アジア映画巡礼

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『若葉のころ』の台湾

2016-04-27 | 台湾映画

もうすぐ5月ですが、5月にピッタリの台湾映画が公開されます。原題を「五月一號(5月1日)」という作品で、日本語タイトルは『若葉のころ』。「あれ?」と思われた方は、かつてビー・ジーズのファンだったか、あるいはマーク・レスター主演の映画『小さな恋のメロディ』(1971)が好きだった方では、と思います。『小さな恋のメロディ』で流れたのがビー・ジーズの歌う歌「First of May」で、日本では「若葉のころ」というタイトルで発売され、この映画の主題歌「メロディ・フェア」と共に当時の洋楽ヒットチャートを賑わしました。映画『若葉のころ』は、「First of May」の曲が重要なモチーフになっているのです。では、まずは作品のデータをどうぞ。

©South of the Road Production House

『若葉のころ』 公式FB 

2015年/台湾/中国語・台湾語/110分/原題:五月一號

 監督:周格泰(ジョウ・グータイ)
 主演:程予希(ルゥルゥ・チェン)、任賢齊(リッチー・レン)、石知田(シー・チーティエン)、邵雨薇(シャオ・ユーウェイ)、鄭暐達(アンダーソン・チェン)、賈靜雯(アリッサ・チア)

 配給:アクセスエー、シネマハイブリッドジャパン
 配給協力:ニチホランド
 宣伝:村井卓実/梶谷有里/佐々木瑠郁

5月28日(土)より、シネマート新宿、シネマート心斎橋ほか全国順次公開

©South of the Road Production House

ストーリーは現在から始まります。あるクラシック音楽のコンサートに、ピアノ教師の王蕾/ワン・レイ(賈靜雯/アリッサ・チア)は高校生の娘白白/バイ(程予希/ルゥルゥ・チェン)と共に出かけていき、会場で高校の同級生だった林克銘/リン・クーミン(任賢齊/リッチー・レン)を見かけます。クーミンが若い女性と一緒だったので声を掛けずに帰ってきたレイでしたが、離婚して娘や年老いた母と暮らすレイの心には、初恋の人である彼の姿が焼き付きました。クーミンにメールを書いてみたレイでしたが、それを出さないままキープしているうちに、レイは交通事故に遭い意識不明状態で入院することになってしまいます。母のパソコンにキープされたメールを見つけたバイは、それをクーミンに送信してみます。

©South of the Road Production House

クーミンは建築家として成功を収め、若い恋人もいるのですが、彼女に結婚を迫られると煮え切らない態度をとってしまいます。そんな時、初恋の人ワン・レイからのメールが突然届いたのでクーミンは驚いたものの、彼女と会ってみることにしました。ところが、待ち合わせ場所にやってきたのは、高校時代のレイ(ルゥルゥ・チェン二役)にそっくりの彼女の娘バイ。クーミンはレイを病室に見舞いますが、彼女は目を覚ましそうにありません。クーミンは、高校時代の甘酸っぱい初恋の日々を思い出します。

©South of the Road Production House

1982年、高校生のクーミン(石知田/シー・チーティエン)は英語が得意だったのですが、英語スピーチコンテストで一位を獲ったのはワン・レイで、それ以来クーミンは彼女を意識するようになります。若い女性の英語教師陳/チェン先生が、ビー・ジーズの曲「若葉のころ」を訳してみては、と言ってくれたことがきっかけで、クーミンはレイへの思いを込めて訳文を仕上げました。「.....いつか、ほかの誰かに心奪われて、すべては思い出になる。でも、僕は君を忘れない。」ところが、クーミンと友人たちが反発心を抱く生活指導のうるさい教師張/チャン先生(庹宗華/トゥオ・チョンホア)を巡り、ある事件が起きたことから、クーミンはレイと離れざるを得なくなってしまったのでした....。

©South of the Road Production House

台湾映画は、個人史を描く作品が本当に上手です。特にそれが青春時代を振り返ったものだと、もう他国の追随を許しません。これまでにも、1994年~2005年を描いた『あの頃、君を追いかけた』(2011)、1996年を描く『九月に降る風』(2008)、そして1986年を舞台にしたちょっと異色の青春映画『モンガに散る』(2010)など、このジャンルでいくつものヒット作を出しています。今回の『若葉のころ』では1982年が舞台に設定されていますが、その頃の台湾をスクリーンに再現し、俳優たちもその時代の雰囲気をまとった若手を起用して、観客を思いっきりノスタルジアに浸らせてくれます。

