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落語読本 らくごの一文 [落語]『高津の富』桂枝雀〔text〕後編

2023-05-17 22:00:00 | 出来事/備忘録

▲また目ぇ覚ましたら、楊枝くわえてシュッと風呂行きまんがな。帰ってくるっちゅうとちゃんとお膳が出てますわ。布巾取って見るっちゅうと、ご馳 走が二皿三皿、銚子に燗が付いてますわ「何をしてんねん、そこへ座らんか い。俺も呑むけど、お前もいけ」女相手にやった取ったしてる内にホロ~ッ と酔いが回ってきまんがな「えぇあんばいなったなぁ、ここらでいっぺん寝 よかぁ」
▲目ぇ覚ましたら楊枝くわえてシュッと……
★おんなじこと何べん言ぅてな はんねん。そら「えぇあんばいやなぁ、ここらでいっぺん寝よかぁ」は誠に ありがたいこってす。ありがたいこってすけど、そら当たってからのことで すやろ
▲そぉです
★当たらなんだらどないしなはんねん? ▲……、当たらな んだら、ウドン食て寝るわ
★えらい違いやがな。ワァワァ言ぅております内に時刻がまいります。世話方が箱の蓋を取りま して、いっぺん中をば見物人にこぉ検めます。ポ~~ンと蓋をいたしますと いぅと、キリを入れる穴が開いてございます。これへ手をかけましてガラガ ラ、ガラガラ、ガラガラ、ガラガラ。 十分に振りましたところで最前申しました男の子、長ぁ~いキリのよぉな ものでプツッ、シュッと引き上げますといぅと先に小さな札が一枚付いて上 がってまいります。これを世話方が大ぉ~きな声で読み上げます。 「第一番のぉ~~、おん富ぃ~~」この声がかかりますといぅと、今まで ウワァ~~ッと言ぅてました見物、水を打ったよぉにシィ~~ンッ…… 「子ぇの千三百、六十、五番ぁ~~ん」
◆ワァ~~~~、ワッ!
▲どぉしたんです?
◆す、す、す、す、スレた
▲ス レたんかいな。ワァ~ちゅうから当たったんか思いますがな。わずかなスレ やったら金くれまっせ。何ぼほどスレたんです?
◆たったの、は、八百五十五
▲ぎょ~さんスレたぁるがな。またぞろ、ガラガラガラガラ……、プツッ!「第二番のぉ~、おん富ぃ~」
▲さぁ、わしの番や。女ごと一杯呑んで寝るか、一人でウドン食て寝るかの 境目になったぁるねん。やってもらお……。辰やろぉ~ッ?
▲さぁ、わしの番や。女ごと一杯呑んで寝るか、一人でウドン食て寝るかの 境目になったぁるねん。やってもらお……。辰やろぉ~ッ?
■辰のぉ~~ッ
▲辰? 八百かぁ~ッ?
■八ぁ百ぁ~く
▲五十やろぉ~ッ?
■五十ぅ~……
★もし、えらいもんだんなぁ……。あれだけ思い詰めたら出まっしゃろなぁ、あんた、ウドンやおまへんで、女と一杯呑んで寝れまっせ
▲おっき、ありが とぉ……。七番かぁ~ッ?
■一番ぁ~~~ん
▲はに、へほにはぁ~~。三番も突き切りますといぅと、当たりクジを紙に書いて張り出す。群集は 「きょうもあかんなんだ」といぅので、ゾロゾロぞろぞろ帰りかける、とこ ろへやってまいりましたのが空っ穴の親っさん。
●何じゃ知らん? きょうは大勢の人出……、ちょっと待っとくなされ、そぉ 押したらいかん、待っとくなされと言ぅんじゃ……、そぉじゃ、宿の亭主が 言ぅてた富の当日、ちょっと押したらいかん、待っとくなされ。富はどぉな りました?
◆とぉに済みましたで。当たりクジは正面に書いて張ってま
●さよか、おおきありがと……、待っとくなされちゅうに、これは大勢の人じゃ なぁ。
●潮が引くごとくとはこのこっちゃなぁ、世話方が後始末にかかってなさる。 正面、正面……、おぉ書いたぁった、書いたぁった。立派に書いたぁるなぁ。 何じゃて、一番が「子の千三百六十五番」二番が「辰の八百五十一番」三番 が「寅の千四十番」干支頭に竜虎、勢いのある番号が出たぁるなぁ……
