きみの靴の中の砂

投函されなかった手紙




 秋も深まり、一際寒い日が巡って来たりすると、あの耐え難かった夏の暑ささえ懐かしがる、この身勝手さに、我ながら思わず苦笑してしまいます。
 さて、時折、図書館でお会いしたあなたには、お名前を伺っていただけですので、この度、急に転居が決まった僕としては、ご挨拶をする機会を得られないまま、この町を去ることになりそうで、どこか息の詰まる思いがします。お互い、十分すぎる程大人でしたので、多くを語らなくとも察して頂けると思いますが、実は僕には、はっきり、あなたにお伝えしておかなくてはならないことがありました。でも、それも最早、後の祭りです。せめて、この手紙だけでも、いつかあなたに読んでもらえる機会があればと思い、書き留めました。
 いよいよ寒さも増して参りますが、あなたには、いつも暖かい南風が吹くようなあしたが来ることを願っています。末永く、お元気で。いつか、また、お会いしたいと思っています。



伊豆田洋之 / 冬の南風

 

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