1)
左手の革製のポシェットから出てきたのは、しぼんだ青色の風船だった。
「 ふうせん……???」
絶対絶命の事態に、何か武器なり魔力を回復させる薬品なり出てこないかと、一縷の望みを託して、
この宝物庫の奥に、大事そうに隠し扉の中にあった宝箱から出てきた革製のポシェットの中から出てきたモノは、
「 何の変哲もないふーせんじゃない?!」
という、しょぼいというか、何の足しににもなりそうもない玩具だった。
ぐるるると唸るレッドドラゴンの、巨大な口から見える牙の隙間から、チロチロと炎が漏れ出ている。
「 あああ。もう、ダメ。」
クオラと、一緒の班を組んでいた魔法科の女生徒は、天を仰いだ。
それは、クオラも同じで、思わず、ダンジョンにツッコミを入れてしまった。
「 ど、どうしろっていうのよ~~~っ!」
と、そのとき、はらりとクオラの足元に、古ぼけた羊皮紙のスクロールが、落ちてきた。
「 何だろ?この紙?なになに…?」
その巻物は、【風船魔法入門】と記されたものだった。
「 【風船魔法…、にゅうもん】????」
クオラは、その巻物に記された文章を目で追った。
2)
『 【風船魔法入門】
やっほぉ♪よい子のみんなげんきかなぁ。ふうせんだいすきだいまどうしのたふぃおねえさんだよぉ♪
きょうは、よいこのみんなに、とっておきのまほうをおしえちゃうぞ💛
おねえさんが、こうあんしたふーせんまほうだよん♪ みんなぁ、ちゃぁんとおぼえてねぇw』
……って!ふざけてんのか、この人。クオラは、手をふるわせながら、巻物を読み進めていくと、
「 これって…。」
巻物の中の一文に、括目し、息を飲んだ。
3)
確か、魔法剣士科の子も、同じ班だったはずだけど????
そう思い出しながら、周囲を見渡すと、たった独りでレッドドラゴンに立ち向かおうとしている男子生徒がいる。
もし、この巻物を信じるなら、彼の助力が必要だ。
「 彼には悪いけど、今のうちに…。」
クオラは、思いっ切り息を吸い込むと、しぼんだ青い風船の吹き口に、口づけた。
【つづく】
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