●わしも宿の亭主に無理やり買わされた札が一枚あるが……、当たりゃせん ねでこんなもん。これは「子ぇの千三百六十五番」か。あの一番が「子ぇの 千三百六十五番」か……、当たらんもんじゃなぁ。二番が「辰の八百五十一 番」三番が「寅の千四十番……」辰に寅に、子ぇ。
●やれやれ、とぉとぉ一文無しの空っ穴か。一番が「子ぇの千三百六十五番」 二番が「辰の八百五十一番」三番が「寅の千四十番……」誰ぞ当たった人が あるのじゃろ。一番「子ぇの千三百六十五」二番「辰の八百五十一番」三番 「寅の千四十番……」
●一番が「子ぇの千三百六十五番……」諦め切れんなぁ。えぇ~ッと、これ が「番の五十六百三千の子ぇ……」さかさまや。これが「子ぇの千三百六十 五番」あの一番が「子ぇの千三百六十五番……」ふぅ~ん、ちょっと似たぁ るなぁ。これが「子ぇの千三百六十五番」あれが「子ぇ」の、子ぇの……、 子ぇの、ねぇの、ネェノ「千三百……」えッ? 千三百、六十……
●六十? 六十、えぇ? 五番……、五番? 五番、あれが「子ぇの千三百 六十五番」これが「子ぇの千三百六十五番」あたた、たたたた、たた、たた たた、た~ッたたた、あたたたた、たたあたたた、たたたたあたたたあた。
▲お帰りやす。どぉあそばした?
●たぁた、たたたたた、た~ッたたた、あ たたたた、たたあたたた、たたたたあたたたあた…… さて、高津のお宮さん、あとにやってまいりましたのが宿屋の亭主。
■さぁ、きょうや。世話はさしてもろてんねんけど、おのれで買ぉたことな いよってなぁ、旦さん「何が当たっても半分やる」ちゅうてなはった、あり がたいこっちゃで……。書いたぁる書いたぁる、一番が「子ぇの千三百六十 五番」二番が「辰の八百五十一番」三番が「寅の千四十番」なるほどなぁ、 当たりクジっちゅうのは当たりクジらしぃ当たりクジやで、今見たとこやけ ど、昔から知ってたよぉな気がするなぁ。
■旦さんのんが「子ぇの千三百六十五番」か、あの一番が「子ぇの千三百六 十五番」二番が「辰の八百五十一番」三番が「寅の千四十番……」シュッと 言えるなぁ。旦さんのんが「子ぇの千三百六十五番」あの一番が「子ぇの千 三百六十五番」二番が「辰の八百五十一番」三番が「寅の千四十番……」
■これが「子ぇの、千、三百、六十、五番」あの一番が「子ぇの」ん、子ぇ の「千、三百、六十、五番……」といぅのは、どぉいぅ番号や? ん? つ まりどぉいぅこっちゃ? え……、これはやな「子ぇの千三百六十五番」や、 あれが「子ぇの千三百六十五番」や。どこが違うねん?
■あれが「子ぇの千三百六十五番」これが「子ぇの千三百六十五番」当たっ たぁねんやがな……。たぁた、たたたたた、た~ッたたた、あたたたた、た たあたたた、たたたたあたたたあた……
■あ~た、たぁた、たたたたた、た~ッたたた、あたたたた、たたあたたた、 たたたたあたたたあた……
▲何でんねんな、妙な顔して?
■び、ビックリす なよ。高津の富が、当たったんじゃ!
▲んまぁ~ッ、富が、ふぅ~ッ……
■こら、お前がひっくり返ってどないすんねん。旦さんはどないしはった?
▲何や知らんけど、二階で寝間敷(ひ)ぃて寝たはります
■寝てる? この最 中(さなか)に寝てるやなんて。旦さん酒がお好きや、風呂の湯ぅ抜いて酒放り込め、下からボォ~ッと燃やせ。ドボンと飛び込んで呑んでもらお。
■ウワァ~~~~ッ、旦さん!!
●たぁた、たたたたた、た~ッたたた、あ たたたた、たたあたたた、たたたたあたたたあた……
■何をおっしゃる旦さ ん? 旦さん、旦さん、旦さん
●や、喧しぃ。やかましぃ言ぃなさんな
■旦 さん、たぁた、たたたたた、た~ッたたた、あたたたた、たたあたたた、た たたたあたたたあた……
●お前さん、何が起こったんか知らんが、人の寝間へ下駄履いて上がって来 るやつがあるか
■下駄? うわぁ~ッ、あんまり嬉しぃて、下駄脱ぐのん忘 れておりますねん。誠に相すまんこって。そんなことより旦さん、ちょっと も早よぉお祝い酒を。

