◆「財務アナリストの雑感」 2024◆

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「注記の2025年問題」になるかも ~財務制限条項の開示義務化に思う

2024-01-12 | 会計・株式・財務
いつもご覧下さり、誠に有難うございます。

さて本日のネタですが、日経にこんな記事が出ていました。記事はぜひ現物でご確認ください。

融資コベナンツ、25年4月から開示 企業のリスク可視化

(ポイント)
・金融庁は上場企業に銀行と結んでいる財務制限条項(コベナンツ)や特定の株主との重要な契約の開示を義務付ける。特にコベナンツは資金の出し手の判断を左右する重要情報だが、公開する企業は一部にとどまる。企業のリスクを見えやすくして投資家保護など市場環境を整える。
・企業開示に関連する内閣府令を24年4月1日付で改正・施行する。25年4月以降に提出する有報や臨時報告書から適用する。

・ルール改正により企業が融資や社債で資金調達する際、元本や発行額が連結純資産の10%以上ならコベナンツの中身を記載した臨時報告書を提出する義務を負う。
既にあるコベナンツ付きの融資や社債に対しても残高が連結純資産の10%以上なら有報に詳細を記す
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たとえばどんなコベナンツがあるのかというと、見出し画像のように、純資産維持条項(例:純資産を前期末比75%程度を維持)、利益維持条項(例:2期連続赤字はダメ)などが代表例です。
予め決めた水準を維持できないと「期限の利益」を喪失してしまい、金融機関に対して即座に借入金を返済しなくてはなりません。

まぁ日経記事にあるように、メガなど大手行を中心として開示にはネガティブなんでしょうね。貸し出し態度が推測されてしまうし、苦労して編み出したノウハウ・手の内が明らかになってしまうこともあるでしょうから。

しかし、ひるがえって他の金融機関等からしますと、非常に有用性があって読み応えのある注記になる可能性は高い。

皮肉なことに、信用力が低い上場企業においては、有報の提出日には株式投資家ではなく融資関係者が一斉に飛びつくかも

おっと、忘れてならないのは、当の上場企業です。
ただでさえ開示負担が増す中で、新たにコベナンツの内容まで開示させられて、内容如何では金融機関の貸出態度が悪化するというケースも出てくるでしょう。公取委の例の「企業買収における行動指針」を受けて買収リスクも高まっており、いっそのことMBOによって非上場化しちゃおう!と考える企業が増えるかもしれません。

参考までに23年12月4日拙稿「上場廃止MBO続出の理由に思う」からポイントを再掲しておきますね。 

◆何がMBOに走らせているのか?
⓵上場に伴うコスト、面倒くささがここ数年でかなり拡大
四半期決算開示、英文開示、非財務情報を組み込んだ統合報告書の作成、IR活動。
おまけにガバナンス改革(→オーナー系企業では「オレの会社」への口出しに拒絶反応高い)
②「買収されるリスク」の高まり
23年8月に、経済産業省が「企業買収における行動指針」を発表
→敵対的買収であっても企業価値を高めてくれるものならば真剣に検討しろと
         ↓
オレの会社を取られたくない
→MBOで株式市場から退出

かように色んな当事者が振り回される開示情報になりうるので、とりあえず私は「注記の2025年問題」と呼称してフォローしていきたいと思います。


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