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DREAM-BALLOON

夢風船って
地球なのかな?って思ったりする...

ブログ開設から4000日!

107.お祭り~第3問~

2012-12-16 02:19:52 | ★DAILYLIFE★(acco小説)
 「あのっ・・・晃弘君・・・。」
第3のクイズ出題ポイントに向かおうとした時だった。二町さんが僕を、辛そうな表情で引き止める。
「こないだの電話の時・・・ごめんね。あの時は、絶対助かるなんて言ったけど・・・ほんとは全然そんな事思ってなくて・・・むしろ、保護してほしくなかっただけというか・・・。嘘ついちゃって、ほんとにごめんなさい!!」
そう言って僕に頭を下げる二町さん。・・・この間の日曜日、スズちゃんの時の事か。これはまた随分と大胆なカミングアウトだ!まぁ渡中さんも保護派は自分だけだと言っていたし、電話を代わってからの原口さんのように説明しても、僕がショックを受けると二町さんなりに気をつかっての事だったのだろう・・・。どっちが正しいのかはわからないし、保護するだけ保護して結局の世話は渡中さんに任せきりになっているのも事実だ。でも・・・
「いえ!全然気にしてないですよ!」

最終的には自分で決めたのだから!

僕の返事を聞いて、二町さんの顔にはいつもの笑みが戻る。
「ほんとに!?ありがとぉ!!晃弘君やっさし~!!そぉそぉ。次の問題だけど騙されないように気をつけてね!」
「・・・はぁ。」
立ち直っていつもの調子に戻るのはっや!!んで、騙されるって・・・?引っ掛け問題でも出題されるのだろうか?フリップや望遠鏡をまとめ、スタスタとビジターセンターへ帰って行く二町さん。・・・本当に不思議な人だ。
 ここまで、空気のように成り行きをただ見つめていた真悟が、二町さんが十分に離れたのを確認して話し出す。
「え~!?あっくん、何なに!?何やら一瞬やったけど、二町さん凄い申し訳なさそうな表情であっくんに謝ってなかった??」
概ね真悟の記憶は正しい。時間が勿体無いしウォークラリー中なので、ウォークしながらざっと事情を説明する。
「・・・って訳よ。」
「なるほどね~。保護派と放置派かぁ。俺もあっくんと同じ状況なら保護するかもなぁ。確かに保護した後に面倒見れる自信はないけど、そのまま見捨てる気には多分ならんかな。」
ふ~む。真悟も保護派か。同志よ!
「やっぱそうよね!・・・でね、こっからは僕の想像やけどさ、二町さんかなり原口さんに怒られたと思うよ。原口さんが電話に代わった時、何故か僕にまでキレ気味やったけんね!」
僕の話を聞いて、真悟は、前に渡中さんに聞いた話を思い出したらしい。
「そー言えばね。これ、誰にも言うなって言われた話なんやけどね。話すけどね。

原口さんって、二町さんには裏で特別厳しいらしいよ。」

「へぇ・・・何で!?」
元々、仕事の面では全く優しそうじゃないけど・・・。
「なんかさ。また誰にも言うなって言われた話なんやけどね。また話すけどね。ここの伊豆背自然観察パークが出来る前、二町さんだけは県の職員さんじゃなくて一般の会社勤めやったらしんよ。」
「ほぉほぉ。そんで?」
「で、たまたま知り合いになった原口さんが、動物好きな二町さんをレンジャーの1人に誘ったんてさ。やけん、その責任もあって厳しく指導するらしいよ~。あ・・・俺が喋ったの内緒ね。」

 なるほど。原口さんに誘われて、二町さんは会社を辞めるという一大決心をしてレンジャーになった訳か。何と言うか・・・原口さんにありがちな理不尽な理由じゃなくて安心した・・・。ところで気になる事が。


「もしかしてやけどさ、ゴリラ。渡中さんって親しくなると、めちゃくちゃ口が軽くなるタイプ?」

「うほぉ!!あっくん鋭い!!」
出てるよ、素が。ついでだ。この際、ほかにも聞いてみよう。
「やっぱりね。他は!?何かない??」
「うーんとねぇ・・・。あっ、これは俺もよくわからんのやけど・・・

『二町さんは良くも悪くも切れ者』らしいよ。」

・・・ん?
「良くも悪くも?どういう事やろう?」
「・・・さぁ。」

 さて!!本題のウォークラリーからかなり話題はそれたが、こんな話をしてるうちに2人は第3の出題ポイント、干潟前へやってきた。
 ここで、僕が密かに抱いていた疑問を紹介しておこう!今回のウォークラリーは問題が全部で4問。公園の4大フィールドそれぞれの前で1問が出題される事になっている。しかし、この公園のレンジャーは、猿越さん、原口さん、二町さん、渡中さんの4人。出発点で説明係の原口さんを外すと3人。お解りいただけただろうか?そう!クイズの数に対してレンジャーが1人足りないのだ!
 そんな僕の疑問は、第3問の出題者によって、意外な形で解決することとなった。僕たち2人の持っているスタンプカードを見て、嬉しそうに手招きするおじいさん・・・。この人って・・・
「おぉおぉ!!よー来たの!!ほれ!!第3問はこっちこっち!!」

園長!?!?!?

