通りすがりに視線を誘われてしまう庭。ちょっと歩くとそういうお宅をよく見つけるようになりました。僕が住んでいる相模原の街は、きれいなお庭をもったお宅がたくさんあるのです。ガーデニングが流行してだいぶたちますけど、そういう流行とは別に、庭をきれいに手入れする文化は、もともと昔からこの国には息づいていたのでしょう。いわゆるガーデニングも決して教科書通りにはならず、思い思いのかたちを見せてくれています。ちょっとしたアレンジにもお人柄があらわれてしまうというか、花壇を彩る花もセンスの高さに感心しちゃうほど。レベルがすごく高くて、ため息でちゃうようなお庭も見かけます。広くて立派なお庭ばかりでなく、小さくても自分の庭ですてきに花を楽しんでいる人が多い街は、あるいているだけでも気持ちがいいです。僕は四年半前に引っ越してきたのですけど、春が来るたびに「いい街に住んでいるんだなぁ」と思います。
春と言えばやっぱり桜で、相模原には桜の名所、見所がいっぱいあります。市役所通りの桜並木は有名ですが、我が家からあるいてすぐのところにある公園の桜並木は一本の帯のようにまっすぐ1kmほど続いていて壮観です。その名も「並木」という街の通りは桜のトンネルが見事。小中高、短大とたくさんの学校が集まっている立地のせいか、桜のはなびらが風にのって庭に舞い降りるのは我が家の春の風物詩です。
派手に咲き乱れた桜を春の風がさぁっと吹き飛ばしてしまうと、足下で静かに咲いている花に目がとまるようになります。
はなにらの名前を覚えたのは、鎌倉の友人を訪ねたときのこと。
姿形は知っていても、よくは知らない。そういうことが無性に気になっていた頃があって、一応、社会に出てしばらくたつ大人のくせに、なんでもかんでも人に質問ばかりしていました。はなにらはそんな時期に友人から教えてもらった名前です。
鶴岡八幡宮を右手に曲がった先、岐れ道のあたりで山の方に入ると、小さく狭い上り坂があって、友人の家まで続いています。その道の脇をずっと縁取るように、はなにらが咲いていました。はなにらに縁取られた坂が、上へ上へとのびて行くのです。その光景が鮮烈で、しばらく足をとめて眺めてしまいました。
その日、友人の引っ越しの手伝いをするために、朝早く車で出たのですが、光の加減もよかったのでしょう。朝の光の中で、花はいっそう美しく見えます。
友人はいまそこにはいないけれど、その日の光景が忘れられないせいで、ずっと好きでいる花です。