かりんとう日記

禁煙支援専門医の私的生活

それぞれの理由

2010年12月12日 | がん病棟で
「同じ年だよ。(いやになっちゃうなぁ)」

「とうとう自分より年下の人を診るようになっちゃったよ」


年上のドクターが、時々患者さんのことをこんなふうに言っているのを聞いていた。

もちろん、患者さんと言ったって、風邪ひきなんかじゃない。
肺がんの患者さんのこと。

がん年齢と言えば、だいたい70歳台、というのが学生時代の認識だった気がする。
日本人の死因の第一位は脳血管障害で、がんは胃がんが一番多かった時代。
小児がんを除けば、がんは高齢者がかかる病気だった。

ところが、がんが死因の第一位となり、肺がんが胃がんを追い抜いたと思ったら、いつしか若年者肺がんという研究カテゴリーができた。
そして理由はよくわからないが、今や30~40歳台の肺がん患者さんは決して珍しくなくて、自分と同年代、あるいは自分よりも年下の患者さんを診るようになった。

しかし、「珍しくない」などといえるのは、日常的かつ専門的にがん治療に携わっているからであって、一般的にはまだまだ「特殊」なケースとされることが多いと思う。
がんは患者のみならず、彼(女)を取り巻く人々を、悩み苦しませるものだが、この「特殊」な場合においては、70を過ぎてから患う場合とはまた異なった悩みが深く関わる。
その苦悩の根源にあるのは言わずもがな「(死ぬには)まだ若い」だ。


ここ数日、Mさん(37)のことを考えると、憂うつになった。
治療が奏功しないばかりか、病気が悪くなっていることについて、彼や家族と、そこんところの肝心な話ができていなかったからだ。

こういう時はとにかく、腹を割って話をするしか方法はない。


電話をして、奥様とお母様に来ていただき、現状と今後のことを話し合った。
厳しい現実をわかっているつもりであっても、お互いの苦悩を思いやるあまり、その現実を直視できずに立ち往生してしまっている。

面談室で話をしながら皆で泣いた。


面談が終わってナースステーションに戻りながら、同席していたナースがワタシに言った。

「センセイも、もらい泣きしちゃいましたね」


もらい泣きではない。
ワタシの涙にも、妻や母同様、理由があるのだ。
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