主な登場人物 Ⅱ
《EHS平民》
▼セバスティアン・ヒック
通称サルド・ヒック(冷笑ヒック)。
本来は才能ある絵描きであったが、アンナと知人の「白人男性を肉体の魅力だけで誘惑し、テング化できるか」という賭けに巻き込まれ、嘱望された将来を失うことになった。
類まれな画才と魁偉な容貌を併せ持ち、自身に群がる女性に対しては冷淡かつ冷笑的(サルドニック)であったことから、ファーストネームとその態度をもじって「サルド・ヒック」と呼ばれていた。
しかしアンナの魅力に負けて恋い焦がれ、思いつめた挙句彼女の歓心を買おうと、受取人が差出人の身柄を自由にできる「白紙身売状」をアンナに差出してしまう。アンナはこれを容赦なく利用し、ヒックを赤Y字病院に強制収容、顔面にヒック自身の陰茎を移植した、アンナ専用の性玩具”「テング」”に仕立てあげた。
アンナへの性的奉仕に従事した後は、彼専用の”唇人形”兼秘書ヤプーのウズメを与えられて古代日本に派遣され、現在は子宮畜を飼育するフジヤマ飼育所の所長を務めている。
普段は天狗の面をつけており、彼に従う黒奴も烏天狗の面をつけさせられている。
《ヤプー》
▼カヨ
邪蛮国出身の子宮畜。
幼いころから、その容姿を”ハーフそっくり”と称えられた美少女。
フジヤマ飼育所で優秀な成績をあげ、選抜されてポーリーンに買われ、EHS世界に”昇天”する。ポーリーンの次女を子宮に移植されてからは、「白人の御胤の入れ物」として、胎教目的で表面上「名誉白人」の待遇を得る。
邪蛮国のハーフ俳優「クリント・ウェストウッド」の熱烈なファンである。
▼アマディオ
6倍体のヤプー。
同じ6倍体ヤプーのみを生産するタイタン星で生まれ、黒奴の管理のみを受けて育ったため、かつては白人(白神)の存在を否定していた。
ドリスの乗馬として売られ、抵抗空しく彼女に乗りこなされて後、彼女を主人として敬愛するようになる。
その体躯と才能により、現代の馬とは比べ物にならない走力を発揮する。
▼チカラ
6倍体のヤプー。
タイタン星出身で、アマディオの親友。ジャンセン家に闘牛畜”ベンケ”として買われ、幾人もの闘畜士”ウチワカ”を倒してきた実績を持つ。
ジャンセン家の別荘完成披露と、クララの社交界デビューを兼ねたパーティの余興として行われた試合で闘畜士カルメンに敗れる。
止めを差される寸前に、彼を哀れに思ったクララの希望で救命され、彼女の乗馬畜として仕えることになる。
後の内戦で麟一郎とともにクララを守り、”ベンケの立ち往生”を遂げることが明かされている。
▼キミコ
唇人形。
一般の唇人形とは違い奇形化手術は行われず、原ヤプーの姿のまま唇人形にされている。
ウィリアムのファンの平民が、ウィリアムにプレゼントした。
おてんばな性格が災いしてEHS貴族としてはファンが少ないウィリアムは、この贈り物のヤプーを気に入っている。
黒髪が美しい美少女であり、知能も旧世界日本の女子大教授に匹敵する博識であったが、ウィリアムに性的奉仕をする唇人形として洗脳され、性的玩具にされた。
両腕は無残にも後ろ手に鎖錠され、歯茎によるペニスマッサージ目的で歯を全て抜かれて、総入れ歯になっている。キミコの関心の対象はウィリアムのペニスだけであり、ウィリアムのペニスへの奉仕が彼女の生きがいとなっている。
▼チクヒト
初代の「ミカド・セッチン」として知られるヤプー首長家の血統のヤプー。
「ミカド・セッチン」はヤプー首長家の男系の男子から作られることになっており、性能の優秀な純血種として女王・皇太嬢専用である。
死後、彼が奉仕した女王の肛門をイメージさせる王宮の菊花畑に葬られ、ヤプー首長家では菊の花をシンボルマークとして使用するようになる。
■EHSとしての社会制度
《女権制》
EHSは女権制国家であり、EHSは女系の女子によって相続される女王による君主制国家である。
政治や軍事の大権は女性のみが持つ。人間(白人)の女性に代わって出産をする子宮畜(ヤプム)の使用が普及したことにより人間の女性が出産から解放され、女権革命が発生して女権制が確立された。
女権制が確立しているのは人間に限っての事であり、黒奴の社会では男性優位が続いている。
ヤプーは家畜であるので社会や家庭などは存在しないが、使役には通常雄のヤプーが使われている。
一般の雌ヤプーは出産によるヤプー増産に専念させられている。
