Stelo☆ panero

変態ですがよろしくお願いします。更新は気分次第、気の向くままに。新題名は、エスペラント語で、星屑という意味だったり。

【風船魔導士 クオラ】 六時限目 笑顔

2015-11-21 11:10:11 | 妄想小説
1)

 その女の子の視線までに、私は腰を落として、はずませるように手の平で、幼女の頭をなでながら、安心させるように、笑顔を見せた。
「おねがいなの。」なんて、泣きそうに頼まれちゃったら、仕方がない。私は、ため息を一つ、吐いて、彼女から革のポシェットを受け取ると、

     「 うん、わかったわ。何とかしてみるね。」

女の子の瞳を正面から安心させるように見つめ、ロックを外す。中から出てきたのは、オレンジ色の風船だった。

2)

 この世界の七不思議の一つに、モンスターの発生要因の問題がある。そもそも、モンスターの発生については、生物から生じる様々な負の因子を核として、その核が大量の魔素をまとって具現化した存在がモンスターであるという、王立魔学分析院の魔学者アリスティアの負核因子仮説を主張する非生物派と、生物学者ヴェンデが唱える、モンスターとは、魔素が少ない環境が生んだ、大量の魔素の元となる新種の生物であるという生物派の二派閥に分かれて、喧々囂々(けんけんごうごう)の論戦が行われているということは、授業で聴いて知ってはいたものの、そのとき、更衣室にたむろする女生徒の集団の中で、少女は、まさかという思いに捕らわれていた。現在、寮生活で相部屋に住んでいる彼女の実家の個室には、女子の下着がたくさんある。それだけ聞くと、何だ当たり前じゃないかと思われる読者諸氏もいるかと思われるが、その全てが盗品だと言ったら驚かれるだろう。その盗品の下着を見ながら、自慰行為に耽(ふけ)るのが、少女の密かな楽しみだったし、まず疑われるのは男性でばれることもなかったのだが、今は相部屋ということもあって、かなり禁欲的な日々を送っていた。ファウナリアが現れるまでは、少女はウツウツとした日々を送っていたのだが、ファウナリアが現れてからは、不思議と、そのストレスからは開放されている。

「 まさか、この痴漢騒ぎは、私のストレスのせいじゃないわよね。」

 と、自らを安心させるように呟くが、あのファウナリアとかいうモンスターの上半身、しかも、顔の部分は、よく見ると少女に生き写しだったりしてるので、彼女の知己なら、すぐに気付かれるかもしれないと、嫌な汗が背中を伝った。
 まずいっと思った瞬間。少女と相部屋をしている女生徒に、ファウナリアが襲い掛かった。

3)

  「 きゃああああぁっ!」

 更衣室に裂帛の悲鳴が響き渡り、たちまち少女たちはパニックを起こした。だが、更衣室のカギは、痴漢防止のためのロックが、外から勝手にかけられて、脱出不可能の状況だったため、必然的に出入り口近くに女生徒たちが密集することとなる。

  「 なんだ?こいつ、急に凶暴に…。」

 そんな中、背中に、ファウナリアに襲われそうになった女生徒を庇いながら、痴漢と間違われた少年は、大剣を盾にその幻獣に応戦していた。

  「 ま、魔法が出ない…。」

 少年の背後にいる少女たちから絶望的な声が伝わってくる。

  「 ちっ!幻獣が現れると生じるという【魔女の狩場】か。」

 少年は、舌打ちながら、大剣を薙(な)ぎ、ファウナリアを牽制しつつ、正眼に構えなおした。

  「 ここは、勇者の出番だな。」

 少年は、好戦的に微苦笑した。

4)

すぅ、ぷぅぅぅぅ~~~~~~っ!!!
すぅ、ぷぅぅぅぅ~~~~~~っ!!!
すぅ、ぷぅぅぅぅ~~~~~~っ!!!

 下着フェチの少女が、悶々とし、少年が大剣を構え、ファウナリアと戦おうと火蓋を切ったとき、クオラは、風船に息を吹き込んで、丸く大きくふくらませていた。

すぅ、ぷぅぅぅぅ~~~~~~っ!!!
すぅ、ぷぅぅぅぅ~~~~~~っ!!!
すぅ、ぷぅぅぅぅ~~~~~~っ!!!