いや間違いない。園長だ!これ・・・大丈夫か!?園長の側には、望遠鏡が1台。干潟の方へ向けられている。その望遠鏡をいじりだす園長。
「ちょーと待っておくんなさいよ!お2人さん!今ピントを合わせるからね~!」
その姿は、意外にもサマになっている!いや・・・よく考えたら意外ではないか。普段、暇さえあればビジターセンターの望遠鏡から干潟を覗いては、アオサギをツルだと騒いでる人だからな・・・。というかツルって何だ!?ナベヅルなの?タンチョウなの?カナダヅルなの??園長の望遠鏡合わせは結構長い。僕は、そんな園長に聞こえないように、真悟にコソコソと相談する。
「ねぇ、ゴリラ。僕、あんま園長との接し方がわからんのやけどさぁ・・・。助けて~や。」
「いやぁ。俺も考えてみたら、長いことここに通いよるけど、『二町さん!ツルが出たぞ~!』くらいしか知らんわぁ。」
・・・駄目じゃん!!ともかく、望遠鏡の調整が終わったらしい。
「お待たせいたしやしたね~!なんたって鳥が動くもんで戸惑っちまいました。ささ、どうぞどうぞ!」
「・・・。」
・・・この人って前は副知事で、落選したショックで別人のようになったんだっけ?副知事の頃テレビで見た事あるけど・・・

そもそもこんな時代劇のちょい役みたいな喋り方だったか!?!?!?

今はそんな事を考えていてもしかたがない。目の前の問題に集中。僕から望遠鏡を覗く。
「どれどれ・・・ふむ。ゴリラ、交代。」
次に真悟が。
「どれどれ・・・うほ。」
真悟が覗き終わると同時に、園長が問題の書かれたフリップをドヤ顔で勢いよく突き出す!
「この第3問が目に入らぬか!」

『2択クイズ:見えた野鳥は? 1番:ツル 2番:アオサギ』

双眼鏡を覗いてアオサギがいた時のやっぱりな感!!!だからツルって何だよ!!!一応、セルフでやっとこう。
「せーの。」

僕「2番。」真悟「2番。」

当たり前の一致。これは確実にスタンプもらったと思った時だった・・・。

「おっと!お2人さん残念無念!正解は1番でございやした!あれはツルですな!」

え!?出たよ園長!いやいや!これはいくら相手が出題者とはいえ反論させてもらう。というか確実にこっちが正しいし!二町さんが『騙されないように・・・』って言ってたのはこういう意味か!
「園長・・・すいません。多分あれはアオサギだと思います・・・絶対。」
「・・・何じゃって?」
真悟もやんわりと園長の意見を否定しつつ情報を付け加える。
「えっと、コウノトリ目サギ科のアオサギです。ツルとは全然違う仲間で、いわゆるシラサギと同じ仲間です。一般的に見られるサギの仲間で、色がついていてああいうツルみたいな形なのはアオサギだけなんで覚えやすいですよ。」
2人に否定され、園長の頭も混乱してきたようだ。
「アオサギ・・・。ツル・・・。アオサギ・・・。おぉ!そぉか!これはかたじけない!アオサギでご名答!」
よかった。話が通じた。第2問と同じ型紙を使いまわしたのだろう。アオサギ『ナイス!』のスタンプを貰いながら、園長に色々と話を伺った。それによると、とりあえず一旦アオサギで不正解、からの間違いを指摘される・・・っというこの流れ。これまでの親子連れでも全く同じだったらしい。どうなっているんだ・・・この人の記憶力は!!

 今度こそアオサギを覚えたと、満足気にビジターセンターへ帰っていく園長。その姿を見送りながら、僕と真悟はこの第3問について考察する。
「この問題ってさ・・・絶対、園長にアオサギを覚えさせる為のものやろ。ゴリラ的には誰の考えと思う?」
「・・・二町さんじゃないかね。」
同意。普段からあんだけ『二町さん!ツルだ!ツルだ!』と騒がれてはたまったものではないだろう・・・。
「さらに第2問から第3問の流れって、よく出来ちょるよね。」
「あっ。あっくんもそこ気付いた?」
第2問のサギのコロニー観察からアオサギのスタンプ。この問題によって、たとえ僕たちのようにバードウォッチャーでない一般の親子連れにも、アオサギの記憶が確実に残せる。園長がツルを正解とした間違った場合でも、確実に参加者の方が間違いを指摘し、かつ園長の記憶に大きなインパクトを反復して残すことが出来るのだ!!僕と真悟は思った。

二町さんは良くも悪くも切れ者だと!!

 3問終了時点で結果はお互い全問正解。いよいよ残すは最後の1問だ。

106:お祭り~集団営巣地(コロニー)~

2012-08-18 13:51:57 | ★DAILYLIFE★(acco小説)
 まずは1問!僕と真悟はみごと、猿越さんからの決して難問とは言えない問題をパスした。
「ほれ。2人とも・・・カードを貸してみぃ。」
「あっ、はい。」
言われるまま、カードを猿越さんに手渡す。スタートする時に貰ったこのカードだが、ウォークラリーのタイトルと共に、簡略化された公園のイラストが白黒で印刷されている。また二町さん作か??・・・っと、猿越さんは、そのイラストのヨシ原辺り・・・つまり現在地辺りにスタンプを押し、それぞれにカードを返す。どうやらこのスタンプが、問題に正解した証となるようだ。キジが嬉しそうに羽を広げた絵柄である。褒め言葉付きだ。
「ふふっ。『ヤッタネ!』だってさ。」
キジに褒められた。
「これ可愛いわ~。小さい子どもは喜びそうやな!」
そう言う大きいゴリラも十分に喜んでいるように見える。勿論、こんなピンポイントなスタンプを市販しているわけはない。
「猿越さん、これって先月の工作で作った消しゴムスタンプですよね!?」
「・・・おぅ。」
やっぱりそうか。ちなみに僕はカワセミを、真悟は言うまでもなく安定の特別仕様・・・バナナを彫った。それはともかく、キジのトサカのシャープな事!『ヤッタネ!』の読みやすさから、逆さ文字も完璧なものであると想像できる。この器用さ・・・このスタンプも二町さんの作品に違いない。・・・ん?となると、フリップ、カード、スタンプ・・・どれほどの仕事量!!全くもって素晴らしい!
「さてと・・・。お2人さんで最後の組じゃの?ゆっくりお話中に悪いが・・・俺は戻る。」
フリップやキジの尾羽、その他もろもろを脇に抱えながら、ビジターセンターに戻る準備を始める猿越さん。そして助言を付け加える。
「2人も早く次に向かった方が・・・ええと思うぞ。出題者が・・・勘違いして戻ってしまうかもしれん。」
・・・確かに!そしてそれはマズい!焦る真悟は全速力で駆け出す。
「急ぐぞ、あっくん!!うっほ~ぃ!!!」
僕も慌てて追いかけるのだが・・・。
「ちょっ!ゴリ・・・待って~!!」

