きみの靴の中の砂

値段は聞かないでおこう






 横浜みなとみらいクイーンズタワー / ハード ロックカフェ。

 大きな観覧車がそびえて見える。
 週日の昼も過ぎて人影もまばらな午後だ。
 スピーカーからエリック・バードンの声が聞こえている。

 久し振りに会って、席に着くなり、
「最近、書いてる!?」とイチ子。
「うん、短いものばかりだけど...」
「今でもたまには、あたしも出演してますか」
「うん、2時間サスペンスの山村紅葉ほどの頻度ではお出まし頂いておりますよ」
「止めてよ! それじゃあ、出ずっぱりじゃないの」と小さく鼻で笑う。

 きみはまた『サンタフェ・スプリングロール』 ----- どこが好きなんだろう。ぼくに言わせれば『旨からずも不味からず』だ。まあ、今日のところは『サンタフェの春巻き』を悪く言うのは止めておこう。
 ぼくは、
「脂質が多いから止めたほうが...」といつもきみに言われる『フィッシュ & チップス』。注文を聞いてくれたのは、額の広い、若いホール担当の女の子。
「タルタルソースは使わずに、代わりにワインビネガーでお願いします。バルサミコでも構いません」
 イレギュラーな注文に、まだ仕事に慣れてなさそうな彼女が戸惑っているのがわかる。

「食事の後、買い物に付き合ってよ。欲しいランプを見つけたんだ。でも、買おうかどうか、まだ迷ってて...」

 きっと、またいつものガレ風のランプに違いない。今日も値段は聞かないでおこう。趣味に使う金額なんて、当事者の頭の中で、その価値観とバランスが釣り合ってさえいればいいだけのことなのだから。




【The Animals / I'm Crying】


 

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