きみの靴の中の砂

不器用であったが故に





 鮨屋のネタ皿に春子(かすご・・・真鯛または血鯛の幼魚)が並ぶ頃ともなると、吹き抜ける風は、ビルの谷間の、芽吹きたての街路樹の小枝をもまた震わせて参ります。

 ところで、ある年の今日この頃のこと。
 額縁づくり ----- それが自分の仕事だという、甘く切ない花の香りのするその人は、古風で小さな自作の額を、出会った記念にとひとつ贈ってくれました。それに飾るにふさわしい絵画など持ち合わせるはずもないぼくのために、その人は、自らアクリル絵具で描いた板絵一枚を添えて...。実物をだいぶデフォルメしたものなのか、はたまた絵描きとしては不器用なのか、拙い川魚の絵 ----- パアチとブラウン・トラウトが一尾ずつ...。

 そしてその後、残されたのは、額縁と長くは続くことのなかった恋の思い出がひとつ ----- 結局、その魚の絵同様、その人は恋についてもまた、大層不器用ではあったのでしたが...。




【The Hollyridge Strings / Candy Girl】


 

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