ストライドから違うんだなこれが・・・。


 ―3分後、汽水池前
ビジターセンターに続く一本道の前を走りぬけ海側へ。3分という驚異的な速さで汽水池前の出題ポイントに到着した。ここでの出題者は二町さんである。
「遅い遅い遅~い!!もうちょとでビジターセンターに帰るところだったよ~。」
冗談半分でふてくされる二町さん。
「はぁ・・・だぁ・・・すいません。」
「俺だけだったら2分で来れたんですけどぉ、あっくんが遅いんで3分かかりましたぁ。」
「はぁ・・・だぁ・・・すいま・・・せん??」
僕のせいか!?ともかく、息切れの激しい僕に対して、真悟はまだピンピンしている。長袖で気付かなかったが、今日もはめてんのかい、例の高機能腕時計・・・。二町さんが元気よく始める。
「はい!じゃ、ここでは第2問で~す!ちょっと説明長いから、晃宏君はその間に息を整えといてね~。」
了解しました。
「まずは!汽水池の方を向いてくださ~い。」
ヨシ原に続いての、4大フィールド2箇所目である汽水池。汽水は、淡水と海水の間という意味である。一般的には、川の河口付近なんかが汽水だ。冬は様々な種類のカモが浮かび、それなりに賑わうフィールドなのだが・・・。
「ですが・・・ご覧の通り。この時期はあまり鳥さんに人気がないんですね~。ががががーん!てことで!真反対の海の方を向いてくださ~い。そして、そこに設置してある望遠鏡を覗いてみてくださ~い。」
僕たちに対しても説明が小学生仕様でテンション高!そして色々と忙しいな!2台並んだ望遠鏡。とりあえず僕も真悟も、言われるがままにそれを覗く。
「・・・あ。サギが木にいっぱい。」
レンズの中は・・・言葉通り。木にサギがたくさんとまっている。ぱっと見でも100、200単位。
 それはともかく、まずは、どうして海側を見て木が見えているのかの説明が必要かもしれない。観察パークの今いる海側の道は、片側が汽水池と干潟。そして今見ているもう片側が防波堤のようになっていて、あたり前だがその先は海である。ただ、こちら側からそれほど遠くない距離に、海を挟んで対岸が見えるのだ。つまり僕と真悟には、対岸の林の木が結構な倍率で見えているという訳だ。
 サギの種類としては・・・ダイサギやコサギにアオサギ・・・。おっ!あの小さめでズングリした体型は!夜行性だからか、普段はあまり見かけることのないゴイサギさんまでいらっしゃるではないか!そして、巣・・・らしきものが大量に完成している。
「コロニーやね、サギの。」
と真悟。・・・ん?その言葉、聞いた事はあるぞ。
「コロニー・・・って何やっけ??」
「えっと、コロニーっていうのは・・・」

「うわぁぁ!!ストップ真悟君!!もう問題いきます!!じゃ~じゃん!!」

フリップを勢いよく出す二町さん。真悟を慌てて止めた様子からして・・・大体の問題は想像つくけども。

『2択クイズ:望遠鏡で見えたのはサギのコロニーと言います。サギたちはみんなで何をしてるでしょう?(ヒント:巣がたくさん見えるね!) 1番:お昼寝 2番:子育て』

ほほう・・・。巣がたくさん見えるね!か。小学生相手に完璧なヒントだと思う。
「いくよ?せーの!」

僕「2番!!」真悟「2番!!」

当然、かぶる解答。
「はい!大正解!」
昼寝だろうが夜寝だろうが関係ない。一般的に鳥は繁殖の時にしか巣を利用しないのだから!!コロニーの知識は曖昧だったが、今回も2択問題だから危なげなかった。2人仲良く、カードに消しゴムスタンプを貰う。今回はアオサギが『ナイス!』。こちらも見事な出来である。スタンプを押しながら二町さんが愚痴をこぼす。
「このスタンプもカードもフリップも、ぜ~んぶ原口さんの指示で私が作ったのよ!?もう大変で大変で・・・。」
・・・やっぱりか。原口さんなら十分やりかねない。ほんとにお疲れ様です!

 最後に二町さんがコロニーについて多少深く説明してくれたのだが、どうも現地は、仲良く子育てというほんわかしたイメージとはかけ離れたものらしい。二町さんは、実際にあのコロニーを調査に訪れたことがあるらしいが、それはひどい惨状だったそうだ。おびただしい量のフンで木は枯れかけ、羽毛が舞飛び、響き渡る無数の鳴き声、そして悪臭・・・!!
「う~!!想像しただけでも鳥肌!!」
「でしょ!?」
その時の事を思い出しているのか、つらそうな表情で海の向こうを見つめながら二町さんが締める。

「ちょうどいいよ。対岸のコロニーぐらいが対岸の火事だもん。」

・・・おぉ!

ざぶとん1枚です!

