最近は、音楽関係の映画を観ることにしていて、これもその一環です。
現場一筋30年の鬼刑事が警察音楽隊に人事異動される、という驚愕の組織内いじめで真逆の職場に飛ばされるというのがテーマ(だろうと思う)。阿部寛演じる主人公は組織を無視し、自分の勘と脚で捜査する古いタイプ。阿部寛が演じると凄味というよりもどことなくソフトな印象があります。これは『テルマエ・ロマエ』の残像かも知れませんが、そこがこの映画を深刻さから救っているのかも知れません。
それはともかく、そんな昔気質の刑事は現在の組織においては、所詮、パワハラ・デカでしかありません。まるで冗談のようにいきなり飛ばされます。私は、警察もその音楽隊のこともよく分かりませんが、映画はコメディーでありながら、組織の持つ冷たさをさらりと描いてるあたりはさすがでした。
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主人公は、刑事畑から音楽隊というまったく知らない世界に戸惑います。しかも、全員やる気がない。怒りや反発が先に立ち、馴染むことさえできません。アマオケではこのようなことはあり得ないと思いますが、大きな組織にはありがちなことです。
異動してきた職場で、前の職場のことばかり言う人がいます。前の職場ではこうだった、こうしていた、それなのに云々…
おっと!愚痴になってしまったかな(笑)。
主人公は過去の栄光(多分に思い込み)とみじめな現在(ドラムを叩く自分)にどう折り合いをつけていくのでしょうか。この葛藤やいかに!
定年後の私には(もう人事異動はないし、従って左遷もないし)関係のない映画だと思っていたら、人生のステージが変わるということには変わりなく、やっぱり他人事ではないなあ、と感じ入ったしだいです。
阿部寛のドラムをはじめ、キャストの演奏ぶりは堂に入ったもので何の不安も感じず見入ることができました。
しかし、正直、私の中では『オケ老人』と『PLAN75』がいっしょになってしまったようで、倍賞美津子が出てきた時点ですでに落涙の不覚。歳を取ると涙腺が弱くなるのですね。後は見てのお楽しみ、です。∎
『異動辞令は音楽隊!』原案・脚本・監督:内田英治
出演:阿部寛(成瀬司)、清野菜名(来島春子)、磯村勇斗(坂本祥太)、光石研(五十嵐和夫)、高杉真宙(北村裕司)、倍賞美津子(成瀬幸子)、見上愛(成瀬法子)など.
製作:2022年、「異動辞令は音楽隊!」製作委員会.119分.
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