いつもご覧下さり、誠に有難うございます。
さて、過去ネタの復刻版の第3弾は、のれん非償却に起因する「ウォータード・ストックの恐怖」。2007年と2017年に警鐘を鳴らす意味で投稿しております。
まずは当時のネタをご覧下さい。
企業会計基準委員会の斎藤静樹委員長(当時)による、日本の会計基準を巡る当面の重要テーマなどに関する講演を聴きました。
国際会計基準との相互承認に向け国際会計基準審議会(IASB)との交渉の矢面に立たれているだけあって、同基準の問題点や
IASBへの不満をやんわりと表明するなど、聴き応えのある講演でした。
その中で私が印象に残ったのは、企業結合会計における「のれんの非償却/償却」問題のくだりです。
このブログでも何度かご紹介している通り
米・欧会計基準ではのれんは償却せず、減損処理だけで対応します。
彼らの理屈は、買収後の事業について継続企業として価値が維持される限り、のれん代は償却すべきでない、という立場。
しかし、実務面では時価の計算方法などで「恣意性が働く」おそれはある。
本来はのれんの減損が必要なケースでも結果的に減損が認識されなかった場合、
「自家創設のれん」の計上を行ったことになる。
そんなこともあってか、斎藤委員長は「のれんの非償却は非常に恥ずかしい会計処理」とボロクソの評価です。
国際会計基準との相互承認に向け国際会計基準審議会(IASB)との交渉の矢面に立たれているだけあって、同基準の問題点や
IASBへの不満をやんわりと表明するなど、聴き応えのある講演でした。
その中で私が印象に残ったのは、企業結合会計における「のれんの非償却/償却」問題のくだりです。
このブログでも何度かご紹介している通り
米・欧会計基準ではのれんは償却せず、減損処理だけで対応します。
彼らの理屈は、買収後の事業について継続企業として価値が維持される限り、のれん代は償却すべきでない、という立場。
しかし、実務面では時価の計算方法などで「恣意性が働く」おそれはある。
本来はのれんの減損が必要なケースでも結果的に減損が認識されなかった場合、
「自家創設のれん」の計上を行ったことになる。
そんなこともあってか、斎藤委員長は「のれんの非償却は非常に恥ずかしい会計処理」とボロクソの評価です。
かくして日本基準は、のれんを毎期償却かつ、必要に応じて減損処理も行う。
ですので、ここ数年において、欧米企業で発生した「のれん」は減損処理で一気に取り崩されたケースを除き、償却されないまま現在に至っているってことになります。
で、結果としてバランスシート上では、
資産サイドに計上されている「のれん」に対し、その同額の「資本」が留保されている、ってことです(数年分の償却費が計上されていないことになるので)。
でも減損処理で一気に取り崩し・・・・の場合には、両建てで双方の残高が減少するってことになります。
要は、現在の欧米企業の資本は「のれん」の額だけ嵩上げされている、という見方が成り立つわけです。
これが1920-30年代のアメリカでは「ウォータード・ストック」=水増しされた資本と呼ばれていたそうです。
で当時、過大なのれんを抱える企業の株価が急落(ついでに、そうでない株も売られたと)。
これら企業はのれんを償却しようとするも、原資となる利益が無い。
そこで、資産を再評価して、その剰余金でのれんを一気に償却してしまったと。
これを見たアメリカの会計士は激怒。そこで1932年、AIA5原則というものを発表。
このうち2番目の原則が、
「資本と利益は明確に区分すること。
資本剰余金は将来収益で償却すべきものの償却原資としてはならない。」
翻って現代。
のれんをいざ減損!という場面で、原資となる利益があるのか?といった問題が再度噴出する可能性は否定できない。
で、償却原資が無い場合、当時のアメリカのように、また何か救済策をやってくるかもしれないと。
歴史は繰り返すのかも知れない。斎藤委員長はそう結んでおられましたが、私も同感です。
そこで、資産を再評価して、その剰余金でのれんを一気に償却してしまったと。