105:お祭り~ウォークラリー~

2012-04-26 15:46:25 | ★DAILYLIFE★(acco小説)
 過呼吸を起こした守田さんが落ち着いたから、やっとこさレンジャーの皆さんに挨拶に行こうとしたのだが・・・。
「いないワヨ。中には誰もネ。」
この守田さんの一言で、僕と真悟はまたも自動ドア直前で引き返し、詳しい話を聞く。
「え・・・?誰もいないんですか!?お祭りなのに!?」
守田さんは腕時計を確認する。今、1時半過ぎだ。
「2時からね、ウォークラリーがあるノヨ。みんなもうその準備に向かってるのネ~。」
「お~。今年はウォークラリーやるんですね!!」
っと真悟。んん・・・ウォークラリー??そういえば、真悟が『毎年イベントがあるうほ~!!』的な発言を前に学校でしてたような・・・。守田さんが更に詳しい説明を付け加える。
「観察パークの外周一周でやるらしいジャナーイ。その、ところどころでクイズが出題される・・・トカ。確か、淡水池の前に集合・・・って原口さんに聞いたワヨ。まだ間に合うジャナーイ。」
「うっほ~い!それは行くしかないね、あっくん。」
「じゃぁ・・・行きますかぃ?」
淡水池か。ここからだと、ヨシ原を越えた先である。ちょっと遠い。なんと不親切なスタート場所だろう・・・。守田さんが僕たち2人を見送る。
「きゃ~師匠~!頑張ってネ~!!」
「・・・。」
行ってきますよ~。頑張ってきますよ~。

 ―淡水池
「え~。それでは皆さん、よろしいでしょうか~?」
2時にスタート予定なのだろう。少し早めに着いたつもりだったが、ちょうど原口さんが説明を始める所だった。参加者はぱっと見で10組前後。僕たちを除く全員が、工作へやってくる親子ペアである。僕たちもしれっとその中に紛れて、原口さんの説明を聞く。
「え~皆様。本日は伊豆背自然観察パーク祭りにようこそお越しくださいました。それでは本日のメインイベントでありますウォークラリーについて説明させていただきます。この公園の外周を一周。1時間少々のコースが、今回みなさんに歩いていただくコースになります。」
ふむ。確か、クイズとかに挑戦しながらゴールまで歩くんだったな。小学校の縦割り集会で何度かやったことがある。まだ僕たちに気づいていない様子の原口さん。説明は続く。
「ところで、この外周を1周しますと・・・当公園の4大フィールド全ての前を通ることになります。そして、それぞれのフィールドの前で、みなさんには合計4問のクイズに挑戦していただきます!!反時計周りに一周しまして・・・ヨシ原、汽水池、干潟、そして最後にここ淡水池の順ですね。まぁ心配されなくても、ウチのレンジャーが各ポイントにおりますんですぐわかります。それでは早速、親子・・・それから・・・」
ここで参加者の顔を見渡す原口さん。そして目が合う。やっと僕たち2人に気づいた。
「お友達でペアやトリオを組んでいただいて。1組目から順番に3分間隔で次の組がスタートになります。“三人寄れば文殊の知恵”ということわざもありますね。是非、好成績を収めていただきたいと思います!!」
なるほど。とりあえずルールは単純だ。途中、4問の問題を回答しながら公園を一周する訳か。
「俺らさ~、最後でいいよね??」
「うん!全然おっけー。」
真悟の提案を心よく受ける。全10組としても、最後の組はスタートまで30分待ち。小さい子には少々長い。その役目、僕たち中学生が引き受けようではないか。一方、原口さんは、3分間を確認したり、スタートの合図を出したりとまだまだ忙しそうだ。先にスタートする組を見ていると、直前に原口さんからカードのようなものを受け取っている。どうやらクイズの正誤を記入してもらうようなものらしい。

 約30分たった。さあ。残すは藤村・植村組だけである!!やっと原口さんと話ができる。
「はぁ、疲れた疲れた。・・・おう!お2人さん!よう来たのぉ。クイズ頑張ってくれ~。」
「まぁ頑張りますけど・・・あっくんと2人だけなんで・・・。」
「え!?ちょいゴリラ!!僕じゃ不安!?」
まぁ否定はできないが・・・。慌てて誤解を解く真悟。
「違う違う!!ほら!2人やとさ、使えんやん?文殊の知恵が。頼りになるよあっくんは。」
「あ・・・そういう事?」
一安心。実際ことわざ通りだとすると、両親+子供の組が多いから文殊の知恵を使える強敵は多いという事に。

「おっ!わし、これはええ事を思いついたかもしれんぞ!!」

ここで出てしまった!!!原口さんの突然の思いつき!!!間違なく面倒くさいやつ!!!

僕と真悟はおそるおそる尋ねる。
「えっと・・・何を思いつきに??」
「ほれ!!」
手渡されたのは、1組に1枚のはずのカードを2枚。
「2枚・・・ですか?」

「そう!!真悟君と晃宏君!!同じ組でありながら敵どうし!!別々で問題に挑戦するんじゃ!!」

・・・うわっ。やっぱり面倒くさい思いつき。ま、諦めるしかない。原口さんの思いつきに拒否権はない。
「お~、それ面白そうですね!!」
「じゃろぉが??もっと褒めてくれ~真悟君。」
何で真悟は乗り気なんだよ・・・。上機嫌になった原口さんは、思いっきりネタバレする。
「ぶっちゃけるとの!今回用意された4問は、どれも野鳥に関係した問題になっとるんじゃ!!最近は晃宏君もバードウォッチャーとして成長してきとるからの。いい勝負が出来ると思うぞ!わしもラストで・・・っと!これ以上は秘密にしとこうかの~!!よし!3分過ぎたぞ!ラストの藤村・植村組・・・

