きみの靴の中の砂

僕が幼い娘のポートレートを撮ったカメラ




 『ゼンザブロニカ』 ---- なつかしい名前だ。2005年、そのブランド名は消滅した。六センチ四方の中判ネガ市場が急激に縮小したためという。一度使えば手放せなくなる程の緻密な描写が身近から遠ざかったのだ。
 市場縮小の原因は、なにもデジタルカメラのせいだけではない。画像を取り込み、処理するコンピュータや焼き付けのコストも大きく関わる。文明の進歩には、それまでの日常の多くが否定される。かつて、駕籠や大八車が、その存在価値を失ったのと同じに...。

 その昔、僕が幼い娘のポートレートを撮った、このカメラも、今は使われずに机上で半ば文鎮の代わりになっていた。ところが偶然にも、それを竹馬の友が使ってくれるという。僕のゼンザブロニカは、次の日曜日にもらわれていくことになったのである。
 お別れに、最後のフォルムを記録した。


 

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