 シュッと布団をめくりますと……

   ※※※※※※※※※※※※※※※※※※
 《後編 終了》
情報元:《【世紀末亭】http://kamigata.fan.coocan.jp/index.htm 》

落語読本 らくごの一文 [落語]『高津の富』桂枝雀〔text〕中編

2023-05-17 21:30:00 | 出来事/備忘録

 「何、用意がでけた、おっきはばかりさん。酌も給仕も何も要らん、一人 でキコンカイにやらしてもらいます。用があったら手を叩く」「どぉぞごゆっ くり……」悠々とお酒を呑みまして腹いっぱいごはんを食べますといぅと、 ゴロッと横になって寝てしまいます。 ガラリ夜が明けますといぅと、べつに用事は無いんですけれども、きのう 言ぅてた言葉の手前、いつまでも寝ているわけにもまいりません。朝早よぉ から起きまして...。

●お早よぉさん
▲旦さん、お早いこってございます
●ご亭主の姿が見えんよぉじゃが
▲朝からちょっと用足しに行ております
●わたしも、きのう言ぅてた 二万両の口、行てまいります。たいした額じゃありゃせんが、ちょっと行っ てまいりますでな。帰りは晩方になるやろと思うんでな、何もないがわたし の部屋ちょいちょいと気ぃだけ付けてもらいたい
▲かしこまってございます。 どぉぞお早よぉお帰り。
▲ポイッと表へ出ましたが一文無しの空っ穴で行く所がございません。城の 馬場から天満の天神さん、天神橋筋をば南へ南へ松屋町、二つ井戸、道頓堀、 心斎橋筋をブラァ~ブラ見物いたしまして、八幡筋を東へ。やってまいりま したのが高津神社でございます。
さて、高津のお宮さんでは久しぶりに許(ゆ)れた富やといぅので、大阪中 の人間が一人残らず寄ったかと思われる、えらい賑わいでございます。高津 のお宮さんは少々高台になっておりまして、階段上がりましたところにも大 勢の人出。正面拝殿の前には三方(さんぼう)の上に白木の箱が置いてござい ます。 この中へ札が入ったぁるわけで、横手に十ぐらいの可愛らしぃ男の子、熨 斗目(のしめ)の裃(かみしも)を着せまして柄の長ぁいキリのよぉなものが一 本持たせてございます。 世話方と見えます紋付袴の者が五、六人。その辺をば行たり来たりいたし ておりますが、集まった群衆「われが当てよ、俺が当てよ」といぅ人の熱気 といぅやつが、境内をウヮァ~~ッ、渦を巻いております。
★えらい人だんな、もし。これだけ人間がいてまんねんなぁ、大阪に、
■いて まんねんなぁ
★これ皆当てよと思てまんねんで
■当てよと思てまんねんなぁ。
★誰に当たりまんねやろなぁ
■誰に当たりまんねやろなぁ
