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弁護士ウオッチング 弁護士 村松謙一 2003.11.26 Wed
体験的会社救済の手順 <87-2>
債権者も債務者も「返済期間」に拘束されるあまり、企業再生の芽を摘み取っていないか
(4)法的再建手続きと企業ブランド価値の毀損
前述の会社は、結局「私的再建手続き」で再建を進めているが、それは前述の債務免除益だけの問題だけでなく、それ以上に「企業価値(ブランド力)の毀損」という商業社会においては極めて大きな問題を回避したかったからである。即ち、民事再生等法的再建手続きでは、一部のA社に対する信用力があるからこそであろう。その信用力は、決して一朝一夕に築かれたものではない。経営者のたゆまぬ努力と営業活動の賜物であろう。
然るに、5年、10年という「短期返済」という呪縛に縛られているために、法的再建手続きを選択することで、当社の経営危機が露呈され、40年以上かけてこれまでに一つ一つ積み重ねてきた信用がたった一瞬で崩れ去り、今後の注文・取引はもちろんのこと、既存の契約にも解除理由を与えかねない。注文主たる相手先上場企業にしてみれば、信用不安となった当社に代替する別の安定企業に注文を切り替えれば、それですむからである。何も経営不安定な会社に、そしてそれといった特殊性を持たない会社に重要な現場を預ける必要はなかろう。
このような法的手続きによる「企業ブランド力」の毀損現象効果面をも考慮すると、法的再建手続きを選択する場合、もはやその手続きしか後がないという事情があって初めてせんたくするべきものであると私は考えている。換言すれば、極めて少人数の大口債権者(特に金融機関)の理解、協力を得て、再建の道筋が明確になるならば、それはそれでいいではないか。弱小零細な中小企業(商取引債権)をも取り込んでしまい、10年目以降の返済分の債権カットを強いる法的再建手続きはあくまで二次的なものであるべきと考えている。
(5)再建現場で「返済期間」よりも優先されるべきものとは
では、「返済期間」という壁をどう攻略するかであるが、私は、そもそも会社の収益性、安定性、社員の幸福度をまず先に考えるべきであり、「返済期間」は結果として生まれる概念だと考えている。
月々の返済額の算出も、社員の士気を奪わず、社員にやる気を起こさせ、給与体系の中で、且つ借入金の「利息」はきちんと約定通り支払われる状況がまず会社内で作れるならば、その結果、出てきた借入残元金に対する返済原資がごくわずかでも、それはそれでいいではないか。
リストラの弊害面も、もっと議論されるべきであろう。年1000万円の返済を続けて頑張っている、借入金40億円の会社を私は知っている。返済に400年かかるが、その利息9000万円はその数年間きちんと支払っている。社員にも賞与を支払い、給与も若干だがアップさせた。相手方たる金融機関も、この会社のこれらの対応を拒絶はしていない。金融機関もわかっているのが。会社が無理をしなければ、このレールの上をきちんと走れるという現状を。社員にも活気が戻り、お客さんの評判は上々であり、売上高も少しずつアップし始めている。驚いたことに、社員の数も年々増やしている。これは、経営者はもちろん、債権者たる金融機関等、関係する当事者誰もが「返済期間」という概念を頭の中から捨ててしまった結果である。この会社に平和が来たのである。
ここでは、「返済に何年かかるか」という質問自体が愚問となってしまった。私に言わせれば、全く意味をなさないのである。今年きちんと経営している。来年も経営している、10年先も、100年先もこの内容であったら、会社は幸せに経営していける。それでいて、金融機関に対しても、きちんと「利息」を支払い、元金も少しずつであるが返済している。社員も家族を養いながら、生き生きと働いている。もちろん取引先にはきちんと支払いをしている。それでいいではないか。金融機関もそれでいいと言っている。誰も害しているわけでもない。社会に有害を撒き散らしているわけではない。皆が平穏に幸せに働いている。然るに、金融庁はこのストーリーを気に入らないらしい。交渉の相手方る金融機関は、その程度の返済額では、返済期間が長すぎるとして、競売の申し立てをすることもしばしばだ。相手方の債権回収の欲望を満たすために、平穏が崩れ、人々の心が壊れていく。
教科書的事例では、有利子負債過多のこのような会社は「民事再生」に適すると書かれているが、それで喜ぶ方はいるのであろうか。犠牲はできる限り少ない方がいいに決まっている。ただでさえ、資金繰りに苦しんでいる弱小零細な取引先にまで犠牲を強いることは、できうるなら、避けるべきと考えている。
2.債権放棄・劣後ローンの活用
(1)債権放棄
債権者側において、どうしても「返済期間」に固執するなら、今度は相手方たる債権者の方で、5年、10年を超えた返済額の分だけ「債権放棄」を考えればいいだけである。
債権放棄をすることで、再生会社を身軽にさせ、かえって債権回収の極大化に寄与できた例は、民事再生手続きの手法を含め、枚挙にいとまがない。
(2)劣後ローン化の手法
ただ、私的再建手続きでは、どうしても債権放棄はできないと拒絶する金融機関も多いことも事実だ。
そこで、平成15年7月16日、金融庁が発表した「新しい中小企業金融法務に関する研究報告書」において、その返済に超長期的な期間を要する根雪的な債務の「資本的性質」(もはや借入金的なのもではなくなっている)を反映させる手法として、「劣後ローン(DDS,デッド・デッド・スワップ)」を許容した旨の報告がされた。「返済期間」の問題に対する解決策として、常々、私が提唱していた「永久債・劣後債」と同種の扱いである。
これにより、根雪的債務については、DDS化させ、この債務の資本的に扱い、残債務(10年前後で返済可能額分)と分離させ、「債務者区分」を再考案し、要注意→正常先に持ち上げることも可能になったのである。債権者として、一考に値するテクニックであろう。
3、良心の実践
実は、「返済期間」まずありきとの概念を捨てれば、もっと世の中楽しく活気が出てくることを知っている私は、会社再建現場で経営者、金融機関にそのことを説明し、且つ己の良心に従って実践している。
余談ではあるが、ある会社は、経営危機に陥り、顧問弁護士が破産の申し立てを準備した。あきらめきれない社長は、私の事務所を訪れた。私は迷わず、私的再建を選択した。10年後の先般、その会社を訪れた時、社員の方から声を掛けられた。「先生。お陰様で、うちの子供が今春大学を卒業して、社会人となりました。会社が潰れるか否かの相談の時は、小学生でした。正直言って、小さい子供のことが不安でしたが、これで一安心できます。会社が生き残れて、仕事が続けられて助かりました。ありがとうございました」。相当にうれしかったのだろう。父親として、嬉し涙を流していた。私的再建を続けてよかった。私も目頭が熱くなった。
「返済期間」の拘束から解放されたことで、生き返った会社も多数あることが、私の自信であり、私の臨床報告でもある。
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