きみの靴の中の砂

春の日は過ぎゆく




 フリーの録音技師の青年・サンウ(ユ・ジテ)と構成、編集、MC を一人でこなすラジオ番組のパーソナリティの女性・ウンス(イ・ヨンエ)は、冬も近いある朝、仕事のために、ある田舎の駅の待合室で初めて出会う。

 純粋なサンウは、やがて年上で何もかも大人のウンスに恋心を抱き始める。
 そして、それは次第に見つめ合う恋になって.....。

 しかし、ウンスの態度は逢うたびに気ままな様相を見せる。サンウには、その理由が理解できない。一途なサンウの気持ちは、冬が来て、春が来て、そしてまた一年後の桜の花咲き乱れる春の別れの時が来るまで、終始揺れ続けるのである。

 年上のウンスには隠しているが離婚歴があった。しかもサンウに対し、自分が旧家の一人前の主婦になれる証である『キムチを漬けられる』と嘘を言う。

 三世代同居という、韓国ではいわゆる伝統的な旧家の形態をとるサンウのような家庭、しかも儒教思想の健在な韓国で、ウンスのように離婚歴があり、キムチも漬けられない女が嫁に入れるわけなどないことは、ウンス自身が一番よくわかっていたのだった。それが理由で、ウンスのサンウに対する態度は揺れたし、サンウのウンスに対する気持ちも揺れた。

 別れた後、草原に録音機器を据え、風の音を録るサンウの表情には、辛い恋の思い出を乗り越えた、幸せだった愛の日々の印象だけが残っているかのようだった。

                             

 映画は脚本が上手く書けていないと、どんな名監督をもってしても名画にはならない。本作のように上質な脚本に丁寧に物作りする演出家(ホ・ジノ)を組み合わせるならば、潤沢な製作費は映画作りの必要条件ではなくなる。

                             

 急に思い立って、久し振りに自分のライブラリから DVD を引っ張り出した。


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春の日は過ぎゆく(One Fine Spring Day)』 ©2001 サイダス/松竹/アプローズピクチャーズ

 どんなに古い思い出も、それを折に触れて思い出せるなら、『思い出』は、いつも目の前にある。

FINIS
 

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