★誰ぞに当たりま んねんで
■誰ぞに当たりまんねんなぁ……
▲あんたら大きな声で何言ぅてなはんねん「誰に当たんねんやろな?」て、 きょうのクジが誰に当たるかちゅうことは、ちゃ~んと分かってます
★えぇ、 何ですて?
▲ちゃ~んと分かってま。一番は知りまへんで、一番は知りまへ んけど、二番の五百両、誰に当たるかっちゅうこと、ちゃ~んと分かってま す
★アホなこと言ぃなはんな。そんなことが分かってたらワァワァ言ぃます かいな。
▲いいえ、分かってます。それが誰やといぅことを言ぃましょ~か。それは わたしです……。
▲言ぅたげまひょか、夕べ神さんのお告げがおましたんです。
▲わたしがウツウツッとしかけると、日ごろ念ずるお稲荷さんが出て来はって 枕元へポンと立ちはって「今年のぉ~、高津の二番はぁ~、お前にぃ~やる。 あてにしてぇ~、待て」
★ホンマですかいな?
▲ホンマでんがな。神さんのおっしゃることホンマに せんとどないしまんねん。この五百両といぅ金がわたいの懐へ転がり込んだ ら、これをわたいがどぉいぅふぅに使うと思いなはる?
★そんなこと分かり まっかいな、人の思いは一人ひとり違いますわいな
▲違いますけれどもでん なぁ、わたしがそれをどぉいぅふぅに使うかといぅことを……
★そぉでんなぁ、五百両あんねんさかいなぁ……、それを元手に手広ぉ商売 でもしなはるか?
▲いぃ~んや、そんなことしまっかいな
★やっぱりなぁ、 思いが違いますよってなぁ。ほな、それでデェ~ンと地所でも買占めなはる か?
▲いぃ~んや、そんなことしまっかいな
★思いが違うよってなぁ。日本 国中旅でもしなはるか?
▲いぃ~んや、そんなことしまっかいな ★……、ど ないしなはんねん?
▲いぃ~んや、そんなことしまっかいな。
★わたいが尋んねてますんやがな
▲よぉ尋んねとくなはった。その五百両で ね、まず大丸へさして浜縮緬(ちりめん)一反買ぉてきます。よろしぃか、こ れを京に染めにやる。染め上がったところをばツ~ッと二つにハサミを入れ る。細長ぁい財布をこしらえまんねん。
▲よろしぃか、こん中へ五百両を細かいもんに崩してザラザラ~ッと放り込 む。クルクルッと丸めるっちゅうとこれぐらいの塊ができる。これを懐へポ イッと放り込む。この辺がプッと膨らんで布袋さんみたいになりまっしゃろ、 これでわたい新町行きまんねん。
★何しに?  
▲「何しに?」って、新町でっせ、これだんがな。わたいこれ行 きまんねん。わたいのこれ歳はテンナラ・二十二。別嬪ちゅう女ごやおまへ んけど、色の白いポチャポチャッとした、いわゆる男好きのする顔ちゅうや つでんねん。笑ろたら笑窪がぺこっ!

