12月、1月と続けて、台湾映画の力作が公開されます。しかも、ジャンルの全く違う2本です。1本は雄大なドキュメンタリー映画『天空からの招待状』、もう1本は近代史のドラマチックな1ページを描く劇映画『KANO 1931海の向こうの甲子園』。この2本を見れば、今の台湾映画のすごさがわかる快作でもあります。まず今回は、1週間後に公開される『天空からの招待状』をご紹介しましょう。
『天空からの招待状』 公式サイト
2013/台湾/日本語ナレーション(または)中国語ナレーション・日本語字幕/93分/原題:看見台湾
製作:侯孝賢(ホウ・シャオシェン)
監督:齊柏林(チー・ポーリン)
日本語版ナレーション:西島秀俊
中国語版ナレーション:呉念真(ウー・ニェンジェン)
提供・配給:アクセスエー、シネマハイブリッドジャパン
配給協力&宣伝:フリーストーンプロダクションズ
※12月20日(土)よりシネマート新宿、シネマート六本木、シネマート心斎橋ほか全国順次ロードショー
台湾を上空から撮った映像がぎっしり詰まった作品です。監督のチー・ポーリンは、1990年代に台湾政府の「國道新建工程局」に勤務していた国家公務員で、航空写真を撮ることが業務でした。20年以上にわたる撮影期間中に、彼は自分の愛する台湾が徐々に姿を変えていっていることに気づかされます。そして、講演会などでそれを訴えていたそうなのですが、今一つ人々の胸に響かないことに気づき、それなら自分が目にしたものを見せるのが一番いい、とこの映画の製作を思い立ったそうです。企画から監督・撮影・編集すべてを1人でこなし、3億3,500万という製作費をかけて作り上げた本作は、ドキュメンタリー映画としては台湾で異例のヒットとなりました。また、香港その他諸外国でも上映され、その美しい映像と、郷土愛、未来への警鐘というメッセージに多くの人が心を動かされることになったのです。
(C)Taiwan Aerial Imaging, Inc.
実は私も、この夏香港の映画館で最初に見ました。その時の記事はこちらですが、見に行ったきっかけは「ナレーション:呉念真」という情報。呉念真はご承知のように、侯孝賢監督作品『悲情城市』(1989)等の脚本家でもあり、また自身も『多桑/父さん』(1994)など3本の劇映画の監督もしているほか、俳優としては『祝宴!シェフ』(2013)等に出演、さらに作家でもあるというマルチな文化人なのです。あの渋い声が聞きたい!と映画館に飛んでいったのですが、画面の映像の迫力に圧倒されることになりました。
特に前半の、海、山、森、川、田畑などが次々と登場する場面には息を呑まされます。ナレーションもほとんどなく、ひたすらに芸術作品のような自然と人間の営みの図を見つめ続ける約30分。香港での上映はテロップが一切入っていなかったのですが、日本公開版では台湾での上映版に準じて、一部の景観に場所の説明が入っています。その美しい場面のうち、いくつかをスチールでご覧下さい。
雪山山脈(台湾の背骨のような山脈)(C)Taiwan Aerial Imaging, Inc.
大尖山(墾丁)(C)Taiwan Aerial Imaging, Inc.
三仙台(台東)(C)Taiwan Aerial Imaging, Inc
30分を過ぎるとナレーションが多くなり、やがて台湾の様々な問題点も上空から捉えられていきます。中国語版では呉念真の塩辛声が苦い現実を伝えてくれるのですが、日本語版では西島秀俊の軽やかなナレーションが、空中浮揚感を損なわずに観客に現実を伝えてくれます。私はどちらかと言うと呉念真のアマチュアっぽいナレーションが好みですが、全体としては西島秀俊の声の方がこの麗しいドキュメンタリーには向いているかも。劇場では、どちらも上映されるそうですので、ぜひ聞き比べてみて下さい。
花蓮の清水断崖(C)Taiwan Aerial Imaging, Inc
あと、素晴らしいのはBGM。『セデック・バレ』(2011)に主演したタイヤル族出身林慶台(リン・チンタイ)の歌声を始め、映画の世界をさらに広げてくれる音楽が配されていて、映像と共に音楽にも酔えるようになっています。音楽監督は、『セデック・バレ』でも音楽を担当したシンガポール出身の作曲家何國杰(リッキー・ホー)。リッキー・ホー、前々から気になっていたのですが、どうやら『異域』(1990)の作曲家と同一人物のようです。当時は中華圏ポップスの人気作曲家だったのですが、Ricky Ho とローマナイズ表記で活躍していたため、いまひとつ特定できなかったのでした。プレスのフィルモグラフィーには、『中國龍(チャイナ・ドラゴン)』(1995)やアニメ作品『チャイニーズ・ゴースト・ストーリー スーシン』(1997)は挙がっているのですが、『異域』はなく、IMDbで確認したもののまだ確信がありません。どなたかご存じでしたら教えて下さいね。
関渡平原(C)Taiwan Aerial Imaging, Inc
この美しい映像は、やはり大画面で見るのが一番。中盤以降に登場する水害等の自然災害や、開発による傷痕、公害やゴミ問題などの描写には胸が鋭く痛みますが、それも高所から見た映像が持つ説得力ゆえと言えます。ラストのパートでは、有機農業を推進した頼青松の言葉が引用され、各地の人々が登場します。時にはかなり低空での撮影もあって、それまでの近寄りがたいまでの美しさとは少し趣を異にした、親しみやすい台湾の姿が立ち現れます。
日本統治時代「新高山」と呼ばれた玉山で歌う原住民の人々
(C)Taiwan Aerial Imaging, Inc
私は以前にも書いたように高架鉄道が大好きなのですが、それは高所からの景観が得られるから。その視点をさらに引き上げてくれたのがこの『天空からの招待状』で、鳥か、あるいは大げさに言えば神になった気分でこの大地を見ることができます。台湾好きの方はもちろん、台湾はよく知らないわ、という方も、一度は体験しておいて損のない空中散歩映像です。年末年始のお休みに、ぜひ足をお運び下さい。きっと、台湾に行きたくなりますよ。
<追加情報>
2015年の旧正月元旦は、2月19日(木)となります。この前後の台湾旅行はちょっと大変かも。なお、元宵節は3月5日(木)となりますので、ランタン・フェスティバルはこの日が中心です。巨大なはりぼての中に光が入ったランタンがいっぱい展示されたり、パレードがあったり、空中にランタンを飛ばし上げる行事があったりと、とても楽しい季節です。私もまた行きたいです~。