうつした。
3)
耳を塞ぎながら、クオラも少年の視線を追って、更衣室の天井へと目を移すと、そこには異形が仁王立ちで、逆さまに立っていた。
「 やっぱり、ファウナリアか。」
山羊の下半身と、一本角が額から延びた金髪の美少女の上半身を持った怪物ファウナリアは、片手に特徴的なアーチ橋のような楽器を、もう片手に大きな袋を抱えて、
ストリップを演じる少女たちを、その清楚な上半身に似合わぬ、エロいおっさんじみた粘着質の視線で、鑑賞しているようだった。
「 ファウナリア?」
ちょうど、不協和音も止んだみたいなので、塞いでいた耳を開放させたクオラが、少年の言葉を疑問をくわえて反芻させると、
「 女性版のパーンみたいなものね。女性の下着を好んで、収集するクセがあるらしいわよ。」
と、隣で聞き覚えのある声がする。タフィの気配だけを感じ、彼女を見ずに声をかけるクオラは、
「 え?タフィ?部屋から出てきちゃって、大丈夫なの?」
なんて、思わず大声を出しそうになったが、チュニックの裾を引っ張る感触で、クオラは、タフィともう一人を視界に捕らえた。
「 ばるふらん、たしゅけてなの。おねぇちゃ。」
瞳を上目づかいに潤ませてクオラを見つめる幼女の手に、タフィがしかと握られていた。
しかも、たすき掛けに、例の風船魔法とかいう謎の術に不可欠な革のポシェットも、小さな肩から掛けてもいる。
「 みんな、ファウナリアに、視線が集中しているからね。部屋から出ても、平気よ。」
幼女の視線までにクオラは腰を落として、はずませるように手の平で、幼女の頭をなでながら、安心させるかのような笑顔で答える。
「 おねがいなの。」
幼女は、泣きそうな、こそばゆそうな表情から、肩に掛けていた革のポシェットを外して、クオラに手渡した。
「 うん、わかったわ。何とかしてみるね。」
決意の瞳で、クオラは革のポシェットを受け取り、ロックを外すと、中から風船を取り出した。
【来週あたりに、つづく】
安眠を破るけたたましい音が、アネモネ魔法学院の敷地内にある女子寮の中に響きわたる。
「 な?何?」
「 あぁ、ついに、私にも後継者が…。うふ、うふふふふ。」
この騒がしい状況でも、自分の世界から戻ってこないタフィに、呆れた視線を送りつつ、クオラは、確認のために部屋の外に出ようとする。
「 ちょっと、確認してくるわ。タフィさんは、ここにいて。」
当学院中等部一年ウンディーネ組のクオラ・バロニア・ティルル・ポエニカは、室内にしゃべる風船で自称、大魔導士のタフィ・テックス女史を残し、部屋から廊下へと飛びだした。
夕食過ぎのこの時間にしては、やけに女子の人口密度があがっている廊下に、氾濫した川のように、無防備のクオラを巻き込みながら、人混みの波が通り過ぎる。
「 やけに騒がしいけどぉ?どうしたの~?」
あまりに戻らないクオラを心配して、タフィが廊下に出たときは、すでにもぬけの殻となっていて、寮内は静寂を取り戻していた。
「 あ?あれれ???」
そんな戸惑うタフィに、あっ、ふ~せんさんだぁという幼い少女の声が掛かり、ぽてぽてと声の主が、タフィに向かって近寄ってきた。
2)
その一方で、人の波に巻き込まれたクオラといえば、なぜか、寮住みの女子のほぼ全員が集っている 大浴場の更衣室に流されてきていた。
「 ぃ…、痛たたたた…。何だってのよ?みんな。」
クオラは、非難するような視線で、近くにいる女生徒に、事の次第を問いただした。
「 あ、クオっち。痴漢だって。」
そうか、そうか、モンスターでも侵入したのかと思ったら、ただの痴漢かぁ。よかった、よかった。と、クオラは気が抜けたような笑みを、彼女に見せて、思いを口に出した。
