きみの靴の中の砂

路上




 昭和21年に始まった《読書週間》。なんと、今年で61回目。今年(10/27-11/9)のキャッチ・フレーズは『君と読みたい本がある』だった。毎年、この時期は、各出版社とも自信作を繰り出してくるのが恒例である。

 そこで、今年の初めの頃の話になるが、欧米の翻訳文学出版の旗手・河出書房新社が、創業120周年記念企画として、同社の戦後何度目かになる『世界文学全集』を秋に出版するというアナウンスがあった。
 海外の優れた文学の、その多くが、河出書房新社によって初めて日本に翻訳紹介されてきた実績は、すでに揺るぎない金字塔である。
 今回は編集委員会を編成せずに、文学者・池澤夏樹さんによる単独編集である。
 余談だが、池澤さんの書評家としての実力は、今の日本には追随する者がいない。その彼にとって、20年ほど前にウッカリ芥川賞をもらってしまったのは、むしろ不幸な出来事だったかもしれない。小説など他の人に書かせておいて、書評家の道を最初からまっしぐらに歩んでもらいたかった。

 さて、全24巻(第一、二集各12巻ずつ)のラインナップは、彼の書評家としての本領を十二分に発揮したものになった。読者によっては、その中に今まで聞いたこともない作家の名前が含まれているかもしれない。編者が宣言として掲げた一文にあるように、「三か月で消えるベストセラーではなく、心の中に十年二十年残る読書体験」を目ざした編集意図があるので、知らない作家の作品であっても、何も疑わず、彼を信用して読んでもらいたい。
 私がここ40年近くも憧れている地味な作家の地味な作品も何編か含まれていて、やっと日の目を見たかと溜飲が下がる思いがあるのは、第二集に含まれているイタリア人作家・アルベルト・モラヴィア(故人)の《軽蔑》と「20世紀アメリカ文学を代表する作家をたった一人だけ選ぶならこの作家」とアメリカではすでに定説になっているトーマス・ピンチョンの《ヴァインランド》である。
 しかし、翻訳者の力量にもよるが、これら2冊が娯楽小説のようにとびきり面白いかというと、そうではないと最初にお断わりしておこう。ただ、良い翻訳ならば、原書が私達の使う言語と異なっていても、原作者が燃えるような想いで初稿を執筆した当時の、その制作現場のライブな雰囲気を共有できるに違いない。

                     *

 11月9日に刊行された記念すべき第一回配本は、現代アメリカにおいて、文筆で身を立てようと夢見る若者達にとって、まさに《バイブル》の一冊-----鬼才ジャック・ケルアックの『オン・ザ・ロード(路上)』である。


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ジャック・ケルアック本人による『路上』の朗読


FINIS
 

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