アジア映画巡礼

アジア映画にのめり込んでン十年、まだまだ熱くアジア映画を語ります

台湾のLGBT映画

2021-02-03 | 中国語圏映画

昨日、オンラインでアジア映画に関する研究会があり、久しぶりに知的刺激を受けて楽しい2時間半を過ごしました。発表は、2000年代の台湾映画に関するものと、2月に創刊される中国語と英語のバイリンガルジャーナル『華語独立映像観察/Chinese Independent Cinema Observer』に関する報告でした。後者のお話をまずしようと思うのですが、中国のインディペンデント映画に関して、参考になりそうな文献を3冊挙げておきます。ご興味がおありの方は、タイトルで検索してみて下さい。

  

で、Web雑誌『華語独立映像観察/Chinese Independent Cinema Observer』は、2019年に欧米とアジアに拠点を置く中国映画の研究者、キュレーター、評論家たちによって設立された「中国独立映画アーカイブ/Chinese Indipendent Film Archive(略称:CIFA)」が発行するもので、CIFAのHPこちらのサイトをチェックしていて下されば、詳細がそのうちわかると思います。創刊号は、中国のインディペンデント映画と現代日本の映画文化との関連性が特集されるそうで、日本人執筆者も多く参加しているとか。日本人執筆者の原稿は、今、英語や中国語に翻訳中とのことだったので、「原文が日本語のものは、原文も掲載されるといいのに」という意見が出ていました。ウェブ雑誌なので、工夫次第でトリリンガルにもできるのでは、と思います。期待していましょう。

《緝魂》曝“溫情”海報 張震張鈞甯演繹生死之愛-圖1

台湾映画に関する報告は、2000年以降の台湾映画産業がどんな変化を遂げていったのか、というお話で、『ダブル・ビジョン』(2002)ぐらいから始まって、『海角七号-君想う、国境の南』(2008)、『セデック・バレ』(2011)などの作品を経て、1月15日に公開されたばかりの『緝魂(魂)』にまで及んだのでした。『緝魂』は監督程偉豪(チェン・ウェイハオ)、主演張震(チャン・チェン)、張鈞甯(チャン・チュンニン)による犯罪ミステリーだそうで、中国大陸でも今、ヒット中のようです。下が予告編です。

威視電影【緝魂】正式預告(2021.01.29重磅上映)

 

その本論を置いておいて何なんですが、あとの討議のところで「LGBT映画が台湾でよく作られているのはなぜ?」という疑問が出され、「それは台湾が東アジアにおいても、国際社会においても、周縁的存在であるからでは? それで、LGBTの存在とも共鳴するところがあるのではないか」という説が出て、面白いなあ、と思ったのでした。つまり、虐げられているものに対する共感度が強いのが台湾、というわけなのですね。それで思い出したのが、以前大学でアジア映画の講義をしていた時、「ジェンダーとアジア映画」という授業を1コマ組み込んでいたこと。その授業のレジュメにLGBTを描くアジア映画をリストアップしてみたら、最初期の作品として、次の4作品が並んだのでした。

中国~『さらば、わが愛 覇王別姫』(1993)
香港~『君さえいれば 金枝玉葉』(1994)、『ぼくたちはここにいる』(1994)
台湾~『ウェディング・バンケット』(1993)

中国映画『さらば、わが愛』では、女形である程蝶衣(張國榮/レスリー・チャン)の、相手役であり、兄弟子でもある段小楼(張豊毅/チャン・フォンイー)への愛が否定的に描かれます。香港映画『君さえいれば』では、作曲家のレスリー・チャンが、内弟子として住み込んだ青年、実は女性のアニタ・ユンに対し、愛しい気持ちを持ってしまって、「僕はゲイなのか?」と真剣に悩みます。そして相手が男装していた女性とわかってめでたし、めでたし、となるところは、やはりゲイ否定と言ってもいいでしょう。また、同じく香港映画の『ぼくたちはここにいる(三個相愛的少年)』に至っては、同居していた3人の独身男性が当初ゲイと設定されていたのに、劉青雲(ラウ・チンワン)演じる男性は呉倩蓮(ン・シンリン)に恋して「本当は女性が好きだった」となるという、何とも奇妙な結末になっていました。さらに、葛民輝(エリック・コット)の演じる役はエイズになってしまうし、当時見ていても「何だかなー」と思ったものです。

 Xiyan-1993 02.jpg

台湾映画の『ウェディング・バンケット』は、ニューヨークで男友達と同居している台湾人青年が、両親にゲイだと打ち明けられないまま、両親がニューヨークにやってきて右往左往する、という話です。結局、アメリカのヴィザ延長を望む台湾人女性と偽装結婚して、両親の目をごまかすのですが、式の夜ぐでんぐでんに酔ってうっかり彼女とベッドインしてしまい、彼女は妊娠。で、結論はどうするのか、と思っていると、3人が子供を育てながら仲良く暮らす、という結末になっていました。偽装等の難点はあるものの、ゲイとして幸せになる結末は、上記作品と比べると見ていて気持ちのいいものでした。これはアン・リー監督の作品で、のちにハリウッドに拠点を移したアン・リー監督は、ゲイ映画の秀作『ブロークバック・マウンテン』(2005)を撮ります。その萌芽が『ウェディング・バンケット』に見られる、というのはうがちすぎですが、上記4作品を比べると、台湾映画の方が進んでいたんだな、と思わせられるのでした。

Formula 17.jpg

その後台湾からは、『僕の恋、彼の秘密[17歳的天空]』(2004)が生まれます。ゲイの世界をあっけらかんと描いて、男対女の恋も、男対男の恋も、結局は同じなのね~、と思わせてくれた、東アジアのLGBT映画としては出色の作品でした。東南アジアではこれより先に『アタック・ナンバーハーフ』(2000)などが生まれていますが、東アジアでは、『僕の恋、彼の秘密』が扉を大きく開けてくれた感じがします。そこから十数年、2019年5月、台湾はアジアで初めての同性婚を認める法案を可決した国になりました(台湾を国だと認めていない人たちもいるわけですが、立派に国としての機能を果たしていると思います)。昨年の東京国際映画祭では、その闘いを描いたドキュメンタリー映画『愛で家族に~同性婚への道のり』(2020)も上映されました。こんな事実を見るにつけ、「LGBT映画が台湾でよく作られているのはなぜ?」という疑問がわいてしまうのですね。この先も、いろんな例をさぐりながら、考えてみようと思います。

『愛で家族に〜同性婚への道のり』予告|Taiwan Equals Love - Trailer|第33回東京国際映画祭 33rd Tokyo International Film Festival

 

とまあ、久しぶりの研究会にいろいろ刺激を受けたのでした。私たちがやっている「インド映画連続講座」も、こういう刺激を参加者の皆様に与えられるものだといいのですが。2月13日(土)から始まる新しいテーマは、「インド映画のエレメンツ<第3回>アクションの魅力」です。こちらに詳細がありますので、ご興味がおありの方はぜひどうぞ。

<追記>台湾在住の方のブログ「にじいろ台湾」にも、こんな記事がアップされていました。やっぱり、『ウェディング・バンケット』が最初に来ていますね。

 


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