その昔、恩寵タバコというのがあった。
菊の御紋がついたタバコで、天皇陛下からのご褒美として配られていた。
「こう見えても俺は大工なんサア。出初式ってのがあるでしょ?梯子昇って逆立ちしたりするやつ。20代の頃に、天皇陛下の前でなんどかやったことあるんさね」
71歳。
食道がんの手術を予定していて、禁煙外来を受診。
「梯子のてっぺんで、仰向けに寝る技は俺しかできなかったんで、県の代表で3度も行ったよ。初めてのときにもらった恩寵タバコは先輩に取られちゃったけど、2度目や3度目は天皇陛下と喋ったりして何箱ももらったから、せっかくだからってんで、吸い始めたのがきっかけだね」
戦争で徴兵されて、そのとき配給されたタバコがきっかけで喫煙者になったという話もよく聞いた。
喫煙者や子どもたちからの「どうしてそんな悪いもん、国は売るんだろうね?」という問いかけには、私はいつも「売っていても、買わなければいいんです。はまっちゃってるから買わざるをえなくなるわけで・・・買う人がいなくなれば、売られなくなります」と答えたりしてきたけれど、国から配給されていた時代のことを考えると、素直に「国が悪い」と言いたくなる気持ちもわかるのだ。
さて、御前出初式の話。
「昭和天皇は、黄色に光ってたよ。ぜんぜん違うね」
黄金のオーラをまとっていらっしゃったという天皇陛下と、どんなお話をされたのか?
「あんな高いところにのぼって、こわくないですか?と聞かれたんで、落花生頭だからなんともありませんと答えたんさ」
らっかせい頭?
「こうやって頭を振ると音がするんですと天皇陛下の前で頭を振ってみせたら、陛下は耳を近づけて一生懸命音を聞こうとなさってた。あとで御付の人に、あんなふうに冗談を言ってもらっては困りますと注意されたよ(笑)」
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