アジア映画巡礼

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配信等のインド映画は今?~『ザ・ブローラー/喧嘩屋』@JAIHOを見逃すな!

2022-04-25 | インド映画

今、JAIHOで配信中の作品の中に、必見の作品があることからちょっとそのご案内を。Netflix、Amazon Prime Video、JAIHO等、コロナ禍の中で特に配信は重要な位置を占めるものになってきましたが、この3つはそれぞれ傾向は違っているものの、インド映画もよく扱ってくれています。その他、映画専門チャンネルのムービープラスも、インド映画ファンの方はよく見ていらっしゃるのでは、と思います。実は私はJAIHOの仕事をしていて、毎月コラムを書いていますので、これまでJAIHO開始時にご紹介した以外は作品を取り上げてのご紹介はあまりしてこなかったのですが、今、配信されている作品『ザ・ブローラー/喧嘩屋』(2017)があまりにもすごい作品なので、インド映画好きの方にはどうしても見ていただきたく、ご案内する次第です。

Mukkabaaz poster.jpg

『ザ・ブローラー/喧嘩屋』
 2017年/インド/ヒンディー語/155分/原題:MUKKABAAZ
 監督:アヌラーグ・カシャップ
 出演:ヴィニート・クマール・シン、ゾーヤー・フセイン、ジミー・シェールギル、ラヴィ・キシャン、ナワーズッディーン・シッディーキー(カメオ出演)

舞台となる街は、インド中北部のウッタル・プラデーシュ(UP)州のバレーリーという地方都市です。『バレーリーのバルフィ』(2017)という映画がありましたが、その舞台にもなった、ローカル色豊かな街です。主人公シュラヴァン(ヴィニート・クマール)はそこのボクシング・ジムで修行中なのですが、そのオーナー(ジミー・シェールギル)はかつてのボクシングの金メダリスト(恐らく国か州レベルの大会での金メダル)であり、バラモン階級の地主で、この地方の有力者であるバグワーン・ダース・ミシュラー(字幕では音引きを落として「バグワン・ダス・ミシュラ」と表記)でした。バグワーンは練習生をあごで使い、家庭内の用事もさせたり、自分の政治活動の手先に使ったりします。ですが彼に逆らうと対外試合に出してもらえなくなるため、みんな従っていました。しかし、シュラヴァンはそんなやり方に疑問を持ち、バグワーンに異議を申し立てます。また、バグワーンの兄一家もお屋敷に同居しているのですが、その娘スナイナ(ゾーヤー・フセイン)とシュラヴァンは恋に落ちてしまい、それもあって、バグワーンとシュラヴァンの仲はますます険悪になっていきます...。

何がすごいと言って、このバグワーンという男(上のポスターの左)のタイクーンぶりがすごくて、胸くそが悪くなるほどです。バラモンとしての誇りというか高慢さ、傲慢さを余すところなく発揮し、まさにその名の通り神(バグワーン)のように君臨するさまは、演じるジミー・シェールギルがイケメンであるだけに、ゾッとするほどコワいのです。シュラヴァンのカーストは、バラモンではないものの、ラージプートだと言っているのでクシャトリヤだと思うのですが、それでも「下のカーストめ」とバグワーンはさげすんで、もちろん姪との結婚も許しません。さらに、シュラヴァンがバグワーンの元を離れ、新しいコーチに付くと、そのコーチが被差別カースト出身であることを暴き立て、口実をでっち上げてコーチを手の者に襲わせます。コーチを演じているのはラヴィ・キシャン(上写真右)なのですが、紳士的なコーチの態度に比べると、バグワーンはゲスの極みであるのに、バラモン・カーストだということで警察もバグワーンの肩を持ちます。こんな風に、地方の闇を描き、今のインドが見透かせるような作品となっています。

このバグワーンに対し、非力でありながら徹底的に闘うのが主人公のシュラヴァンと恋人のスナイナです。スナイナは耳は聞こえるけれど声が出ないという障害を持っているにもかかわらず、意思の強い、かつ向学心に富んだ魅力的な女性として描かれています。演じるゾーヤー・フセインという女優がまた素晴らしく、彼女の魅力でぐいぐい引き込まれていく作品でもあります。シュラヴァンのキャラクター設定もなかなか上手で、ちょっと頼りない普通の男ながら、ボクシングで強くなる意思と体に恵まれた青年を、普段は脇役を演じるヴィニート・クマールが控え目に演じていて好感度大です。