ウォークラリースタートじゃ!!!」

はぁ・・・真悟と和気藹藹のウォークラリーにしたかった。

 淡水池からヨシ原までは一直線だ。スタートからほどなく、レンジャーの証:青ジャージを着た出題者と思われる人物が先に見えた。どうやら・・・最初の出題者は猿越さんのようだ。
「頑張ろうね、あっくん!あっ、一応言っとくけど手加減はなしよ?」
「・・・うん。」
真悟はゴリラの血のせいもあってか、穏やかそうで意外と闘争本能が強い。・・・本気だ!!原口さんは僕に、成長していると言ってくれたが、真悟にかなうはずもないじゃないか・・・。と、そんな事を考えているうちにヨシ原の前に到着する。やっぱり出題者は猿越さんだった。
「おっ・・・2人も・・・参加しとったか。早速問題・・・いくぞ。」
ええぃ!こうなったらやるしかない!!
「お願いしますっ!」
「よし・・・。まずは・・・これを見てくれ。」
「おぉ・・・。」
思わず小さく歓声を上げてしまった。猿越さんが足元から拾い上げたのは・・・長さが30㎝はあろうかという長細い鳥の羽だ!!念を押す猿越さん。
「・・・よく見ろよ。」
とりあえず細長い!色は黒と茶色で、この2色が交互でボーダのように見える。何だろう・・・茶色と表現た部分の色が何とも独特で、派手さはないが深みのある羽だ!さらに、羽の両端は少し赤味ががって見える。僕も真悟も、さわって質感を確かめる。
「・・・よし。・・・じゃぁ問題。」
猿越さんは、裏返しで同じく足元に置かれていたフリップを僕たち2人に見せる。そこには問題文と、可愛く描かれた2羽の鳥のイラスト。・・・二町さん作のフリップだな。何なに・・・。

『2択クイズ:この羽は、ここヨシ原で生活している鳥さんの尾羽(尻尾の羽)です。どちらの鳥さんでしょう? 1番:キジ 2番:クジャク』

「・・・。」

キジだ!!!!!

ヨシ原から甲高い鳴き声が響く。
“ケーン!ケン!”

「・・・。」

キジだ!!!!!

「答える準備は・・・ええか?」
「は、はい。」
準備も何も・・・。
「よし。じゃ・・・2人とも同時にいくぞ。・・・せーの!!」

僕「1番!!」 真悟「1番!!」

よし!当たり前だが真悟と回答は同じ!ただその真悟も、あまりに簡単で逆に自信が持てないといった感じだ。猿越さんの感情を表に出さない表情が、妙な緊張感を誘う。・・・あれ??ひっかけ??いや!ひっかけようがないだろ??

「正解。」

やっぱキジだ!!!!!

よかったー!!はぁ。力が抜けた。それにしても、何でこんな問題を・・・。
「これ・・・あまりに簡単過ぎじゃない?」
「ね!キジ鳴くし、俺も逆にハラハラしたわぁ。」
「2人とも・・・何を言うとるか。他の参加者のことを考えてみぃ・・・。」
他の参加者?・・・そうか!他はみんな工作親子!つまり小学校低学年でも考えられるレベルに問題が設定してあるという訳か!!
「中学生バードウォッチャーさんには悪いが・・・この先の問題も・・・こんな感じと思うぞ?」
真悟が笑う。

「はは。どっちみち・・・必要なかったね。文殊の知恵。」

「みたいやね。」
この程度の問題なら・・・真悟と対決なんて固い事考えず、予定通りの和気藹藹としたウォークラリーを楽しめそうだ。

104:お祭り~賑わい~

2012-04-04 12:43:32 | ★DAILYLIFE★(acco小説)
 ―5月4日(水)午後、自然観察パーク
ビジターセンターから、ヨシ原、淡水池の横を通って、はるばる砂利石川の河口が見渡せる公園の端までやってきた原口さんと二町さん。2人とも首に双眼鏡。手に、原口さんはカウンター、二町さんはメモ帳。年に1度のお祭りを明日に控え、砂利石川河口の野鳥個体数調査である。原口さんの読みは正しかった。引き潮で砂地が多く現れた砂利石川の河口では、多くのシギ・チドリ類が羽を休めていた。長旅の休息には、絶好の自然環境である。原口さんは双眼鏡に手を掛ける。
「まずは・・・キアシシギからいくかのぉ。」
原口さんの親指がテンポよくカウンターのスイッチを押す。姿の似通ったシギ・チドリの中からキアシシギを瞬時に識別する技術、能力は相当なものである。一通り河口を見渡し終えると、カウンターの数値を確認して二町さんに伝える。
「キアシ、38。」
「は~ぃ。」
“・キアシ 38”
二町さんがメモ帳に記録する。1種ずつ、この繰り返しである。この気長な作業を終え、記録漏れの種がいないかを確認している時だった。
「・・・お?」
原口さんの双眼鏡が、ある1羽の野鳥を捉えて止まった。そして、二町さんの目が輝く。
「居ました!?珍しいの!!」
「おう。こりゃ・・・なかなか珍しいぞ!探してみぃ。」
「わ~!わくわくする!」
二町さんが相当に期待するのも無理はない。シギ・チドリ類の多くは旅鳥である。元々、他の場所への移動中に立ち寄っている状況を観察している訳だから、その中に普段は別の場所に立ち寄っている種が1、2羽混じる場合が多くある。そのような種は迷鳥として分類されることとなるから、シギ・チには、迷鳥が比較的多いのだ。
 ・・・しかし。二町さんがいくらシギ・チを1羽1羽丁寧に観察しても、怪しい個体は見つからない。
「あれ~?う~ん・・・あれは・・・・普通のハマシギよね・・・多分。」
確かにシギ・チは模様が似通っているし、二町さんに原口さんほどの識別能力はない。とはいえ、二町さんも経験を積んだ立派なレンジャーの一員だ。趣味のバードウオッチャーに比べると、頭1つも2つも抜けていることは間違いない。そんな二町さんが、完全なお手上げ状態。
「原口さ~ん。もぉ降参です~。そろそろ教えてくださいよ~。」
ヘルプを出す二町さんを、原口さんは思いっきり突っぱねる。
「バカ。もうちょっと自分で頑張って探さんか!」
「うぅ・・・。私の気のせいですかね?最近、原口さんに怒られてばかりな気がするのは・・・。」
気のせいではないかもしれない。