 やがて、上半身を隠すほど、巨大にふくらんだ風船から、一旦、口を放して、クオラは、タフィに尋ねた。

 「 ねぇ、タフィ。これくらいの大きさでいいの?」

 「 ん~?もっと、いいわよ。クオラちゃんの背丈を越えるくらい。」

 「 り(ょうかい)。」

 クオラは、再び、深呼吸をすると、風船の吹き口に愛らしいくちびるを密着させた。

すぅ、ぷぅぅぅぅ~~~~~~っ!!!
すぅ、ぷぅぅぅぅ~~~~~~っ!!!
すぅ、ぷぅぅぅぅ~~~~~~っ!!!

5)
 クオラが呑気に風船をふくらましているころ、少年ヴォルフガング・ユグフレイアは苦戦していた。
 ファウナリアは、自由を奪う魔奏と、猛毒の蹄(ひづめ)による力技を交互に織り込みながら戦っている。

  「 こいつ、ただの幻獣じゃ…。」

 それは、野生の幻獣ではありえない。どうみても、知能がある戦い方だった。

  「 くそっ!魔法が使えたら。魔法剣で止めがさせるのにっ!」

 次第にヴォルフガング・ユグフレイアは、追い詰められていく。

6)
すぅ、ぷぅぅぅぅ~~~~~~っ!!!
ぷぷぷ…っ!ぷはっ!

 「 ふぅ、ふぅ。ぜぇ、ぜぇ。これで、どうよ。」

 クオラは、息切れを起こしながら、自分の背丈を越えるほどに成長したオレンジの風船を、タフィに示した。

 「 充分よ。んじゃ、風船のどこでもいいからキスをして。」

 タフィに言われるままに、オレンジの風船の大きく膨らんだ腹に、チュッっとキスをすると、キスした個所を起点に大輪の花が咲くように魔方陣が展開していき、ふわりと重力を無視して巨大な風船が宙に浮いていく。

 「 ふわっ!浮かんだぁ。」

 「 うん、魔法の風船さんにキスすると、宙に浮くわよ。今度は、あの剣士さんの元に飛んでいくよう念じてみて?」

 「 うん…。(あの剣士さんの元へ、飛んでけ~~~。飛んでけ~~~~。)」

 クオラの念を受けた魔法の風船が、少年剣士に向かって飛んで行った。

7)

 ふわりふわりと、宙に浮かんでいたオレンジ色の風船が、戦闘中のヴォルフガングの大剣の切っ先に、その死角から当たった。
 ぱぁんと音をたてて割れるかと思いきや、フラッシュを焚いたように、オレンジの光の奔流が、少年もファウナリアもまとめて飲み込んでいく。

8)

 その戦いの一部始終を、下着フェチの少女も見ていた。
 ファウナリアが止めを刺そうとした瞬間。少年ヴォルフガングとファウナリアを飲み込んだオレンジの光の球が、豆粒大に収縮し、少女の胸を刺し貫いた。

 「 あっ!あああああっ!」

 とてつのない多幸感が、少女の心を満たしていくと、ぷつりと少女の意識は途絶えた。

9)

 一段落がついて、クオラが幼女の手を引いて、少年の元に駆け寄ると、無理もないことだが、鳩が豆鉄砲をくらったような表情を、その剣士の少年はしていた。

 「 いったい、何が起きたんだ?止めを刺そうとしたファウナリアが消えた…。」

 どうやら、オレンジの光球に捕らわれたことは、彼の記憶にないらしい。

 「 ばるふらぁん。」

 幼女は、舌足らずな声で彼の名を呼ぶと、感極まって、駆け寄っていく。

 「 お嬢?」

 クオラも二人の様子を見守りながら、幼女に声をかけた。

 「 よかったわね。無事で。」

 「 ありがとぉなの。おねえちゃん。ふーせんさん。」

 そうして、女の子は、この日一番の笑顔を見せたのだった。

【来週につづく】