きみの靴の中の砂

ぼくは欲深くない





 COVID-19が流行るもっと以前に遡るが、仕事の後に気が向けば立ち寄る居酒屋があって、行けば必ず誰か顔見知りがいた。場合によれば、そんなふうに一人二人と集まってきて最後は小上がりを占領して宴会になってしまうこともあった。

 そういうメンバーのに中高一貫の私立校に通っていた頃の後輩がいて、年齢が干支ひとまわり以上違うのに、たまたま教えを受けた先生の思い出などが共通していて、彼とはついつい話し込むことも多かった。
 母校が時折思い出したように発行する卒業生名簿があって、興味があったのか彼は、それでぼくを調べたらしい。同じものを持っていても自分では見たこともない名簿には、資料として生徒が卒業時に書いた『将来なりたいもの』という項目があって、ぼくのその項には『フリーのライター』と書いてあるようだ。

 記憶にあるところでは俳優の中尾彬さんが仕事の話で、生活費を稼いでいるのは俳優・タレント業だが本職は絵描きだと言っているのを何度か聞いたことがある。また、俳優・六平直政さんも同じように本職は彫刻家だと公言している。そんなふうに生業と本職を住み分けている人というのは、公言しないまでも世の中には存外沢山いるように見える。

 不自由のない生活費を稼ぐ職業が別にあって『好きなことを好きな時に好きなように書いて、決して〆切に追われることのない生活』を実現しているわけだし、そんなことからすれば、ぼくの『フリーのライター』だって夢は叶えられていることになる。そして、それだけで充分に楽しい人生なのにファン・メールまでくれる人がいたりして...。これ以上の何かを望む程、ぼくは欲深くないと自分では思っているのだが...。




【Rick Mathews - I Want To Make You Happy】

 

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