風の中に、リスの声が、聞こえたような気がしました。
ずうっとまえ、別れたままの、リスです。
よい毛並みで、くるんくるんのしっぽ、丸いきらきらの黒目をしていました。
わたしたちは、とても仲良しでした。
よく一緒に、森の木に登ったり、枝に並んですわって木の実をかじったりしました。
わたしは、運動神経があまりよいほうではないので、ゆるゆると木に登っている間に、
リスは、あっという間に木のてっぺんや、小枝の先まで行き、
わたしのぶんまで、たくさん木の実をとってくれました。
木の実は、わたしが食べやすいようにと、ていねいに、むいてくれました。
やさしいリスでした。
リスは、さわさわと木々をゆらす、まるで森の風のような、すてきな声を持っていました。
その声で、風とデュエットして、歌をきかせてくれたりしました。
けれども、ある日とつぜん、リスは、森から出ていってしまいました。
さよならも言わずに。
春の終わりでした。
リスにはリスの次第があったのでしょうか。
仲良しだった日々のことを思うと、いたたまれず、
わたしは、二度と木に登ることも、木の実をかじることも、しなくなりました。できなくなりました。
風が吹くたび、わたしは、つい、その中に、リスの歌声を、さがしてしまいます。
耳を澄ませると、時々、風に乗ってきこえてくるような気さえするのです。
……いま、きこえたかしら?
……いえ
……いえ、やはり、風の音でした。
リスの声は、耳の記憶のいちばんよいところに置き、春の風を吹かせるのです。
その風を持ち、季節を渡ると、
そうすれば、この世のかなしみはのいくつかは、森から天に吹く風に乗せることができるでしょうか。
ずうっとまえ、別れたままの、リスです。
よい毛並みで、くるんくるんのしっぽ、丸いきらきらの黒目をしていました。
わたしたちは、とても仲良しでした。
よく一緒に、森の木に登ったり、枝に並んですわって木の実をかじったりしました。
わたしは、運動神経があまりよいほうではないので、ゆるゆると木に登っている間に、
リスは、あっという間に木のてっぺんや、小枝の先まで行き、
わたしのぶんまで、たくさん木の実をとってくれました。
木の実は、わたしが食べやすいようにと、ていねいに、むいてくれました。
やさしいリスでした。
リスは、さわさわと木々をゆらす、まるで森の風のような、すてきな声を持っていました。
その声で、風とデュエットして、歌をきかせてくれたりしました。
けれども、ある日とつぜん、リスは、森から出ていってしまいました。
さよならも言わずに。
春の終わりでした。
リスにはリスの次第があったのでしょうか。
仲良しだった日々のことを思うと、いたたまれず、
わたしは、二度と木に登ることも、木の実をかじることも、しなくなりました。できなくなりました。
風が吹くたび、わたしは、つい、その中に、リスの歌声を、さがしてしまいます。
耳を澄ませると、時々、風に乗ってきこえてくるような気さえするのです。
……いま、きこえたかしら?
……いえ
……いえ、やはり、風の音でした。
リスの声は、耳の記憶のいちばんよいところに置き、春の風を吹かせるのです。
その風を持ち、季節を渡ると、
そうすれば、この世のかなしみはのいくつかは、森から天に吹く風に乗せることができるでしょうか。