コラムの著作権は村松弁護士本人に帰属します。
このブログ以外での引用等は固くお断りいたします。
日刊帝国ニュース 1999年11月29日
弁護士ウォッチング 弁護士 村松謙一
経営危機からの脱出方
アンテナを張り巡らしていながらも、それでも取引先の
倒産に遭遇してしまい、債権回収の努力をしても、
相当額の売掛金が焦げ付いてしまい、資金面から連鎖倒産の
危険にさらされた場合は、どのようにしてその危険を
回避するのか?
1)手形割引の買戻し要求対策
取引金融機関からの「割引手形の買戻し要求」に対しては、
前述した通りであり、(前項を参照されたい)本項では、
それ以外の対処方法を説明する。
2)預金の取り崩し
積立預金の引き出しや定期預金の解約をお願いしても、
金融機関が色々な理由をつけて応じてくれないと
あきらめ顔の経営者がなんと多いことか。
定期預金など担保に差し出していればいざしらず、
事実上の「にらみ預金、拘束預金」の額は、
独占禁止法上も違法として禁止されており、
ましてや、その預金が資金繰りに使えないために、
自己の振出手形の決済資金が不足して手形不渡り
倒産にてもなれば、当該拘束銀行の責任問題に
発展しよう。
加えて、銀行法第1条で規定される銀行の「公共性」
や中小企業に対する健全育成の使命など銀行法の
趣旨にも反し、権利濫用による不法行為の場合も
あろう。
従って、経営者としては、取引先の不慮の倒産
のため、資金繰りが予定に反して不足してしまった
事情、及びこのままでは手形不渡り、もしくは
信用不安が生じてしまう事情等を資料持参で
説明し、「預金の開放」を強く要求する必要が
ある。
毎月の積立協力預金等も事情を説明して一時停止し、
取り崩させていただくべきである。企業にとって、
銀行預金とは、まさに不慮の場合の資金繰りの
ための予備金のようなものだからである。
これまで誠実に返済を履行していながら、それでも
預金を開放していただけなければ、
その場で弁護士事務所か金融庁へ
電話するくらいの熱意が必要である。
3)借入金の返済一時停止(緊急避難的措置)
この点も前述したところなので、前項(8月23日号)
を参照されたい。
4)専門弁護士への相談
もし、売掛金の引っかりが月商の0.5ヶ月分以上に
及んだら、直ちに専門家に駆け込むべし。
それ以外でも、後述する法的手続きを選択する
場合はもちろんのこと、銀行に対し、預金の取り崩し、
返済の一時停止要請、買戻し交渉等は、対取引銀行
のみの問題にとどまらず、すべての金融機関に
少なからず影響するところであり、既に信用の失墜
した会社経営者自身がいくら頭を下げてお願いしても、
金融機関としてもすぐに「はい、わかりました」と
いうわけにはいかないのである。
そこには、
①公平、公正なる処置(弁済、情報開示)がなされて
いるか
②会社側の責任の取り方は適正か
③会社側に再建の見通しはあるか
④返済の約束が必ず実行される保証はあるか
等の判断がなされてはじめて、再建に協力すべきか
否かを決断するのであり、高度に専門性、経験等が
要求されるからである。
残念ながら、これらを判断するにも、当該会社
自身では説得力が希薄すぎるのである。
また、判断のためには、資料と時間が必要と
されるが、少なくとも、専門弁護士の過去の
会社再建の体験を調査すれば、本当にその会社の
再建計画や約束事が実行されているかはわかるもの
である。
普段から顧問弁護士に会社の決算書等の資料を
提出する等、顧問弁護士との付き合い方を検討
しておく必要がある。
5)法的手続きの検討(特に2000年4月より
施行される民事再生法の新設の意義)
せっかく会社が営業利益を計上しており黒字
体質であるのに、取引先の倒産を引き金に
自己の会社まで潰してしまうのは、誠に惜しい
ものである。
(但し、会社の売上高の50%以上が、当該
倒産企業(破産の場合)に依存していた場合は、
今後の会社の売上高が半減するだけに、法的
再建は困難なことが多いが)
現在、法が予定する再建手続きとしては、
①会社更生法②和議③商法上の整理の3つの
類型がある。
なお、和議手続きについては、2000年4月より
より簡便な「民事再生法」が施行され、和議法は
全面廃止される予定である。
ここで注意すべきは、経営者が残るか否かという
区別でいえば、会社更生法は、経営者の交替が
前提であり、民事再生法(旧和議)は、経営者の
続投が前提である。
従って、経営者の熱意、人格、発想、行動力、
人望にもよるが、経営者の求心力が会社再建の
重要な要素と見られる企業であるならば、
以下の民事再生法が最も適切となろう。
企業の再建に数多く関与していると、まさに
「企業は人なり」の言葉がつくづく実感される
ものである。
~この項つづく~
このブログ以外での引用等は固くお断りいたします。
日刊帝国ニュース 1999年11月29日
弁護士ウォッチング 弁護士 村松謙一
経営危機からの脱出方
アンテナを張り巡らしていながらも、それでも取引先の
倒産に遭遇してしまい、債権回収の努力をしても、
相当額の売掛金が焦げ付いてしまい、資金面から連鎖倒産の
危険にさらされた場合は、どのようにしてその危険を
回避するのか?