★……、ノロケですかいな?
▲まぁ話、聞きなはれ。いつもやったらシュッと行ってサッと上がるんでっ けど、この日はそぉはしまへんで。一町ほど手前から鼻歌もんや ♪赤襟さ んではぁ~ 年季が長い。あだな年増にゃ~ 真夫(まぶ)がある♪ この声 聞ぃたらわたいのこれ、よぉじっとしてまへんで。二階からゴロゴロ転げる よぉに降りてくるなり「まぁ、松っちゃん、あんたどこ行きなはんのん?」
▲出てきたなぁ、これから一回りしてこぉと思てんねん「そんなこと言わん と、ちょっと上がんなはれ」残念ながら金が無いねん「お金が無かったかて、 いっつも上がるやないか。あんたにいっぺんでも恥かかしたことあんのんか? きょうに限って何を言ぅてなはんのん。上がんなはれ」
▲引きずられるよぉにして内らへ入るっちゅうと、トントントントンと階段 上がる。シュ~ッと襖開けるっちゅうと、江戸火鉢の立派なやつがデ~ンと据わってます。こんな分厚い座布団だっせ。女ごと差し向かえに座りますわ いな「まぁ、松っちゃん、長いこと来てやなかったやないか。ほかにえぇの がでけたんやろ。そらかまへんの、そこ行くのはかまへんねけど、せめてう ちにも月にいっぺんは顔見せとくなはれ、言ぅてまんのん……。松っちゃん」
▲「どこ向いてんねん、松っちゃん。こっち見なはらんか、松っちゃん」女 キュッと簪(かんざし)取って「おちょやん、これいつものおばちゃんとこ持っ て行ってあんじょ~してくるねんで」おちょぼが走る、金に替えて帰って来 る、それを帳場へ持たしてやる、何がしか別に残しといて紙で包んで「さぁ、 おちょやん、これ松っちゃんからでっせ。あんじょ~お礼言ぃなはれ。わてからと違うのん、うちのひとから……、松っちゃんから」
▲あんたらねぇ、ボヤ~ッと聞ぃてたらあきまへんで。ここ、一番肝心なと こだっせ。女ごがおのれの簪殺して造った金、おちょぼに祝儀やって「これ 松っちゃんからでっせ。あんじょ~お礼言ぃなはれや」この女ごの真実が分 からんのかッ!
★い、い、痛い痛い。耳引っ張りなはんな……
▲おい、酒五、六十本。茶碗蒸百ほど言ぅてこい「まぁ、松っちゃん、何を 言ぃなはんねん無茶言ぅたら困るやないか。今お帳場へ持って行ったお金、 わてがどぉしてこしらえたか見てなはったやろ。きょうはそんな無理言ぅね やないの。きょうは何も呑まんと寝んねしなはれ、もぉ遅いよってまたあし た」
▲何も呑まんと寝んねせぇ? 何も食わんと寝んねせぇ? 俺の口をばヒジ メル気ぃか
★すんまへんけど、ちょっと代わってもらえまへんか、ここ。今 まで気嫌よぉしてはりましてんけど、今度えらい怒ったはりますわ
▲ポ~ン と言ぅてやると何をいぅても相手は女ご、先立つものはただ涙「およ、よよ よよよ……」
★代わってぇな、今度は泣いてまんがな。
▲泣くな、吠えるな。金が無いっちゅうて泣いてんねやろ、金があったら文 句無いんじゃ。金ならここに何ぼでもあるわい。ちゅうて、ここでわたいが 懐の五百両をバ~~ンと放り出しまんねん。えらい音がしまっしゃろなぁ、 女ごキュッと引っ張ってみたらズシッと重い。これが金やちゅうことはすぐ に分かりますわ。 ▲「まぁ、松っちゃん、こないぎょ~さんのお金どないしてやってん。こな いだ鴻池さんへ賊が入ったちゅうこと聞ぃたけど、あんた賊の片割れか?」 何をぬかすねん、高津の富が当たったんじゃ「まぁ富が、どぉしょ~」どぉ しょ~もこぉしょ~もあるかい親方呼んでこい、証文持って来てもらえちゅ うやっちゃ。
▲この女ご、一文も値切らんとシュッと身請けをしてやって、小奇麗な家の 一軒も借りまんねん。そぉなったらわたい「朝風呂・丹前・金火鉢」ちゅう やっちゃ、何にもしまへんで。朝目ぇ覚めまっしゃろ、楊枝くわえてシュッ と風呂行きますわ、帰ってくるっちゅうとお膳が出てまんがな。布巾(ふっ きん)取って見るっちゅうと、ご馳走が二皿三皿。
▲おい、何をしてんねん。そこへ座らんかい「俺も呑むけど、お前もいけ」 ちゅうてね、女相手にやった取ったしてる内にホロ~ッと酔いが回ってきま んがな「えぇあんばいなったなぁ、いっぺん寝よかぁ」目ぇ覚ましたら楊枝 くわえてシュッと風呂行きまんがな。帰ってくるっちゅうとちゃんとお膳が 出てますわいな。布巾取って見るっちゅうと、ご馳走が二皿三皿「何をして んねんそこへ座らんかい。俺も呑むけど、お前もいけ」ちゅうてね、女相手 にやった取ったしてる内にホロ~ッと酔いが回ってきまんがな「えぇあんば いなったなぁ、いっぺん寝よかぁ……」

