アジア映画巡礼

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TIFF Day 2:『セルロイド』と”キョンシー”復活!

2013-10-18 | 映画祭

IFFJとTIFFのハシゴも今日が最後です。IFFJで見たのは、楽しみにしていたカマル監督のマラヤーラム語映画『セルロイド』 (2013)。当時はトラヴァンコール藩王国だったケーララ州のマラバール海岸地方で、初めて映画を撮ったJ.C.ダニエルの伝記映画です。主演のダニエルをプリットヴィーラージが演じ、最後には成長したその息子役も演じるという、1928年から数十年にわたる物語となっています。

前半は、ダニエルがムンバイにやってきて、「インド映画の父」と言われるダーダーサーヘブ・ファールケーに教えを請うところから、息子を主演に初めての映画『いなくなった子』を撮るまでを描き、後半はのちに彼の伝記を書くことになるチェランガト・ゴーパーラクリシュナンが彼を訪ねていき、なぜ彼が映画界を離れたのか、という事情を調べる姿を描きます。ゴーパーラクリシュナンには、アラヴィンダン監督作品などでお馴染みのシュリーニヴァーサンが扮し、手堅い演技を見せてくれます。

さらに素晴らしい演技を見せてくれたのは、マラヤーラム語映画初の女優とも言えるロージーを演じたチャンドニという女優さん。ロージーはいわゆる「不可触民」の娘で、舞台に出ていたところからダニエルが起用するのですが、映画を見た上級カーストの人々が彼女の出演に反発、騒ぎとなって映画の上映が中止されてしまうのです。差別を当たり前として受け入れていたロージーが、ダニエル夫妻を始めとする映画人の平等意識に触れて、徐々に自分に自信を持っていく姿をチャンドニは控え目な演技で演じ、また、上級カーストの差別意識が噴出するシーンでは、悲しみとくやしさがないまぜになった表情を見せて、強い印象を残しました。

さて、この映画のあとは六本木に移動し(『セルロイド』の上映時間が違っているという事前アナウンスがあり、実際には17、8分長かったため大あわて!)、TIFFで3本プレス用の上映を見せてもらいました。

タイ映画『マリー・イズ・ハッピー』は、ツイッター映画とでも言えばいいのでしょうか。高校3年生の女の子、マリーが友人と共に卒業アルバムを制作する、という話を軸に、その都度マリーのツイートを画面に出しながら、彼女の身辺に起こる出来事を描いていきます。とはいえその出来事がほとんど現実味のないものばかりで、「現代アジアのティーンエイジャーのファンタジー・ワールド」(公式HP)と言われてみればそうとしか言いようのない内容でした。約2時間で400余りのツイートが画面に出てくるのもうるさいし、クリック音がいちいちするのもうるさくて、私的には「勘弁して~」作品。でも、知り合いのライターさんによると、「若い子にはこういう感覚、ウケるのでは」とのことでした....。

台湾映画『高雄ダンサー』は、台湾の何文薫(ホー・ウェンシュン)監督と韓国のファン・ウチョル監督の共同作品。早稲田大学安藤紘平研究室が製作に関わっており、台・韓・日のコラボレーション作品と言えます。子供時代から仲のよかった男の子2人と女の子1人が、9年後にある事件を起こし、さらにまたその9年後に再会する、というお話です。まず、この男2:女1という組み合わせに使い古し感があり、『GF*BF』のような新しい視点がないのが映画の魅力をそいでいました。そして、上のチラシのヴィジュアルになっているような油絵が、随所に登場します。生身の映像で見せてほしい箇所に油絵のアニメーションがしばしば説明的に使われているのは、予算が少ないからかとは理解できつつも、映画的な興奮が沸いてこなくて残念その2。その他、カンカン照りに放水して「台風」にしたり、海岸線から5メートルほどの所に船が沈んでいることにしたりと、見ていてつらい所がいくつかあったのが残念その3、という、意欲は買うけど...作品でした。

プレス用の上映としては珍しく、始まる前にファン監督(左の帽子姿)とホー監督(チャイナドレス姿)、そして音楽担当のディラン・タイラーが挨拶をしてくれたので期待していたのですが、両監督に才能がありすぎて、映画としてはすべってしまった、というところでしょうか。主演女優の黄克敬(クライ・ファン)の存在感がすごいだけに、彼女の魅力をもっと生かしてほしかった作品でした。

で、本日最後に見たのが『リゴル・モルティス/死後硬直』。監督の麥浚龍(ジュノ・マック)は歌手や俳優としても活躍する人で、これが初の監督作品です。中国語題名は、上記ポスターのように『キョンシー』。そう、1980年代の半ばに一大ブームとなった、『霊幻道士』(原題:彊死先生)シリーズを思い出させる作品なのですね。出演者も、このシリーズに出演した錢小豪(チン・シウホウ)に陳友(アンソニー・チェン)、そして樓南光(ビリー・ロウ)も出演という豪華版です。他の出演者は、惠英紅(クララ・ワイ)、鮑起靜(パウ・ヘイチン)、呉耀漢(リチャード・ン)らで、それぞれ渋い演技を見せてくれます。

中でも、かつては有名スターだったのに、落ちぶれて廃屋寸前の団地に引っ越してくる男を演じる錢小豪が素晴らしいです。彼が住む部屋2442号室についている双子の霊を取り除く話と、事故で亡くなった夫呉耀漢を生き返らせようとする妻鮑起靜、そしてそれを助ける堂守の鍾發(チョン・ファ)という2つの話が進行し、それが最後に収斂していく怖さは、コメディタッチのキョンシー映画とは一線を画しています。21世紀のキョンシー・ホラー映画、といった趣でしょうか。

これを荒唐無稽ギリギリのところで押しととどめ、巧みなカラリングで雰囲気を出したジュノ・マック監督の手腕はたいしたもの。今後の作品が楽しみです。17日の上映ではQ&Aがあったようで、配信されてきたその時の写真を付けておきます。右がジュノ・マック監督、左は本作品をプロデュースした清水崇監督です。Q&A、聞きたかった! TIFF公式サイトにアップされるのを待ちましょう。 

 

 


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