文化遺産としての赤塚不二夫論 今明かされる赤塚ワールドの全貌

赤塚不二夫を文化遺産として遺すべく、赤塚ワールド全般について論及したブログです。主著「赤塚不二夫大先生を読む」ほか多数。

目ん玉つながり誕生のプロセス 時代の空気を体現したアンチヒーロー

2021-04-14 19:47:35 | 第5章

目ん玉つながりもまた、他の赤塚ワールドのスターキャラ同様、プロトタイプを経て、完成へと至ったキャラクターだ。

その原型とも言えるキャラが、「パパは警官になったのだ」(68年12号)で、パパに制服を奪われた警官を泥棒と勘違いし、取り抑えたため、その後踏んだり蹴ったりの目に遭ってしまう、善意の第三者とも言うべき役どころの繋がり目玉の青年である。

この繋がり目玉は、赤塚がキャラクターを下絵に起こした際、∞(無限大)の形で描いたものを、識別しづらかったせいか、作画スタッフが、交差する上と下の部分を広げて、ペンを入れたため、瓢箪から駒で生まれたデザインだそうな。

そこに、穴が一つしか空いていないシュールなブタ鼻が、当時ペンシラーであった高井研一郎のセンスによって付け加えられ、今度は警官キャラとして、翌週掲載の「きーめた きめた 犯人にきめた」(68年13号)で、再登場の運びと相成ったのである。

この時の目ん玉つながりは、職務に忠実で、ピストルを乱射するなどの過激さとは、無縁のキャラクターとして描かれている。

第四章にて、大きくページを割いて論述しているため、ここでの詳細は避けるが、ヒステリックに拳銃を撃ちまくるそのキャラクターイメージは、1968年10月21日に発生した「新宿騒乱事件」の際、機動隊と左翼派のデモ学生による激しい衝突の現場を、赤塚自身、目の当たりにした経験が、後にヒントとなって湧き出たものである。

つまり、この時の赤塚が間近で目撃した機動隊の獰猛ぶり、延いては、徹底して権力を振りかざし、学生達を武力制圧する官憲の卑陋暗黒なる実態が、目ん玉つながりの性格付けに、そのまま反映された格好となったのだ。

そして、「九官鳥王子」(69年7号)というエピソード内で、「一度でいいから 人をぶっ殺してみたかったんだ!」という物騒な台詞を発するとともに、確実にパパの命を狙い、銃弾を発射。ここで漸く、赤塚ワールド最大の危険分子と例えて余りあるアンチヒーローが誕生するに至った。

本名は長らく語られていなかったが、「みんなそろってフチオさん」(72年42号)で、その姓名が白塚フチオであることが判明する。

初めは怒鳴り散らし、ぞんざいに扱っていたものの、近所の住民からお歳暮を届けたいとの申し出があったとたん、急に態度を翻し、「えー 本官の名まえは白塚フチオと申します よろしくおねがいします‼」と、自ら本名を名乗る場面が見られるのだ。

因みに、この白塚フチオというキャラクター名は、生みの親である赤塚不二夫のもじりと思われがちだが、実は、同じ赤塚でも、とある別人物の名を参考にしたものであるというのは、ご存知だろうか。

1973年1月1日発行の「別冊まんが№1 赤塚不二夫大年鑑」に掲載された『赤塚漫画スター名鑑』で、この目ん玉つながりのことを「本名、アカツカ・フチオ。この人の名前がコワーイ人は革命的である!」と紹介されている。

このアカツカ・フチオとは、当時所轄で、新左翼党派に対する徹底した掃討作戦を陣頭指揮していた、京都府警所属の赤塚普治雄警視のことを指している。

従って、目ん玉つなかりの名前が、白塚フチオであるのも、それそのものが時代の空気を投影させたパロディーと言えるだろう。

目ん玉つながりは、その浮わついた立ち居振舞いから、独身であるかのように思われがちだが、「ドクターカカシよ やすらかなのだ」(73年8号)というエピソードで、妻こそ出てこないものの(恐らく逃げられたものと思われる。)、勇という本人そっくりな一人息子がいることが明らかになっている。

しかし、勇が度を越した虚言癖の持ち主であるため、夜中に腹痛を訴えた際も、目ん玉つながりが本気にせず、そのまま放置してしまったため、死へと至ってしまう。

そして、その亡骸は、勇が悪戯気分で死に至らしめたドクターカカシが眠る隣の墓地へと埋葬されるのであった。

以降、独り身となった目ん玉つながりは、女性に対し、異常な執着を示し、アタックしては玉砕する生活を繰り返すことになる。

尚、赤塚ワールドの不文律で、登場するシリーズによっては、妻がいたり、子沢山だったりと、そのキャラクターは、家族設定も含め、必ずや一定していない。

『少年フライデー』に至っては、ネズミの花嫁を貰ったばかりに、子供がネズミ算式に一〇〇ダースも殖えてしまった(「週刊少年サンデー」/「100ダースのプレゼントやんけ」75年1号)という、トンデモ設定を引っ提げてゲスト出演している。

これは、無限連鎖購の防止に関する法律の施行に伴い、後に破産宣告を受けることになる天下一家の会が、勧誘や配当を巡るトラブルが表面化し、社会問題となっていた頃に描かれたエピソードだ。