財産権なども女性にのみ認められており、男性は女性に従属するだけの存在になっている。
家庭の戸主は女性(母親)が務める。家庭内では妻が夫に優越しており、女子の立場が高く男子の立場は姉や妹の下である。
男子は結婚前は母親の監督を受け、結婚後は妻の監督を受ける。
男子の結婚には戸主(母親)の許可が必要である。女権革命後のEHS社会では、男子の童貞性が重視されるようになっている一方で、女子の性的な放縦は当然と考えられており、女子の処女性は全く問題にされず、女子の婚前交渉や婚外交渉が堂々と行われている。
貴族女性は何人ものめかけを持つのが普通で、平民男子の憧れは貴族女性のめかけとなって、後宮(ハレム)に入ることである。
《地理》
EHSの首都は首都星カルーのアベルデーンである。
旧首都は最初に移住した惑星テラ・ノヴァのトライゴンであり、テラ・ノヴァは現在は皇太嬢領である。
「百太陽帝国」の名の通り百以上の太陽系を支配しており、支配下の星は人間が居住する「白い星」と、農業を主な産業として、牛や豚などの家畜が黒奴とヤプーに育てられている「黒い星」と、ヤプー養殖用の「黄色い星」に分類出来る。
白い星の地上には人間が居住しており、地下には人間に仕える黒奴の居住区がある。
地球はEHSでは辺境の惑星であるが、貴族の別荘地として利用されている他、旧日本列島にはヤプーの国家「邪蛮」国が存在し、原ヤプーの供給場・文化研究の実験台・猿山・貴族の狩場として用いられている。
《身分制度》
EHSの人間は女王を頂点に、数千家の貴族と平民に身分が分かれる。人間は全員が白人であるので、わざわざ「白人」という言葉を使う必要は無い。
肌が白いから人間なのである。貴族はほとんどが金髪碧眼の北欧系である。一方平民には南欧系の容姿の者が混じる。
ヤプーの使役、特に読心家具(テレパス)の使役やペガサスの乗馬にはOQ(命令波指数)が必要であり、貴族出身でもOQが低い者は平民に落とされ、平民でもOQが高いものは一代貴族に昇格する可能性があるなど、OQが高貴な身分を裏付けるものとなっている。
黒人は「半人間」とされ、黒奴として人間=白人に従属する限りにおいて限定的な人権を認められている。黄色人種は白人同様正規の人間だが、第三次世界大戦で使用された核兵器と細菌兵器で絶滅。
偽黄色人種であった日本人だけが生き残り、その末裔である家畜「ヤプー」が存在する。学説によって固められた「日本人=ヤプー=類人猿」の概念確立により、ヤプー=日本人は類人猿の一種で、旧時代において人間を僭称していただけだと考えられている。
ヤプーは家畜であるので、人権とは無関係である。もう一種の家畜人として、テラ・ノヴァの原住民であるペガサスが存在し、人類との戦争に敗北した後、馬に代わる存在として乗馬に用いられ、さらにその皮革は乗馬用具に用いられている。
黒奴が再び人間に対して反抗しないよう、EHSでは徹底した黒奴の管理が行われている。
黒奴は一日の出来事を「日記報告」として提出する義務が有り、他の黒奴の犯罪を知った場合は日記報告(デイリー・レポート)に記載する義務がある。日記報告に虚言を記載した場合は、私刑公売(オークション・フォー・リンチ)に処される。
私刑公売とは黒奴の人権を完全に剥奪し、ヤプー並みに落として公売(オークション)にかける制度で、落札した人間(平民が多い)が黒奴を好きな方法で虐殺して良い。
このような方法で、平民の嗜虐心を満たしていることが、EHS世界が平和である理由のひとつと考えられている。
日記報告は各地区・各惑星・最終的には全世界レベルで有魂計算機(ヤプーを組み込んだ高性能コンピューター)により照合されるので、黒奴の嘘は確実に発覚する仕組みである。
《国政》
EHSは大貴族の議員によって構成される貴族院と、中小貴族の議員によって構成される庶民院の二院制議会を持つ。平民に参政権は無いが投票権は認められており、平民によって貴族を対象とした人気投票が行われている。
貴族は特に平民に媚びを売るような事をしないが、人気投票の結果は貴族の発言力に影響するので、平民は間接的に政治参加しているとされる。
EHSの税制は身分が下の者ほど負担が重くなるようになっており、貴族は免税とされている。
これは「支配して頂く」ことに対する「謝金」を払うべきだという考えが普及しているからである。