「そりゃの。いつまでも成長が見られんからじゃ。」

それも・・・一理ある。

 ―5月5日(木)、伊豆背自然観察パーク
主役は僕たち。さぁ!!こどもの日である。前日に大腸癌で入院したじぃちゃんの事が気にならない訳じゃない。でも、せっかく部活も休み。両親の説明では手術で完治するという話だし、今日はおもいっきり楽しむと決めている。僕と真悟は、1時過ぎに観察パークに到着した。そして飛び込んできた光景に、驚くと共に、完全に失敗したと思った。
「食べてくるんじゃなかった・・・昼食。」
なんと!普段は閑静すぎるほど閑静なビジターセンターへの一本道の両脇に、出店が!焼きそば、焼き鳥、フランクフルト・・・主要なものは大体ある。いつもは観察パークに工作へやってくる親子がメインだが、それなりのにぎやかさも完成されている。これ・・・いいのか!?鳥逃げるんじゃね!?自然に悪影響ないの!?

とにかく、結構本格的に普通にお祭りだ!!

「おぃ~!ゴリラ!!毎年のように来よんやろ!?教えて~や。昼こっちで食べたかった。」
「うほ?食べるよ?こっちでも。」
僕が間違ってるのではと思ってしまうほどのドヤ顔回答・・・。真悟の辞書に満腹という言葉はない。悪気がある訳じゃない。人体・・・いや生物種の構造の違いだ。
「タツも来れればよかったのにね。まぁ・・・とりあえずはさ。2度目の昼食の前に、レンジャーの皆さんに挨拶済まそ。」
違和感のあるにぎやかなこの直線を、今にも出店に釣られそうな真悟を引っ張りつつ、ビジターセンターの入り口へ向かう。
 僕と真悟が入り口の自動ドアに近づくと、扉が開いた。ただ、非常にややこしいが、これは僕たちが近づいたからではない。中から、首にカメラを下げた男性が出てきたからだ。
「・・・げ。」
さっきの“男性”という表現・・・100%の保障は持てない。

「わ~ォ!!藤村師匠ジャナ~イ!!!お祭り楽しんデル~??」

僕の顔を見るなり、笑みが溢れている。出た!!!守田大治郎さんっっ!!・・・藤村師匠!?僕はいつからこの人の何の師匠になったんだ!?!?そんな疑問は後!本能が危険な香りを感じ取っているのか、真悟が少し身構えている。怪しい人でない事を先に説明せねば。
「ゴリラ、この人はね、西南西新聞の記者で守田大治郎さん。ほら、ちょっと話せんかったっけ?この間の日曜日に、変な・・・いやユニークな新聞記者の人と知り合いになったって。」
「あぁ!そういえば言いよったね。初めまして。えっと、あっくんの友達の植村真悟と申します。」
「エエン!?あの長身でゴリラ似の!?」
開いた両手を軽く口元へ。あの乙女な驚き方!!
「それですね。改めて俺って残念な特徴。」
そういえば、僕も最初は真悟と勘違いされたっけ・・・似ても似つかない。念願の真悟との対面を果たした守田さんのハイテンションは止まらない。
「会えて嬉しいワヨ~。噂には伺ってマス。私、西南西新聞で毎週水曜日のコーナー『野鳥の楽園ダヨ!伊豆背自然観察パーク!』を担当してるんだけどね、『“スーパー中学生バードウォッチャー”ゴリ・・・植村ちゃん!』で1回特集組みたかったノ!!ゴリ・・・植村ちゃん、ちょとだけ取材イイ??」
戸惑いつつも承諾する真悟。
「いいんですか?俺で。あっ・・・後、呼び名、ゴリラでいいですよ。もう慣れてるんで。」
歴史的な瞬間だ。

“ゴリラ”という仲間内ニックネームが今!!公共の場へと羽ばたいた。

「悪いワネ。じゃ!ゴリラちゃん!ここじゃ邪魔になるからちょっと向こうで。」
守田さんと真悟は、焼きそばの出店の隅に移動し、僕は一時的に独りになった。
 ふと、お祭りのにぎやかな雰囲気の中で感じる疎外感。気がつくと僕は、戸惑いながらも一生懸命に取材に答える真悟を、羨ましいような悔しいような気持ちで遠目に見つめていた。
「すげぇなぁ・・・ゴリラ。」
ナベヅルの帰り道、オッキーが僕に話してくれた論理は、本当にその通りだと思う。オッキーは、ソフトテニスが好きだから上手くなりたい。僕にとってはバードウォッチングが、オッキーのテニスと同じだ。勿論僕だって、少しずつはバードウォッチャーとして前進していると思うし、何より真悟とはキャリアが違う。今は、自分がバードウォッチングに向いているという事も、自信を持って宣言出来る。ただ最近、以前とはまた違う意味で、真悟の凄さを感じて少し辛くなるときがある。現時点で、中学生バードウォッチャーとして注目され、取材を受けるほどの真悟。それに比べてまだまだ自分は・・・でもいつか追いつきたい!

真悟は僕にとって、大切なバードウオッチング友達であり大きな目標でもある!

 取材を終えた真悟が戻ってきた。
「あっくん、お待たせ!」
「おぅ!いいよ!」
いい取材が出来たのか満足気な守田さんは、今度は僕たち2人にこんな提案をする。
「アン!そうだ!1枚どうカシラ?記念写真。」
「お!いいんですか!?撮ってもらおうや、あっくん。」
「うぅ・・・。まぁ・・・じゃぁ・・・。」
ノリノリの真悟に対し、写真嫌いの僕。断るのも悪いから、お祭りの雰囲気が最大限に感じられる一本道をバックに2人が並ぶ。
「ねぇねぇ!!俺、こんなポーズはどうかなと思うんやけど!!」
そう言って、グーに握った両手の拳を、片手を顔の横、もう一方を胸の辺りにもって行く真悟。ゴリラか。
「あ・・・いや、僕はピースでいいや。」
「え?そう?あ、あっくん写真嫌いやもんな。」
好きでもそのポーズは遠慮すると思う。

「ハ~イ。じゃぁ撮るワヨ~。ハイ!チーズ!」

明るいからフラッシュがなくてわからないが、多分、シャッターが下りた。
「よっしゃ・・・撮れたワヨ。ン~。藤村師匠、表情が固い~。」
そうだ・・・師匠の謎、まだ聞いていなかった。
「写真ありがとうございます。で、あの、守田さん。師匠って何ですか?」
僕のこの質問に、守田さんは顔を赤くする。
「そりゃ・・・その・・・モォ!恥ずかしいジャナ~イ!