   ※※※※※※※※※※※※※※※※※※

   〔中編 終了〕
情報元:《【世紀末亭】http://kamigata.fan.coocan.jp/index.htm 》

落語読本 らくごの一文 [落語]『高津の富』桂枝雀〔text〕前編

2023-05-17 21:00:00 | 出来事/備忘録

 「金は天下の回りもの」てなことを申しますが、無いところには皆目無い。
 かわり、有るところにはもぉ嫌といぅほど有るのが、このお金といぅもんや そぉでございます。

●あぁ主(あるじ)さんかい、こっち入っとぉくれ、しばらく厄介になりますで

■ありがとさんでございまして、どぉぞごゆくりご逗留を

●あぁ、しばら く厄介になります。こんな恰好をしてますで、お前さんわたしのこと「何じゃ 知らん」と思てやろが。わしゃ因州鳥取の在のもんでな、これでも土地では 物持ちとか金持ちてなことをな……、嘘じゃありゃせん、ホンマじゃで。

●今度も二万両ばかりの取引じゃ。わずか二万両ばかりで、わしがわざわざ 出て来ることもないのじゃが、番頭が「久しぶりに、大阪見物兼ねてお越し になったらどぉでおます」こんなこと言ぅもんじゃで、うかうかと出て来ま したよぉなこってな。
 旅するときは、わざとこんなみすぼらしぃ恰好してま すのじゃ。
 お金だけはたんとありますでな。
●こないだもそぉじゃった。
 夜中に若いもんが大勢寄ってわぁわぁ言ぅてる 「どぉしたんじゃ?」「旦さん寝てなはるどころやござりません、表に賊が まいっとります」「賊? 賊ちゅうたら盗人はんじゃないかい? どっちみ ちお金が欲しゅ~て来なさったんじゃろ、大戸を開けて入れてやんなされ。
 うちゃ今、お金が有り余って困ってるところじゃないかいな、少ぉし持って 帰ってもろたら助かるで」ちゅうてな。
●大戸を開けてやると、ドカドカッと入ってきた賊が二十人あまりじゃ。
 金 蔵へ案内してやるっちゅうと、担げよるやつ、抱えよるやつ、運びよった運 びよった。
 そのうちに東がじぃ~んわり白いできた「さて、賊は金をどれぐ らい持って帰ってくれたかいなぁ?」と金蔵へ行て調べて見たら、あかんも んじゃなぁ、千両箱がたったの八十六しか減ったないねやで。わたしゃガッ カリしましたで、ヒャ~ッハッハッハッハッ……、嘘じゃありゃせん、ホン マじゃで。
●千両箱だけはたんとありますのじゃ。この頃は使い道に困ってな、漬けも んの重石(おもし)に使こてるてなこって。こないだも女中が「旦さん、漬け もんの重石が丸るぅて持ちにくございます。もっと持ち易いもんを」「そぉ かい、四角て重とかったらえぇのかい? 千両箱出しといたらえぇじゃない か」ちゅうてな、十(とぉ)ほど出さしといたんじゃ。
●しばらくすると「旦さん、漬けもんの重石無いよぉなってしまいました」 「そぉか、ほなまた十ほど出しときなはれ……」「旦さん、無いよぉなって しまいました」「十出しときなはれ……」「無いよぉなってしまいました」 「十出しときなはれ……」何ぼ出しても無いよぉなってしまう。おかしな具 合じゃなぁと思てると、近所でも漬けもん漬けるかして、みなが一つずつ担 げて去(い)による、ヒャ~ッハッハッハッハッ……、嘘じゃありゃせん、ホ ンマじゃで。
●何じゃて言ぃなさる「屋敷が広いか?」と聞きなさるのかい? 広いか狭 いか知らんが、門入って玄関に着きますまで、カゴに乗って四日かかります でな……。
 何じゃっちぃなさる「あいだの三日は泊まらんならんのか?」そぉ じゃ。そこでうちの屋敷には表の宿、中の宿、奥の宿ちゅうて宿場町が三つ ありますのじゃ、ヒャ~ッハッハッハッハッ……、嘘じゃありゃせん、ホン マじゃで。
●書生、掛人(かかりゅ~ど)、男衆(おとこし)、女衆(おなごし)、何じゃか んじゃで八百人からおりましょ~なぁ。
 ご飯炊くときが大変じゃで、いち時 に炊きますでな。大きな釜で大勢の人間がお手繰りで、米運ぶ水運ぶ、用意 のでけたところへ大きな男が釜の周りに五、六人も立ちよってドボ~ンと飛 び込んで、抜き手切って水加減いたしますのじゃ。