こんな作品を作ったのは、ボリウッドで一番のクセ者監督アヌラーグ・カシャップ(上写真)です。日本では映画祭上映された『デーヴD』(2009)や『血の抗争』(2012)で知られていますが、最近はNetflixの『AK vs AK』(2020)といったちょっとヘンな作品に監督ならぬ出演したりして迷走感が漂っていたのですが、『ザ・ブローラー/喧嘩屋』を見てまた見直す気になりました。やはり脚本の完成度が高い、地方都市をノンスターで描くと力を発揮する監督だと思います。スターを起用するとどうもダメみたいで、以前にもランビール・カプールとアヌシュカー・シャルマー主演の『Bombay Velvet(ボンベイ・ベルベット)』(2015)でも失敗しているのですが、もうすぐDVDが出るタープシー・パンヌー、ヴィッキー・コウシャル、アビシェーク・バッチャン主演の『心のままに』(2018)もいまひとつでした。『心のままに』をIMWでご覧になった方はぜひ、『ザ・ブローラー/喧嘩屋』と見比べてみていただければと思います。

JAIHOはほぼ毎月2本の新しいインド映画作品がアップされ、その中には日本の劇場では未公開、時には日本初上映作品も含まれます。すべて日本語字幕付きで、英語字幕からの翻訳ですが、字幕翻訳者の方がいずれもお上手で、公開作品レベルの字幕で見ることができます。また、インド映画だけでなく、アジア映画を中心に欧米作品も結構粒選りが揃っています。インド映画はこの先、必見作品がいろいろと配信される予定なので、楽しみにしていて下さい。『ザ・ブローラー/喧嘩屋』の予告編を付けておきます。

Mukkabaaz Official Trailer | Watch Full Movie On Eros Now

 

一方Netflixは、インドでの劇場公開がほぼ元に戻ったせいか、少し影がうすくなっています。インド映画界が劇場公開作に注力していて、一時期のようにNetflixや他の配信媒体への依存度が減ったのか、Netflix製作作品にはあまり面白いものが出なくなってきました。最近はノンスターで作られるサスペンス作品が多く、この手の作品は劇場公開には向かないため(出演者の集客力が低く、また、家族みんなで見に行ける作品ではないので無理)、劇場では見られない作品が見たい視聴者を捉まえようとしているのか、そういった作品が目立ちます。でも、見ていて気が滅入る作品が多く、連ドラだと1を見たらあとはもうやめる、という形になることも多いです。Netflixにもいろんな波があって、配信開始当初は性表現が過激なものが目立ち、検閲がないからだろうと思っていたら、そのうち配信側の自主規制が始まり、この傾向は下火になりました。また、コロナ禍当初は実力派監督によるオムニバス作品の秀作が登場し、期待したのですが、それらの監督も皆、劇場用作品の製作に戻ってしまったようです。インド映画に限って言えば、Netflixは映画製作会社としてはまだまだこれからというところです。

Amazon Prime Videoは、日本におけるインド映画の配信で言えば、方針が定まらないというか、常に右往左往している感じです。日本でソフト化されたものをレンタルしてくれるのはありがたいものの、インドの古い作品をどっとタイトルアップしたかと思えば、日本語字幕は英語字幕から自動翻訳機にかけただけ、というお粗末ぶりが結構長く続きました。現在は、タイトルが相変わらずいろいろ上がっているものの、作品解説も字幕も英語そのまま、という手抜き配信です。英語字幕で見せて客を呼べているのか、とはなはだ疑問に思ってしまううえ、レベルの高い作品ばかりではなく、インド映画のイメージがかえって悪くなるのでは、と思ってしまうような作品もあって、何をやっているのだろう、と謎が深まるばかりです。日本語字幕のある作品も、映画のきちんとした見せ方とはとても言えない字幕やコマンドの位置等々で、がっかりすることが多いのがAmazon Prime Videoです。

Dil Bechara film poster.jpg

配信大手2社がこんな感じなので、ムービープラスのきちんとしたプレゼンの仕方は本当に気持ちがいいです。「ハマる!インド映画」というタイトルのもと、毎月2~3本の新作が加わり、前に放送されたものの再放送もあって、プログラムはなかなかに賑やかです。ここもコラムがあって、更新を楽しみにしているのですが、今のところちょっと滞っているみたいですね。うらやましかったのは、コラム等に使ってある画像が時には画像配信サイトから購入されているらしく、インド映画関係の素敵なスナップショットなどがあること。こういう写真がインド映画本にも使えたらなあ、とため息が出ました(1枚最低でも5,000円ぐらいするのでとても無理!)。ムービープラスの目下のイチオシは、故スシャント・シン・ラージプート主演作の『ディル・ベチャーラ』(2020)です。この作品に冠しては、映画紹介サイト【BANGER!!!】にも書きましたので、こちらをぜひご参照下さい。最後にこの映画の予告編もどうぞ。珍しく、ジャムシェードプル(ジャールカンド州)が舞台になっており、ベンガル文化の香りもちょっぴりする作品です。

Dil Bechara | Official Trailer | Sushant Singh Rajput | Sanjana Sanghi | Mukesh Chhabra | AR Rahman

 

連休中も、インド映画を楽しんで下さいね!!

 


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