あゆみちゃんとの・・・関係における師匠ヨ!」

「・・・。」

誰かこの人止めてほしい!!

「あゆみちゃんって・・・あのあゆみちゃん??」
「あ~そぉそぉ。」
守田さんの眉間にシワが寄る。
「・・・エ?ゴリラちゃんも・・・あゆみちゃん知ってるノ??」
「はい。あっくんと一緒に行った1泊2日のナベヅルミーティングで一緒だったんで。」
ちょ!!真悟!!そのワードは駄目だ!!!

「1泊・・・はふっ、ハフッ・・・!!」

「守田さん!?え!?あっくん何これ、過呼吸!?」
「やはり!?!?」

 はぁ・・・到着して30分。まだ、お祭りを楽しむ前段階の挨拶すら済ませていない僕たち。ここ3人だけ、周りとは別の意味で大にぎわいだ。これからいったいどうなる事やら。
「守田さん!大丈夫ですか!?落ち着いて!」
「はぁ・・・何とか・・・大丈夫ヨ。ありがとネ。藤村師匠と・・・

ゴリラ師匠。」

やっぱね。そうなるのね。

103:嘘

2012-03-02 11:13:56 | ★DAILYLIFE★(acco小説)
 タツとミソサザイどちらの手柄かはさておき、僕たちソフトテニス部は、ほぼコウジの到着と同時に給食室前に集合することに成功した。
「おう、お前ら。今日は予定通りに球拾い終わったんか。珍しいな。」
部活スイッチが入っているから言葉は荒いが、コウジの機嫌は至っていい。よかった。コウジの噴火を見ることなく部活を終われそうだ。『早めに球拾い始めただけでぇ~実は手こずりましたぁ~』なんて本当の事を言うものはいない。必要な嘘もあっていいと思う。周りをチラ見すると、みんなニコニコして、ブンブンと頷いている。うぅん・・・ちょっとワザとらしいだろ!!
「・・・?ニコニコニコニコ・・・気持ち悪ぃ。お前ら、何か怪しいのぉ。」
青ざめ、つばを飲む一同。
「・・・まぁええか。特に他に無いから今日は終わろう。明日、明後日は部活も休みじゃけ~な。しっかりゴールデンウィークを楽しめよ。」
「気をつけ!礼!」
「ありがとうございました!!」
あぶねっ!無事に開放された!それぞれが帰宅する方向へと散っていく。
「あっくん!木曜日はよろしく。」
真悟とは家の方向が違うから、帰りは別々。
「はいは~ぃ!楽しみやね~。ばいばい。」
今日はおだちゃん&タツと帰宅だ。タツの家は、県営住宅側から帰るには遠回りな場所にあるのだが、休みの日の部活の場合、家とから学校までの距離に関わらず自転車通学が許可されている。学校と家が異常に近い僕やおだちゃんは歩きだが、タツは自転車だ。遠回りといっても、自転車なら県営住宅コースでも大きな差はないから、土日や祝日の練習では一緒に帰ることが多い。っと、帰ろうとする3人、というよりタツをコウジが呼び止める。
「おい、本井。・・・ちょっとええか?」
まぁしょうがなく、僕とおだちゃんも立ち止まる。コウジのギラギラとした目つき・・・この時点で怪しい雲行きにタツは気付くべきだった。
「お前もう体はええんか?」
「うん。午前中に病院行ったら、もう大丈夫って先生が。」
・・・この返答をとりあえず耐えただけでもコウジを褒めたい。ただ、これで噴火確定。
「・・・そうか。あのなぁ本井。俺はのぉ、久しぶりに部活に復帰したにも関わらずぞ?俺に一言もなく帰ろうとすることに腹が立って呼び止めたんじゃ。でものぉ・・・気が変わった。」
「・・・?それでぇ?」
目を見開き、眉がピクピクと動くコウジ。・・・終わったなタツ。

「教師に敬語も使えんお前みたいな奴はのぉぉ!!!!!そのまま部活休んどけや!!!!!」

「へぇ~ぇ。」
僕には聞こえるけどコウジには聞こえない音量で、おだちゃんのため息がむなしい。あぁ・・・一瞬でも・・・

実はタツが賢いんじゃないかと思った自分って一体・・・。

 ―県営住宅コース
「いっやぁ!すっごい剣幕やったね!せっかく俺がラスト1球見つけたお陰でさぁ、コウジ機嫌よかったのに。・・・あれ?てことはよ。俺がみんなを守ったのに、俺だけ怒鳴られる・・・。おかしくね!?これ損じゃね!?」
チャリを押しながら歩くタツに、反省の色は全く見られない。
「いや・・・復帰を一言報告する必要はあるかわからんけどさ、敬語くらいは使おうぜ?もう中2よ!?先生に溜め口とか・・・若友先生くらいまでやわ!!」
「若友先生懐かし!まっ、敬語使えんって設定すらも俺のネタかもしれんけどなっ!」
「・・・あっそ。」
んなバカな。突然、タツがチャリのブレーキをかけ立ち止り、僕の方を向く。
「ってそうや!!さっき病院の話して思い出したんやけど!!」
「・・・どうした?」

