かりんとう日記

禁煙支援専門医の私的生活

夫婦の問題

2015年06月16日 | 昼下がりの外来で
禁煙外来に、奥さんを伴って受診される方が時々いらっしゃる。

この逆パターン(禁煙治療を受ける人が女性で、パートナーの男性が付き添ってくる)は、今まで記憶にない。


昨日初めて受診されたKさん60代男性。

診察室の呼び出しコールをすると、ご本人の後ろ3歩遅れて、奥様らしき方が一緒に入ってこられた。

するとKさん、こちらと挨拶する間もなく、いきなり後ろを振り返り、奥様に「なんだよ、一緒に来るんかよ。いいよ、ひとりで!信用してねえな」と、こんな暴言を吐いた。


『どちらでもいいんですけれど、ご本人が1人のほうがよろしいというのでしたら、そうなさってくださいね~』


派手な紅色のサマートップス姿の奥様は苦笑いしながら、「1人でいいのね?はいはい。わかりました。じゃあ、よろしくお願いします」と、待合室に戻っていかれた。



まあ、わからないでもない。
Kさんのみならず、聞けば、同居している30代の息子さんも、家の中ところかまわず、ずっとスパスパやっているらしい。

「いいかげん、年取ってきたんで、やめなくちゃいけないと思い始めて・・・朝、咳もだいぶ出るし、仕事していても、すぐ息が切れてしまうんです。親戚が、こちらで禁煙できたって聞いたんで・・・」

自覚症状が出はじめて、やっと病院を受診する気になった夫。
やっと巡ってきたチャンス。
奥様としては、逃げ出さないようにしっかりと夫を捕まえて、どうにかこのまま禁煙させたいという一心で付き添っていらっしゃったのだ。



ご主人のほうも、「うまくいくだろうか?失敗したくないな」という不安が当然あるから、奥さんを伴って病院に来たわけで。


でも、その一方で、きっと今までさんざん奥さんからタバコ臭いだの、禁煙しろだの言われてきて、「もう、言わなくてもいいよ!じゅうぶんわかってるんだから!」という気もちもあり、つい、診察室でこんな暴言を吐いてしまったのだろう。


まるで、お母さんに甘えたいのと、自分でできることを示したいのとが混在して、ダダをこねてる5―6歳の坊やと一緒だね(笑)


親戚の人も使ったというチャンピックスをご希望されたので、服用の仕方や、嘔気や眠気が出る可能性があること、眠気は薬の作用のほか、禁煙そのものでも生じる傾向があるので、服用開始2週間めくらいまでは車の運転はしないほうがよいことを説明した。

禁煙を始めると、眠気以外に、気分が少し落ち込みやすくなる。
これは、ニコチンによるドパミン放出刺激に脳が慣れてしまっているからなのであるけれど、通常は2ヶ月以内くらいで改善する。

しかし、チャンピックスの副作用として鬱症状の出現が報告されていて、海外では自殺者の報告もある。


『出かけるのがおっくうになったり、なんとなく気分が落ち込んだりしてきたら、薬をやめたほうがいいこともあるので、すぐ連絡してくださいね。ご自分ではわからず、まわりにいる方が変化に気づくこともありますから、ご家族にはそういう副作用がありえる薬を飲み始めたことを説明しておいてくださいね』


奥様の協力も必要ですよ、奥様に助けてもらうことは恥ずかしいことではないんですよ、という意味をこめたつもりである。


世間では、ひとんちの夫婦間の問題には首を突っ込むなというのが常識なのだと思うが、こういう仕事をしていると、首を突っ込まざるをえないことも、しょっちゅうである。

まあ、せっかく巡り会った赤い糸で繋がっているパートナーなのだろうから、タバコなんかに邪魔されることなく、もっと人生の本質的なところで、ふたりの大切な時間を共有してもらいたいものであ~る。




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