かりんとう日記

禁煙支援専門医の私的生活

気づき・涙・解放

2012年07月30日 | 昼下がりの外来で
子宮がんで入院中の48歳の患者さん。
禁煙外来をみずから希望して受診。
入院直前までタバコを吸っていたとカルテに書いてある。


「入院中はタバコ吸わずにいられてるんですけど、このあと退院したりした場合、吸っちゃうんじゃないか心配なんです」

『入院中と退院したあととでは、何が違うのかしら?』

「病院は禁煙だし、入院中はタバコを買いに行けないし…」

『病院に監禁されているわけじゃないんたから、隣のローソンまでタバコを買いに行こうと思えば行けるでしょう?』

「まぁそうですね(笑)でも看護婦さんたちの目もあるし…」

『ナースたちは禁煙を薦めるかもしれないけれど、四六時中、見張っているわけではないし、吸ったからといって、罰を与えるわけでもないしね』


「家では、犬と私しかいないし、暇だと吸っちゃうんです。何もしないでいるのは苦手なんです」

『入院中のほうがよっぽど暇なんじゃないの?どうしてるの?』

「携帯いじったり、ゲームしたり…」

『家でだって同じことするわよね?』

「はい…」


『さて…何が心配なのかしらねぇ?環境的には病院も家もかわりないことがわかったわよね。タバコはやめたほうがいい、やめたいっていう気持ちもあるのよね?』

「それはもちろん。うーん、どうしてかしら…」


『あのね、禁煙の環境にあるとかないとか、見張ってる人がいるとかいないとか、自分の意思が強いとか弱いとか、そういうことじゃないの。あなたが不安になっている理由はただひとつ。依存症っていう病気だからってこと。すごーく単純。ニコチンの依存症だってことだけなの。とってもシンプルに考えればいいの。今回、大変な病気になってしまって、色々悩んだでしょう?治療も頑張ってるのよね?だから、今はタバコなんて吸う気は遠のいているかもしれないけれど、人によっては、手術でお腹切って痛くて動けないのに、這ってでもタバコ吸いに行きたくなっちゃう人もいるのよ。タバコってそういう病気なの。』


ワタシの話を聞いていた彼女はポロポロと涙を流していた。

「どーして涙が出てきたのかしら」と、最後は爽やかな笑顔で病室へと帰っていった。



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