バカボンのパパにとって、永遠のライバルにして、嘲謔のターゲットともいうべき存在が、「日本で最も弾丸消費量を誇る警察官」なる異名を持つ、赤塚漫画史上最悪最凶キャラの目ん玉つながりである。
その異名は決して飾りではなく、常に喜怒哀楽のエモーションを携帯する38口径のニューナンブM60に託し、四方八方、情動の赴くまま、38スペシャル弾を乱射しまくっている。
この目ん玉つながり、度重なる不祥事と職務に対する無責任ぶりが災いしてか、交番勤務十五年という勤続年数でありながらも、未だヒラ巡査止まりで、昇進とは縁遠い、自身の儘ならぬ現状への苛立ちを、拳銃を発砲し、一般市民を威嚇することで、発散しているきらいさえあるのだ。
また、公僕の身でありながら、金銭欲、物欲、食欲、色欲と、ありとあらゆる煩悩が著しく突出しているのも、その節々において確認出来る。
パパが地面にこぼした酒を舐めて、酔っ払ってしまったり(「おまわりさんを愛するのだ」/「週刊少年サンデー」70年4・5号)、窃盗罪で補導した少年の姉に、無罪放免を条件に近寄り、暴行未遂で逮捕されたりと(「女を万引きいたすのだ」/73年9号)、存在そのものが職務規定違反に値する、激情暴発型のモンスターと言えよう。
他にも、痴漢の取り調べで、調書を作成していた際、目ん玉つながりにスケベな妄想をさせつつも、実際は手を握っただけだったという、期待外れの展開に憤慨し、痴漢を射殺するといった重罪まで犯している(「天才えーと えーと なんだっけ……?」/73年1号)。
本来ならば、正義感に溢れ、実直にして清廉であるべき立場の警察官にも拘わらず、分別盛りを迎えても尚、歪みきったままでいるこの異常な人格は、一体どのようにして育まれたものなのだろうか……。
そのヒントが隠された、目ん玉つながりの少年時代の様子が、先に述べた「わしの天才がバカになったのだ」の中で描かれている。
生後二ヶ月目のバカボンのパパが、街を歩いていると、果物屋でリンゴを盗み、店主に店先で馬乗りになって殴られている目ん玉つながりに遭遇するというシーンがある。
この時まだ、天才児であったパパは、店主に向かい、「すべての児童は虐待からまもられる」「すべての児童はてきとうな栄養をあたえられる」といった児童憲章の条文を語って聞かせ、目ん玉つながりの窮地を救っている。
パパの説伏のお陰で、事なきを得た目ん玉つながりは、この時、巨大な権力にすがって生きてゆけば、恐るるに足るものなど何もないという屈折した想いが、心の奥底において芽生えたのかも知れない。
弱者に対しては、権力をカサに高圧的に振る舞うものの、己よりも立場の強い、あるいは隠然たる力を持つ者に対しては、醜いほど媚びへつらうその徹底したスタンスは、この時の芽生えが、成人を迎えるうえで更に肥大化したものと言えるだろう。
『もーれつア太郎』(「ニャロメのいかりとド根性」/「週刊少年サンデー」70年3号)に出演した際には、自らの失態で激昂させた署長に対し、靴を舐めてご機嫌を伺うという、見るに堪えない行為までやってのけている。