これを見たアメリカの会計士は激怒。そこで1932年、AIA5原則というものを発表。
このうち2番目の原則が、
「資本と利益は明確に区分すること。
資本剰余金は将来収益で償却すべきものの償却原資としてはならない。」
翻って現代。
のれんをいざ減損!という場面で、原資となる利益があるのか?といった問題が再度噴出する可能性は否定できない。
で、償却原資が無い場合、当時のアメリカのように、また何か救済策をやってくるかもしれないと。
歴史は繰り返すのかも知れない。斎藤委員長はそう結んでおられましたが、私も同感です。
◼️2017年1月
Accounting(企業会計) 2017年 01 月号 [雑誌] | |
中央経済社グループパブリッシング |
詳細は原文をお読み頂きたいのですが、斉藤先生は「のれん非償却会計」について否定的な立場。
「歴史の教訓:結びに代えて」で次のように記載しております。
1920~30年代に確立したといわれる米国の近代的な会計制度は、不十分なのれんの償却の後始末という一面をもつものであった。
19世紀末葉から20世紀初頭の合併ブームが生み出した企業には、多額ののれんを抱えたまま十分に償却しないものも多く、その「水増し資本」が招いた市場の保守的なリスク評価と資本コストの上昇によって、結局はのれんの切下げに追い込まれる。
しかし積み上がった残高はもはや利益で償却できるレベルではなく、代わりに資産の簿価を切り上げて創出した剰余金にチャージする実務が横行する。それが再び市場の不信を招いたのである。
(中略)全般に多額ののれんが積み上がっていると指摘される昨今の実情には、歴史を振り返って「いつか来た道」という懸念を禁じ得ない。
この論考を読んで私は、ちょうど10年前に書いたネタ 2007年1月25日付「ウォータード・ストックの恐怖」を思い出しました。
当時、斉藤先生は全く同じ内容で警鐘を鳴らされていたのです。
「それで? 別にいいんじゃない?」
そう思われる方は多いかと思われますが、ちょっと待って下さい。
当時、その後に何が起きたのか?
そうです。1年半後に、あのリーマンショック。
のれんの巨額減損などもあり、恐れていたことが一部実現してしまったのです。
ということは、今回もリーマンショック級の大調整が来るかもしれませんよね。
折しも、NYダウは歴史的高値。S&Pなど主要な指数を構成する会社の多くが純資産の100%を超えるのれん又は無形資産を計上し、一部の会社は時価総額の100%を超えている等の調査結果もあり、機は熟しているのかも。
金融緩和とのれん非償却。この「鉄板」組み合わせが紡ぎ出す、暴走気味なM&Aスト-リー。そろそろいい加減にしろよと言いたいのは斉藤先生と私だけか。
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あれから7年。
米国基準やIFRSの「減損のみ」(定額償却禁止)によるのれん処理は,“Too little, too late”(少額すぎて遅すぎる)と批判されていて、一時見直しの機運も見られたものの、現在においても大きな進展は見られていない。
その結果、のれんの残高がどこまで積み上がったのかといいますと・・・・・。
証券監督者国際機構 IOSCOによると、米国S&P50種構成企業におけるのれんの総額は金融危機の2008年には1兆6000億ドル(約231兆1900億円)だったが、2021年には2倍を超える3兆7000億ドル(約534兆6300億円)まで増加した。欧州連合(EU)の上場企業1477社では、2019年の総額は2013年比約50%増の1兆6000億ユーロ(約252兆1000億円)。
さすがにヤバイと感じたのか、2023年6月にIOSCOは「のれん減損で、より厳しい会計規則が必要」と提言。
しかしここ20年のM&Aブームの立役者とも言える会計基準を一体誰が止めることができるのか?
斎藤先生が仰っていた「いつか来た道」、やはり行くところ(株価大暴落)まで行っていまうのか。