「 なぁんだ。痴漢かぁ~…。」
「 なぁんだじゃないわよ。クオっち。ちかんよ?痴漢。」
そう女生徒に窘められて、しばしの沈黙の後で、事の重大さに今更ながら気が付いたクオラは、
「 ……って?!ぇえっ!痴漢~っ!!!」
と、思わず叫びそうになったのだが、
「 私たちのパンツ、盗んだでしょ…。」
「 知らないよ。」
やめて、これ以上は、命の危険が…という少年の声がしばらく続き、少年にリンチをすませて落ち着いた少女たちの声が聞こえてくる。
「 じゃあ、何で更衣室に隠れてたのよ~?」
「 だから、お嬢を探してたんだって…。」
「 誰よ?お嬢って…。」
などと漏れてくる言葉の断片から、何らかのボタンの掛け違いがあったようだ。
「 じゃあ、盗まれた下着は、誰が盗ったのよ?」
女生徒の一人が、少年に問いただしていると、再び、緊急アラームのような不協和音が、寮内に鳴り響いた。
今までのヘタレた様子から一転して、少年は少女たちに対して、不協和音に対抗するように叫ぶ。
「 全員、耳を塞げっ!」
少女たちは戸惑いながらも、彼の指示通りに耳を塞いだが、彼の支持を守らなかった少女たち数名には異変が生じる。
そして、少年を、問い詰めていたリーダー格の少女も例外ではなかった。
「 ぃや…。何?なんか、ぃい。」
顔が火照ったように赤く染まり、挑戦的で勝気な視線が、扇情的で蠱惑な視線へと変化していき、自ら、衣服をはぎ取って、少年の目の前で、ストリップを演じていく。
「 ちっ!奴の魔奏にやられたか。」
そう言って、少年は、更衣室の天井に視線をうつした。
3)
耳を塞ぎながら、クオラも少年の視線を追って、更衣室の天井へと目を移すと、そこには異形が仁王立ちで、逆さまに立っていた。
「 やっぱり、ファウナリアか。」
山羊の下半身と、一本角が額から延びた金髪の美少女の上半身を持った怪物ファウナリアは、片手に特徴的なアーチ橋のような楽器を、もう片手に大きな袋を抱えて、
ストリップを演じる少女たちを、その清楚な上半身に似合わぬ、エロいおっさんじみた粘着質の視線で、鑑賞しているようだった。
「 ファウナリア?」
ちょうど、不協和音も止んだみたいなので、塞いでいた耳を開放させたクオラが、少年の言葉を疑問をくわえて反芻させると、
「 女性版のパーンみたいなものね。女性の下着を好んで、収集するクセがあるらしいわよ。」
と、隣で聞き覚えのある声がする。タフィの気配だけを感じ、彼女を見ずに声をかけるクオラは、
「 え?タフィ?部屋から出てきちゃって、大丈夫なの?」
なんて、思わず大声を出しそうになったが、チュニックの裾を引っ張る感触で、クオラは、タフィともう一人を視界に捕らえた。
「 ばるふらん、たしゅけてなの。おねぇちゃ。」
瞳を上目づかいに潤ませてクオラを見つめる幼女の手に、タフィがしかと握られていた。
しかも、たすき掛けに、例の風船魔法とかいう謎の術に不可欠な革のポシェットも、小さな肩から掛けてもいる。
「 みんな、ファウナリアに、視線が集中しているからね。部屋から出ても、平気よ。」
幼女の視線までにクオラは腰を落として、はずませるように手の平で、幼女の頭をなでながら、安心させるかのような笑顔で答える。
「 おねがいなの。」
幼女は、泣きそうな、こそばゆそうな表情から、肩に掛けていた革のポシェットを外して、クオラに手渡した。
「 うん、わかったわ。何とかしてみるね。」
決意の瞳で、クオラは革のポシェットを受け取り、ロックを外すと、中から風船を取り出した。
【来週あたりに、つづく】