1)手形割引の買戻し要求対策
取引金融機関からの「割引手形の買戻し要求」に対しては、
前述した通りであり、(前項を参照されたい)本項では、
それ以外の対処方法を説明する。
2)預金の取り崩し
積立預金の引き出しや定期預金の解約をお願いしても、
金融機関が色々な理由をつけて応じてくれないと
あきらめ顔の経営者がなんと多いことか。
定期預金など担保に差し出していればいざしらず、
事実上の「にらみ預金、拘束預金」の額は、
独占禁止法上も違法として禁止されており、
ましてや、その預金が資金繰りに使えないために、
自己の振出手形の決済資金が不足して手形不渡り
倒産にてもなれば、当該拘束銀行の責任問題に
発展しよう。
加えて、銀行法第1条で規定される銀行の「公共性」
や中小企業に対する健全育成の使命など銀行法の
趣旨にも反し、権利濫用による不法行為の場合も
あろう。
従って、経営者としては、取引先の不慮の倒産
のため、資金繰りが予定に反して不足してしまった
事情、及びこのままでは手形不渡り、もしくは
信用不安が生じてしまう事情等を資料持参で
説明し、「預金の開放」を強く要求する必要が
ある。
毎月の積立協力預金等も事情を説明して一時停止し、
取り崩させていただくべきである。企業にとって、
銀行預金とは、まさに不慮の場合の資金繰りの
ための予備金のようなものだからである。
これまで誠実に返済を履行していながら、それでも
預金を開放していただけなければ、
その場で弁護士事務所か金融庁へ
電話するくらいの熱意が必要である。
3)借入金の返済一時停止(緊急避難的措置)
この点も前述したところなので、前項(8月23日号)
を参照されたい。
4)専門弁護士への相談
もし、売掛金の引っかりが月商の0.5ヶ月分以上に
及んだら、直ちに専門家に駆け込むべし。
それ以外でも、後述する法的手続きを選択する
場合はもちろんのこと、銀行に対し、預金の取り崩し、
返済の一時停止要請、買戻し交渉等は、対取引銀行
のみの問題にとどまらず、すべての金融機関に
少なからず影響するところであり、既に信用の失墜
した会社経営者自身がいくら頭を下げてお願いしても、
金融機関としてもすぐに「はい、わかりました」と
いうわけにはいかないのである。
そこには、
①公平、公正なる処置(弁済、情報開示)がなされて
いるか
②会社側の責任の取り方は適正か
③会社側に再建の見通しはあるか
④返済の約束が必ず実行される保証はあるか
等の判断がなされてはじめて、再建に協力すべきか
否かを決断するのであり、高度に専門性、経験等が
要求されるからである。
残念ながら、これらを判断するにも、当該会社
自身では説得力が希薄すぎるのである。
また、判断のためには、資料と時間が必要と
されるが、少なくとも、専門弁護士の過去の
会社再建の体験を調査すれば、本当にその会社の
再建計画や約束事が実行されているかはわかるもの
である。
普段から顧問弁護士に会社の決算書等の資料を
提出する等、顧問弁護士との付き合い方を検討
しておく必要がある。
5)法的手続きの検討(特に2000年4月より
施行される民事再生法の新設の意義)
せっかく会社が営業利益を計上しており黒字
体質であるのに、取引先の倒産を引き金に
自己の会社まで潰してしまうのは、誠に惜しい
ものである。
(但し、会社の売上高の50%以上が、当該
倒産企業(破産の場合)に依存していた場合は、
今後の会社の売上高が半減するだけに、法的
再建は困難なことが多いが)
現在、法が予定する再建手続きとしては、
①会社更生法②和議③商法上の整理の3つの
類型がある。
なお、和議手続きについては、2000年4月より
より簡便な「民事再生法」が施行され、和議法は
全面廃止される予定である。
ここで注意すべきは、経営者が残るか否かという
区別でいえば、会社更生法は、経営者の交替が
前提であり、民事再生法(旧和議)は、経営者の
続投が前提である。
従って、経営者の熱意、人格、発想、行動力、
人望にもよるが、経営者の求心力が会社再建の
重要な要素と見られる企業であるならば、
以下の民事再生法が最も適切となろう。
企業の再建に数多く関与していると、まさに
「企業は人なり」の言葉がつくづく実感される
ものである。
~この項つづく~