アジア映画巡礼

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珠玉のドキュメンタリー『コール・ミー・ダンサー』が描くインド①

2024-09-19 | インドを描く映画

今年はインド映画の公開がすでに13本となり、年末までにさらに数本公開される予定です。加えてインド亜大陸に関連する映画、つまりパキスタン映画や、インドとパキスタンを描く欧米映画も数多く公開されて、平均すると月2本ぐらいの映画がインド亜大陸を我々に見せてくれる勘定になっています。そんな中、珠玉の作品と言っていいドキュメンタリー映画が、11月29日(金)から公開されることになりました。タイトルは『コール・ミー・ダンサー』。まずは、そのチラシ画像を見ていただきましょう。

このチラシの、踊る青年の肉体の美しさに、息を呑まれた方もあるのでは、と思います。彼の名前は、マニーシュ・チャウハーン(配給会社表記は「チャウハン」)。ムンバイの東部「ナヴィ・ムンバイ」のジュイーナガルと呼ばれる町に住む彼は、1993年12月28日生まれ。父はタクシーの運転手、母は自宅で仕立物をして家計を助けているという一家の長男です。下に妹がいて、両親は苦しい家計の中からマニーシュを大学に通わせていますが、彼の希望はダンサーになること。テレビのダンス・コンテスト番組で評価され、それがきっかけで誘われてダンス教室に通うようになったマニーシュは、そこでバレエの元ダンサーで今は教師であるイスラエル系アメリカ人、イェフダ・マオールと出会います。マニーシュの天与の才を認めたイェフダは彼を鍛え、クラシック・バレエを教え込んでいきますが、ハイティーンになってからレッスンを受け始めたマニーシュには、努力に努力を重ねても次々と壁が立ちはだかります。一方、イェフダのクラスにはもう一人、マニーシュより数歳若いアーミル・シャーがいましたが、彼はまさに天性のバレエダンサーでした。2人はライバルとして、時には親友として、切磋琢磨を続けていきますが、西洋のものであるバレエをインド人が踊ることの困難さが、常につきまとうのでした...。

上は、試写状に使われた画像です。ここまで書いたあらすじを読んで、何かを思い出された人もあるのでは、と思います。実はこのマニーシュとアーミル、そして教師イェフダの物語はすでに劇映画になっており、Netflixで見ることができます。タイトルは『Yeh Ballet(このバレエ)』、邦題は『バレエ 未来への扉』で、2020年にNetflixでリリースされました。監督は、『僕はジダン』(2009)のスーニー・ターラープルワーラーで、今回見返してみると、なるほどスーニーだわ、と思わせるキャスティングがあちこちで目に付き、前回はついうっかりと何の予備知識もなく見てしまったことを後悔しました。この劇映画については後日別途ご紹介しますが、今回のドキュメンタリーはダンサー出身のレスリー・シャンパイン監督が、バレエ教師のイェフダ・マオールから依頼されて制作を手がけたものです。前述の劇映画に自分自身として登場したマニーシュを中心に、彼がバレエと出会ってからの4年間が画面に焼き付けられています。

観る者の胸を掴んで放さないのは、マニーシュの圧倒的に美しい肉体と、イェフダとの強い絆が結ぶ師弟関係、そして家族との温かい絆で、劇映画以上に胸に迫るシーンもありました。あと、およそ相容れないと思われる「インド人とバレエ」も、劇映画では何となく受け入れられていたのが、その違和感がより直接的に感じられるものになっていました。面白かったのは、劇映画ではマニーシュのお父さんのタクシーがクールキャブ(冷房付きの車)だったのに、ドキュメンタリーでは黄色と黒の普通のタクシーだったこと。スーニー・ターラープルワーラー監督、どうしてクールキャブにしたんでしょうね? 最後に映画のデータと予告編を付けておきます。インドの好きな人も、バレエの好きな人も、人生の選択に迷っている人も、身寄りのない老人も、すべての人に見て貰いたい珠玉のドキュメンタリー映画です。そうそう、字幕は『RRR』の藤井美佳さんです。ね、必見でしょ?

『コール・ミー・ダンサー』 公式サイト
 2023年/アメリカ/英語・ヒンディ-語・他/84分/原題:Call Me Dancer/字幕翻訳:藤井美佳
 監督:レスリー・シャンパイン
 共同監督:ピップ・ギルモア
 配給:東映ビデオ
11月29日(金)新宿シネマカリテほか全国公開

バレエの虜になった遅咲きのダンサーの物語。映画『コール・ミー・ダンサー』予告編

 


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