©South of the Road Production House

1982年は台湾にとって、その後にやってくる本格的な民主化を準備する、夜明け前のような時期でした。中国との戦闘状態は継続しているものの、文革後の中国は1972年に日本と、さらに1979年にはアメリカと国交を正常化し、日米両国は台湾とは断交状態になります。これにより台湾、つまり中華民国では「大陸反攻(武力による中国大陸の領土奪還)」が非現実的なものとなり、金門島と対岸の中国大陸との間で行われていた「単打双不打(月水金は砲撃し、火木土は砲撃しない)」という形骸化した砲撃合戦も終わりを迎えました。戒厳令下という緊迫感は残りつつも、人々の心は解放に向かい、若者文化も形成され始めて、映画では台湾ニューシネマの時代がやって来ます。本当の意味での民主化が成し遂げられるのは、1987年の戒厳令解除と翌1988年の蒋経国総統(介石の息子)の死去以降ですが、80年代は少しずつ扉が開き始めた時期なのでした。


『若葉のころ』でも、訓導と呼ばれる生活指導の居丈高な教師に対し、クーミンと友人たちが反抗するシーンが出て来ますし、男女交際も開放的になりつつある様子が描かれています。そして、その頃の思い出が現在40歳代後半の主人公たちに強く残っているのも、時代の変化の中にいた記憶が刻み込まれているからではないかと思います。建築事務所を主宰するクーミンは、高校時代の同級生とよく痛飲しますが、当時「死黨(大親友)」であった彼らには忘れられない時代だったのでしょう。なお、訓導を演じているトゥオ・チョンホアと、クーミンの親友を演じている孫鵬(スン・ポン)は80年代の青春映画によく出ていた男優で、こういった配役も台湾の観客にとってはたまらないところです。

©South of the Road Production House

一方で、若手女優の成長株ルゥルゥ・チェンが現代の高校生(こちらにも、いろんなエピソードが詰め込まれています)と、1982年の高校生を演じ分けているのも話題です。上の写真のように髪型もちょっと変えてあり、態度はもちろん大違いの2つの時代の女子高生は、30年の時を経た両方の『若葉のころ』を活き活きと見せてくれます。1982年のクーミンを演じるシー・チーティエンは、大阪アジアン映画祭で上映された『軍中楽園』(2014)にも出演していたそうですが、モデルをしているだけあってとてもカッコよく、この若手二人は今後要チェックです。予告編を付けておきますので、顔を憶えて下さいね。

映画『若葉のころ』予告編 (原題:5月一号)

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ところで、上の文中でも言及した、台湾ニューシネマの時代を振り返ったドキュメンタリー映画も間もなく上映されます。台湾ニューシネマは、1982年のオムニバス映画『光陰的故事』と1983年のやはりオムニバス映画である『坊やの人形』がその出発点と言われ、そこで作品を発表した楊徳昌(エドワード・ヤン)、侯孝賢(ホウ・シャオシェン)、萬仁(ワン・レン)、張毅(チャン・イー)、柯一正(クー・イーチェン)らが活躍していくのですが、ドキュメンタリー映画『台湾新電影(ニューシネマ)時代』(2014)では、彼らの作品に影響を受けた世界の映画監督にインタビューして、台湾ニューシネマの精神を浮かび上がらせて来ます。ニューシネマ作品の映像も随所に使われ、その全貌の一端がわかるドキュメンタリーとなっています。


上の写真は左から、脚本家としてニューシネマに貢献し、のちに監督になった呉念眞(ウー・ニエンチェン)、ホウ・シャオシェン、エドワード・ヤン、ニューシネマより一歩遅れて監督としてデビュー、現在はプロデューサーとして手腕を発揮している陳国富(チェン・クォフー)、作家・評論家であり、プロデューサーでもあった宏志(ジャン・ホンジー)です。まさにニューシネマの監督たちの「若葉のころ」の写真なのですが、この中でエドワード・ヤンだけが鬼籍に入ってしまい、本当に残念です。なお、ドキュメンタリーの中でインタビューに答えている監督たちの名前は、以下のデータでご参照下さい。こちらも予告編を付けておきます。 

『台湾新電影(ニューシネマ)時代』

2014年/台湾/タイ語・中国語・日本語・英語その他/109分/英語題:Flowers of Taipei: Taiwan New Cinema 

 監督:謝慶鈴(シエ・チンリン)
 出演(順不同):侯孝賢(ホウ・シャオシェン)/宏志(ジャン・ホンジー)/蔡明亮(ツァイ・ミンリャン)/賈樟柯(ジャ・ジャンク―)/劉小東(ルオ・シャオドン/画家)/王兵(ワン・ビン)/楊超(ヤン・チャオ)/田壮壮(ティエン・チュアンチュアン)/艾未未(アイ・ウェイウェイ)/応亮(イン・リャン)/舒(シュー・ケイ)/黒沢清/是枝裕和/浅野忠信/佐藤忠男(評論家)/市山尚三(映画祭ディレクター)/アピチャッポン・ウィーラセタクン/オリヴィエ・アサヤス/トニー・レインズ(評論家)/マルコ・ミュラー(映画祭ディレクター) 他

 配給:オリオフィルムズ
 宣伝:トラヴィス

4月30日(土)~6月10日(金)、新宿K's cinemaで開催の「台湾巨匠傑作選2016」で上映/上映スケジュールはこちら 

【映画 予告編】 台湾新電影(ニューシネマ)時代

 



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