 こないだも一人溺れよっ てな、慌ててイカダ組んで助けに行たてな、ヒャ~ッハッハッハッハッ……、 嘘じゃありゃせん、ホンマじゃで。
■……、伺いましても、もぉ夢のよぉなお話でございます。
 そんなお話聞か してもらいましたところで、こんなこと申しますと、何じゃ足元へ付け込む よぉで恐れ入りますが、実は手前ども宿屋だけでは食いかねてる始末、あち らの周旋こちらのお世話などさしてもろとります。
 今度久しぶりに高津さん に富が許(ゆ)れましてな、この札を売らしてもろとりますよぉなこってござ ります。
■明日が当日でございまして、たった一枚だけ残りましてございます。
 ほか はみな売れたんでござりますけど「子の千三百六十五番」なかなかえぇ番号 でございます。
 旦さんのよぉな勢いのえぇお方、ひょっとして当たるやも知 れまへんので、この札を一枚買ぉて頂きますわけにはまいらんもんだっしゃ ろか?
●何じゃ、そら?
■富、富札でございます
●「富」ちゅうたら、どんなもん じゃ?■旦さん、ご存知やおませんので? これと同じ番号を書いた札が高 津さんにございます。
 明日それを突きますので。一番に当たりますと千両、 二番なら五百両、三番なら三百両と、こぉいぅことになっとりますので。
●すると何かいな、ひょっと一番ちゅうやつに当たっても千両さえ出しゃそ れでえぇのかえ?
■……、何でござります?
●運悪ぅ一番ちゅうやつに当たっ ても、千両さえ出しゃ堪忍してもらえるわけじゃろ
■えらい話が間違ごぉと ります。千両向こぉからくれますので
●くれる? くれるんやったら、そん なこと置いとこか。そんなややこしぃことは置いとこ。当たったところで千 両じゃろ、千両箱が一つじゃ。漬けもんの重石はうちにたんとありますで置 いとこ。
■旦さんにとりましては目腐れ金かも知れまへんけど、手前ども生涯かかっ ても見ることのでけん大金でございます。どぉでございまっしゃろ、お遊び にでもお買いになったら
●何じゃ言ぃなさる、遊びで買いますかえ、テゴで、 そら面白かろ。何ぼ上げたらえぇのじゃ?
■一分でござります。一分と申し ますと手前ども大変でございますけど、旦さん方にとりまして一分なぞ……
●一分といぅと、どんなもんじゃ?
■どぉいぅよぉなもん?
●わたしゃ小判 よりほか、使こたことがない……。あぁ、ひょっとしたら小ぃちゃな額が一 枚、あれでえぇのかい……。賽銭の残りがあったのじゃないかな、めったに 持たんのじゃが、ひょっとしたら有るかも分からん……、こんなもんでえぇ のかい?
■へ、結構さんにござります。ありがとぉさんでござります。どぉぞこの札を
●いやいや、そらそっちでえぇよぉにしてもらいたい
■そぉいぅわけにま いりません。お買い上げ願ごたんでございますから
●そぉか、ほなとりあえ ずもろとこか。何なに「子ぇの千三百六十五番」か……、なぁご亭主
■へっ
●何が当たっても、お前さんに半分上げると、こないしとこか。
■半分とおっしゃいますと?
●さぁ、みな上げてもかまやせんが、わたしも 運試しじゃ、テゴじゃでな、半分上げるとしとこか
■半分と申されますと?
●一番の千両が当たりゃ五百両、二番の五百両なら二百五十、三百両なら百 五十じゃ
■……、そんな大金をわたくしが、頂戴いたしますので……、あり がとぉございます。
●当たってからの話じゃで、ヒャ~ッハッハッハッハッ……、面白い人じゃ なぁ。まぁ、とにかくお腹が空いてますで御膳の支度をしとぉくれ。お酒の えぇのがあったら二本ばかり、ちょっと熱い目にしてもろて
■へっ……
●こ れご亭主、ちょっと熱い目にしとくれや、えぇお酒頼んますぞ……
●い、行ってしもた……、ヤマコもえぇ加減に張っとかないかんなぁ、あの 男、何を言ぅても本気にするもんやさかい、調子に乗ってしゃべってたら、 大事にしてた虎の子の一分、取られてしもた……。とぉとぉ一文無しの空っ 穴や……、まぁ、あれだけ言ぅときゃ、やいやい催促もしょまい。えぇ加減 呑み倒し、食い倒してスキ見て逃げたれ。

 (前編 終了〕
情報元:《【世紀末亭】http://kamigata.fan.coocan.jp/index.htm 》