1)
人づてで聞いた伝聞では、薬草部のアリエル騒動から間も無くして、件の犯人は、秘密裏に処刑されたらしい。今は新しい教諭が、彼女の後釜として、薬草部の顧問を務めているし、忙しすぎる教師の勤務体制は見直され、副担任も増えている。だが、アルギナ・アルカ中毒者は、減ってはいない。
『 嫌な現実から逃げ出したい…とか、何でもいいから、ストレスを解消したいっていう人種は、
いつの時代も、一定数存在するからね。
そんな社会システムそのものを改善しない限り、アルギナ・アルカ中毒者は、無くならないよ。』
というのが、件の犯人の遺言だったという。
「 なんかさ。すっきりしない事件だったよね。」
放課後、人通りが多い舗道を歩きながら、クオラは指に絡めた紐を結わえて浮かんでいる風船のタフィに話しかけた。
ぱっと見、魔法陣が表面に浮かんだ、ただの大きめな風船だが、その正体は、遥か昔に栄えた古代文明の大魔導師というタフィは、
「 まぁ、あたしの時代にも、そういう人いたからねぇ。」
と、仕方ないよとため息交じりに、クオラに答えている。
「 タフィは、そういうときには、どうしていたの?」
ふと、気になったクオラは、タフィに尋ねてみると、風船遊びをして、解消していたらしい。
流石、いつのまにか、風船になっていたタフィ、……………らしいというか、なんというか。
その後も他愛もない話を、タフィとしながら、クオラは女子寮に帰ったのだった。
2)
まったくもって上手くいかない。
生物から生じる様々な負の因子を核として、その核が大量の魔素をまとって具現化した存在がモンスターであるという、王立魔学分析院の魔学者アリスティアの負核因子仮説を主張する非生物派と、生物学者ヴェンデが唱える、モンスターとは、魔素が少ない環境が生んだ、大量の魔素の元となる新種の生物であるという生物派の二派閥に、モンスターの発生要因は別れているが、その片方、非生物派を支持する秘密結社【アレスティアの信者(アリスティア・クレデェード)】の枢機卿は、苛立っていた。
魔法学院の学生くらいの年齢の少女にターゲットを絞って、彼らの学説が正しいことを、立証しようと暗躍しているものの、なぜか、正体不明の邪魔が入り、芳しい成果が得られていないのが、現状だった。
何か良い手はないか…。
枢機卿は、次の手を考え始める。
【つづく】
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