本日は、言語も違えばテイストもまったく違うインド映画2本を、ハシゴしてきました。1本目は、国立映画アーカイブでの特集上映「アカデミー・フィルム・アーカイブ 映画コレクション」の中のサタジット・レイ監督作、ベンガル語映画『主人公』(1966)です。さすが映画アーカイブ、監督名をちゃんとベンガル語読みでショットジット・ラエと記してくれたりしていますので、映画のデータを書いておきます。なお、出演者名の箇所の( )書きは私が付けたもので、ヒンディー語映画にも出演しているスターであるため、ヒンディー語読みを付けておきました。
『主人公』
1966年/インド/ベンガル語/白黒/117分/原題:Nayak/英語・日本語字幕
監督:シットジット・ラエ(サタジット・レイ)
出演:ウットム・クマル(ウッタム・クマール)、ショルミラ・タクル(シャルミラー・タゴール)
主人公は人気俳優のアリンダム・ムケルジー(ウットム・クマル)。ある賞が授与されることになり、首都デリーまで行って授与式に出席することになるのですが、諸般の事情から1人で寝台車に乗り、デリーに向かうことになります。コンパートメント式寝台車の4人用の部屋に、両親と若い娘という一家と一緒に乗ることになったアリンダム。車掌始め列車のスタッフはみんな憧憬の目で見ますが、乗客の中には彼を毛嫌いする人も。アリンダムは意に介さず、誰にも愛想良く接します。食堂車で一緒になった女性アディティ・セングプタ(ショルミラ・タクル)は女性誌の記者だとかで、彼にインタビューを申し込んで来ました。彼女を相手に自分のこれまでの経歴を語っていくアリンダムは、新人の頃演技をけなされた大先輩俳優ムクンダや、労働運動に身を投じていた友人ビレシュ、さらには夜遅くに訪ねてきて「女優になりたいんです」と言った女性のことなどを思い出すのですが...。
ずっと以前から、このウッタム・クマール(以下、私が慣れ親しんだヒンディー語表記で書きますがお許しを)とシャルミラー・タゴールが共演するサタジット・レイ監督作を見てみたいと思っていたのですが、こんな前衛的な作品だったとは、とちょっと意外な気持ちに打たれました。まず、オープニング・タイトルが斬新で、一種のアニメーションになっています。そして娯楽映画界の内幕を描いているのも、他のレイ監督作とは趣を異にしています。サタジット・レイ監督は、『大地のうた』始め多くの作品が長編あるいは短編小説を元にしているのですが、中にいくつか、レイ監督オリジナルの作品があります。この『主人公』もそのうちの1本で、先に挙げた娯楽映画界が舞台であるほか、夢のシーンを多用したり、その表現がシュールだったりと、いろんな冒険をしているのがとても新鮮でした。ウッタム・クマールとはこれが初めてのタッグですが、さすがにうまい俳優で、俗物でありながらも花があり、純粋なところも持っているスター俳優を見事に作り上げていました。
このスター俳優の地位を享受している主人公に対して、クールビューティーというか、彼に心を動かされない知的な女性をシャルミラー・タゴールに演じさせたのも、うまい配役だと思いました。しかも、彼女にくっきりしたフレームのメガネを掛けさせ、ペンをサリーブラウスの襟元に挟ませるなど、心憎い演出が効いています。インタビュー名目の彼女という聞き役を得て主人公は、デビュー当時彼に厳しく当たった先輩俳優が落ち目になって尋ねてくるエピソードや、労働運動に熱心だった親友を大事にしていたのに、数年経って大スターの自分を訪ねてこられた時には突き放してしまったことなどを易々と語ってしまいます。でもラストシーンでは...という結果も、ハッピーエンドのような、はたまた肩透かしのような、奇妙な後味を与えてくれました。
残念ながら、今日が3回目の上映でもう上映はないのですが、せっかく日本語字幕も付いたので、JAIHOとかで配信してくれないかな、と密かに期待しています。そうそう、日本語字幕で1箇所、確か「極左翼」という聞き慣れない言葉が出てきたように思うんですが、今で言えば「過激派」ということでしょうか? あとで字幕を担当した大西美保さん(日本で唯一、ベンガル語から直接字幕翻訳ができる人)に、聞いてみようと思います。
そして、夕方からはもう1本、ポンガル(タミルの収穫祭)向けに華々しく公開されたタミル語映画の1本、アジット・クマール主演作の『Thunivu(不屈の精神)』を見てきました。お正月早々、IMWで同じアジット・クマールの主演作『兄貴の嫁取物語』(2014)を見て、「もう、おじさんが刀持ってすごむ作品はイヤだ――っ!」と叫んでしまった私ですが、『Thunivu』の方はガン・アクションや爆破がてんこ盛りだったものの、お話の作り方が変わっていて面白く、あららら...と思っているうちにラストまで見てしまいました。
お話は、銀行強盗がYOUR BANKという銀行に押し入ったところ、もう一組の銀行強盗がすでにいて、盗みの主導権はそのボスであるダーク・デビル(アジット・クマール)に握られ、警察は振り回されます。さらにこれには裏がいろいろあるようで、銀行側も加えたややこしい闘いになっていき、意表を突く展開がこれでもかと繰り返される、という、トンでもない作品でした。コメディアンも出ているのですが、本作ではアジット・クマールが率先して笑わせ役となり、特に「マイケル・ジャクソン」のところは場内大爆笑。こんな説明では何が何やらおわかりにならないと思いますが、英語字幕では細かい説明までムリなので、ま、悪くないポンガル作品だと思って下さいませ。好評につき上映が増えているようなので、ご覧になりたい方はSPACEBOXのサイトをチェックしてみて下さいね。最後に予告編を付けておきます。
Thunivu Official Trailer | Ajith Kumar | H Vinoth | Zee Studios | Boney Kapoor | Ghibran