EHSの司法は人間の間では、イギリス伝統のコモンローと衡平法を統合した帝国法による法治主義の建前が取られている。
コンピューターにヤプーを組み込んだ「有魂計算機」によって、裁判の公正は人間の労力をあまり必要とせず保たれるようになっている。
黒奴に対しても一応は法治主義の建前を持っているが、人間である白人と半人間である黒奴の争いでは、問答無用で白人の証言のみが採用される。
黒奴の人間に対する債務不履行は原則として死刑が適用される。
黒奴に対する刑法は極めて厳しく、黒奴は故意による犯罪はもちろん、些細な過失であっても死刑などの厳罰が下されることになっている。
多種多様な死刑が定められている他、過酷な刑罰が執行される黒奴刑務所も存在する。ヤプーの先祖(旧日本人)に伝わる地獄の描写は、黒奴刑務所での責め苦の様子が伝えられたものであるとされている。
黒奴の刑事裁判では「疑わしきは罰する」方針がとられている。黒奴に対する刑事裁判は貴族所有の奴隷の場合、人間の食後の余興(デザート裁判)として行われる。
弁護士役の人間と検事役の人間が、トランプや麻雀やボウリングなどのゲームで勝敗を争い、その勝敗の結果に応じて刑罰が科される。
なおこのボウリングのピンには死刑判決を受けた黒奴が縮小・複製されて入っており、主人に対する弁済と死刑執行も兼ねている。
黒奴同士の民事訴訟は「学級裁判」によって裁かれる。
学級裁判とは、人間の子弟の教育目的も含んで小学校から大学までの学校の放課後に、児童・生徒が裁判官・弁護士・検察官の役になり裁判を行う仕組みである。
第一審は小学校、控訴審は中学校、上告審は大学で行われる。裁判官役は級長格の女子によって務められるが、この女子をEHS史に残る名裁判官「エンマ・ダイオン」にちなんで、エンマと呼ぶ慣習がある。
民事訴訟であっても「付帯公訴」が行われ、検察官役の児童が何らかの刑罰を求めるのが通常である。
学級裁判では死刑以外の刑罰であれば何でも許されており、敗訴した側の黒奴は鞭打ちに処されたり、舌を麻酔無しで切除されたりする。学級裁判では誤判も相当な数で発生しているが、人間の子弟に対する教育効果を重視しているので、誤判による理不尽な裁きは、黒奴が甘受すべきと考えられている。
《食と排泄》
▼食事
EHSにおける人間の食事は、天然の素材を使用しているという点で、旧世界と変わらない。
だが、果物食が大きく取り入れられてEHS人の長寿の一因となっている。品種改良により果物自体の味が旧世界の果物の味よりも格段に向上しているので、大量の果物を食べることに苦痛は伴わない。
肉食では黒い星で生産された牛肉や豚肉が食べられている他、ヤプーの食用品種である食用畜(クレアプ)の料理も数多く存在する。
ヤプーは家畜であるので人肉食のタブーに触れることは無い。食用畜には「食べられて神様(白人)の一部となる栄誉」が徹底的に教育されており、食用畜は喜んで食用に供される。
ヤプー肉の調理にはショーユが使われている。
ヤプーを早い段階からショーユの味に馴染ませておこうという配慮から、タイムマシンで旧世界の日本に「ケッコーマン」社や「ヤンマース」社のショーユ会社のアンドロイドが送り込まれている。
EHS人は古代ローマ人のように宴席では、満腹になるまで美食を楽しんだ後に反吐盆(ヤプー)に嘔吐をして、胃を空にして更に飲食を続ける。
この際に反吐盆に回収された吐瀉物は「ヘード」と名付けられ、黒奴の食用に払い下げられる。
黒奴の食事は栄養管から供給される人工食糧のあてがい扶持である。人工食糧は物質増量機で合成されて作られている。
黒奴宿舎の食堂にある栄養管の蛇口は数種類あり、食べ物を選ぶ楽しみは若干与えられている。
黒奴の飲料水は人間が使用した下水であるが、特に濾過は行われず、殺菌だけが行われている。
しかし、黒奴の食事はこのような粗末な物なので、黒奴に不満は残る。その不満を解消するべく、黒奴の住む地下街には、黒奴酒酒場が開設されている。
黒奴酒酒場で供される酒は人間の小便であり、人工食糧に尿素からアルコールを醸造する酵素が混ぜられているので酩酊ができる。
メインディッシュは人間が着用した下着や靴などである。
また、ソースとして人間が嘔吐した吐瀉物が「ヘード」と称して供される。
▼衛生
