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マイナス金利の恐怖

2016-02-23 | 会計・株式・財務
いつもはユルいネタばかり取り上げておりますが、今回はちょっとシリアスな問題を。
最近はこの本を読み、併せて週刊ダイヤモンドや東洋経済HPなどに著者の考えをまとめた関連記事がありましたので、自分の備忘のためにポイントをメモしておきます。下手なホラーより寒気を感じますよ。

マイナス金利
徳勝礼子
東洋経済新報社


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・円安効果を狙った日銀のマイナス金利政策の陰で、もう一つのマイナス金利が進行している。

・このもう一つのマイナス金利は、日銀版の副作用よりも恐ろしい実情を浮かび上がらせる。
 それは邦銀が円を貸す代わりに、米銀など海外投資家からドルを借りる「為替フォワード取引」で発生している。

・日本企業の間でドル需要が高まっている一方、金融規制強化のために米銀がドルを貸したがらなくなっている。さらに異次元の金融緩和によって、円の供給が急増したため、円を借りたい人よりも、ドルを借りたい人がはるかに多くなってしまった。
その結果、為替フォワード取引で、邦銀が円を貸す際の金利(貸料)を大幅に引き下げないと、ドルが借りられなくなり、ついには邦銀がマイナス金利(手数料)を付ける形でドルを借りるようになった。

・ここ最近、海外投資家による日本国債の保有比率が増加しているが、背景にはマイナス金利があるとされる。
 海外投資家からすれば、邦銀から「マイナス金利=手数料をもらって」円を調達できるので、超低金利(もしくはマイナス金利)の日本国債に投資しても利ザヤを稼ぐことができる。つまり、安全資産として日本国債を買っているのではなく、マイナス金利で円が調達できるという「うまみ」があるから投資しているに過ぎない。

・これは、円という通過の魅力が低下していることと同義。巨額の借金を抱えている日本の金利が低いことを疑問に思う人は多い。逆説的であるが、実は、財政リスクがあるからこそ、マイナス金利が発生しているのだ。

・こうしたマイナス金利は、為替フォワード取引のみならず、国債レポ取引でも定着してきており、徐々に金融市場の世界を侵食。景気を刺激するはずのマイナス金利は、高成長どころか、逆にマイナス成長に作用するパラドックスは、日本経済の衰弱死という最悪の未来を暗示している。

・すなわち、マイナス金利はインフレタックスと同様で、徐々に国の借金が国民の資産によって少しずつ強制的に埋め合わされていく形で、衰弱死的な経済になっていくように思われる。

・これまでいろいろな形で予想されていたドラマチックなハイパーインフレや、国債暴落、日本国の破綻は起こらず、金融抑圧の究極的な形態としてのマイナス金利が最終的に財政のつじつまを合わせていく、という可能性があるのではないか。

・マイナス金利が最終的にはマイナス成長を招くという展開が構造的になっていくのを避けるには、低成長を正面から受け入れ、財政規律を取り戻すこと以外にない。

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異論もあるでしょうが、浅学非才な私にとっては、壮大なスケールで『ミステリーのネタばらし』をしてもらったという感覚です。 
処方箋として「低成長を正面から受け入れ、財政規律を取り戻すこと以外にない」とあるが、今の政府にはそんな気はさらさら無いのでしょう。だとすれば、この国はどうなるのか、我々はどうすべきなのか。



・・・・とここで終わると「NHKスペシャル」のように無責任で良いのですが、少し会計的な味付けもしておきましょうか。



週刊経営財務2月22日号に「マイナス金利、会計実務にも波及」というコラムがありました。
ざっとまとめると次のような内容です。

・国債の利回りが関係する会計処理には、「退職給付債務の算定」や「資産除去債務」、「固定資産の減損」などがあり、企業から会計士への問い合わせが出始めている。

・マイナス金利の利用には2つの問題がある。
1つ目は、そもそもマイナス金利とは何か。マイナス金利によって算定した結果をどう解釈すれば良いか、という疑問の回答がないこと。
2つ目は、マイナスのまま使うにしても、システム対応の状況確認が必要であること。

特に、前者については対応しずらく、マイナス金利を巡る疑問から次のような問題点が浮かび上がる。
「理論的にマイナス金利はありうる(実際に起こっている)が、実務感覚では、これを反映した会計処理を受け入れづらい。」
「問題の所在がわかりづらい」

・今後のマイナス金利の動向を予想して、「ゼロドメ(マイナス部分をゼロで代替)で良いのでは」や「マイナスのまま処理するしかない」といった両輪が関係者の間から聴こえてくるが、とにかく「時間がない」中での現実的な対応ということ、そして誰がどのようにこれを解釈するのかはまだわからない。



とまぁ、会計実務の現場では、「日本の財政危機」そっちのけで大混乱の予感がします。



おあとがよろしいようで。

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