EHSは「便所の無い世界」とされている。人間の糞尿は全てヤプーの肉便器である「セッチン」に飲ませたり食べさせたりしている。
ソーマの影響もありEHS人の体は代謝が活発になっており、一日に平均で大便を三回、小便を十二回ほど排出するが、セッチンを使用することで便の臭いが漏れたりしないので、EHSでは人前で排便する事は普通で、EHS人であれば誰もが堂々と人前でセッチンを使う。
セッチン使用は旧世界で言えば「鼻をかむ」程度の軽い無作法程度と認識されている。セッチンが飲み食いした糞便は管を通して回収される。
人間の糞は吸収されなかった栄養が多量に残っており、赤Y字社の本社や支社で錠剤や注射剤に加工されて、ヤプー用の万能薬「ミクソ」になる。
人間の尿は黒奴用の酒(黒奴酒・ネグタル)になる。
黒奴の食事に混入されている酵素の働きで、人間の尿が黒奴には酒として作用するようになっている。
排出者が貴族の場合は樽詰めされて銘柄付きの黒奴酒となり、排出者が平民の場合は瓶詰めされて無銘柄の黒奴酒となる。
またヤプーの宗教的な「洗礼」のために人間の尿が使われ、この場合人間の尿がヤプーにとっての聖水になる。このような背景から、人間にとっての「尿瓶」が黒奴にとっての「ジョッキ」になり、ヤプーにとっての「聖水瓶」になる。黒奴の糞尿は先端器(コブラ)を備えた真空便管で吸い取られ輸送される。
これらの排泄物や厨房から出るゴミなどのあらゆる有機不要物は、全て粉砕されて畜乳(ヤップミルク)または黄液(エロージュース)と呼ばれる液体になり、ヤプーを飼育する栄養源としてヤプーの体内に吸収される。
生体実験用や食用といった特殊用途や、生体家具として畜体循環装置(サーキュレーター)を取り付けられたヤプーを除き、ヤプーはペガサスと共生関係にあるエンジン虫(学名・アスカリス・ペガスス。他星のサナダムシ)を改良した種を寄生させられ、宿主のヤプーはエンジン虫を肛門から出して吸収させ、エンジン虫は畜乳を自身の体内で宿主用の滋養に変換して体外に排出したものを宿主が吸収する。
この際ヤプーの老廃物はエンジン虫に吸収され、その際にエンジン虫は僅かな硬直が見られるのみで老廃物の排出は行わず、結果ヤプーは排泄を必要としないので「便所の無い世界」が実現できている。
■単行本・文庫本
▼都市出版社
(1970年発行 ASIN B000J96380)
全28章。
『奇譚クラブ』連載版に加筆されている。白人女性アンナ・テラスを天照大神とする記述が右翼から抗議を受けたといわれる。
▼角川文庫版
(1972年発行 ISBN 4041334012)
全28章。
都市出版版に更に加筆・修正されている。
▼角川限定愛蔵版
(1984年発行 ASIN B000J75XW4)
全31章。
『続家畜人ヤプー』として発表された増補を含む。
▼
ミリオン出版版(1991年発行 ISBN 4886721249)
完結篇YAPOO,THE HUMAN CATTLE,2と銘打たれている。
第29~49章を収載。装幀・画は奥村靫正。
▼
幻冬舎アウトロー文庫版 内容は太田出版版と同じ。
1巻 ISBN 4877287817
2巻 ISBN 4877287825
3巻 ISBN 4877287833
4巻 ISBN 4877287841
5巻 ISBN 487728785X
▼辰巳出版:血薔薇4号
(1969年6月発行)に掲載された
『家畜人ヤプー』全文を再現(一章~十章)。
▼掲載書籍
康芳夫 監修
『虚人と巨人 国際暗黒プロデューサー 康芳夫と各界の巨人たちの饗宴(2016年9月1日)』
巻末特典 康芳夫コレクション内。
※28章までと、それ以降(一説によると21章以降)では、文体や内容に多く差異が見られるため、途中で執筆者が交代したとの説がある。また、Aパートを1章から20章、Bパートを21章から31章、Cパートを32章以降とし、それぞれ執筆者が異なるという説や、Aパートに関してはそもそも複数の人間の手になると言う説もあり、著者の正体と合わせて、その成立過程はハッキリしない。Cパートのみは、作者がハッキリと分かっており、現在公式に沼正三を名乗る天野哲夫の手による。
また、太田出版版は、全体に天野哲夫が再構成したことが知られており、読む際には注意が必要である。
〔ウィキペディアより引用〕