「今日の午前中、真中病院であっくんの父さんと母さん見かけたよ~。」

「・・・え?」
待てよ午前中・・・父さんは・・・休日出勤?うん。よくある事ではある。母さんは・・・子供会の集まり!?確かに2人とも家にはいなかった!!いやでも・・・
「タツの見間違いじゃ・・・」

「白髪のおばぁさんと一緒やったけど?誰か病気?」

白髪っていったら・・・ばぁちゃんだ!!そっか糖尿病の検診・・・いや違う。それなら父さんが行く必要がないし、何より子どもに嘘をつく必要がない!!
「そっか・・・教えてくれてありがと・・・。」
胸騒ぎがした。

「事件の・・・予感やね・・・。」

「うわ!おだちゃん!?おったんかい!!・・・じゃ、まったね~。」
県営住宅の入り口に着いた。タツは軽快に下り坂を下って行った。

 ―自宅
「ただいま。」
タツの話の真偽・・・確かめなければ。
「お帰り~。」
「お兄ちゃんお帰り~。」
いつもと変わらない2人の返事。それに今日は追加で・・・
「おっ。お帰り晃宏。お疲れ。」
父さんだ。
「・・・。早いね。今日、仕事行ったんじゃなかった?」
「おぉ・・・うん。」
父さん、明らかに動揺したのがわかった。
「お父さんね、今日は仕事が早く終わって、3時くらいには帰って来たんよ~。」
佳昭よ。たまには役に立つ情報をありがとう。祝日出勤でも、帰宅がそこまで早い事は普通ない。確定だな。佳昭がトイレに行った瞬間を見計らう。状況がわからないから、一応それくらいの配慮は。両親へ突然に切り出す。
「2人ともさ、今日の午前中・・・嘘ついてまで、おばあちゃんと真中病院で何しよった?タツが見かけたらしいけど。」
誤魔化してくるかとも思っていたが・・・父さんと母さんは、案外素直に認めた。
「もう気付かれたか・・・。悪いけど、夜、佳昭が寝てからでもいい?」
「はぁ・・・タツ君か。・・・まさか私たちにまで被害とはね。」
ただ、こういう事態も想定されていない訳ではなかったのだ・・・。

 ―午前中、病院
「あのっ!!」
ベンチから立ち上がり、重たい空気を切り裂いた母さん。
「確かに雅巳さんの言う通りで、転移がある可能性が高いかもしれませんよ!?でもどちらにしたって、私たちがこんな気持ちじゃ駄目だと思うんです!昨日、晃宏と佳昭がバードウォッチングでお世話になってる方から聞いたんです。何羽かは助からないと思ってた5羽ヒナが、奇跡的に全員無事だったって・・・。」
父さんは呆れて言う。
「もとちゃん・・・その鳥は怪我か病気か知らんけどよ?人間の癌とは・・・」
母さんは、カワラヒワに語りかける時の渡中さんの笑顔を思い出す。
「それはそうよ!?でも、私が思ったのはね・・・まず、私たちが信じてお父さん支える事が大切なんじゃないかって事よ!!周りが最初から諦めてちゃ駄目でしょ!?

それは、対象が鳥でも人間でも同じじゃない!?」

渡中さんは、5羽全てが生きられる可能性は低いという客観的事実を受け止めつつも、どこかで全羽が助かることを信じて愛情を注いでいた。そしてその結果、小さな奇跡は起きた・・・。そして、母さんの思いはばあちゃんにも伝わった。
「もとちゃんの言う通りかもしれんね。とにかく私たちは、せみはし先生を信じて頑張ってみよ~い~ね。」
「お母さん・・・“すみはし”先生です。オシいんですけどね。」
父さんも、女性2人に押される。
「まぁ、それもそうか!じゃ、僕は親父に病気と入院の話をしてくるから。どうせ、仕事って設定で家には戻れんし。とりあえずは、大腸癌で手術が必要っていう事実だけ伝えて・・・かなり状況が悪いことは黙っとこうと思うけど、どうじゃろ?」
「雅巳に同感じゃね。」
「うん、私も。」
患者本人に病気を伝える時、ありのままに病状を伝える場合と、ある程度嘘をついて楽観的に伝える場合があると思う。今回が後者なのは、3人がじいちゃんの性格を理解しての事だ。ハンチングにサングラスという多少ワルそうな見かけと裏腹に、じいちゃんはかなり気が小さい。周りが信じて支える事は勿論大切だが、当の本人が病気との戦いを諦めてしまっては元も子もない。
「で、晃宏と佳昭にはどうしようか?」
こちらは、父さんと母さんから頃合を見計らって話すという事で3人の意見はまとまった。ただし、こちらにも病状が深刻なことは内緒で。これは、ばあちゃんの孫にあまり心配を掛けたくないという強い希望からである。じいちゃんに病状が漏れる心配を減らすという狙いもある。

 勿論この時の頃合というのは、決してその日の夜などではなかったのだが・・・

―夜、自宅
タツの災いによって、息子の1人には早くも頃合が訪れたのである!!僕はテーブルに座り、向かい合って座る両親から話を聞き終えた。佳昭は隣の部屋でぐっすり眠っている。
「じゃぁ・・・じいちゃんは大腸癌やけど、手術して切除すれば治るんやね?」
僕の問いかけに自信を持って、父さんが答える。
「そ~そ~!入院して、検査がちょっとあって、まだ手術がいつになるかわからんけどね。まっ、晃宏がそんなに心配せんでも大丈夫よ。へっへっひっひ!!」
「・・・了解。」
父さんは、相変わらずの気持ち悪い笑い方ではある。でもそれは、変なニコニコよりよほど自然で、コウジが感じたであろうようなワザとらしさは感じられなかった。

僕は嘘を見抜けなかった。

両親の方が一枚上手だった。
「悪気があった訳じゃないけどね、子ども会の集まりとか・・・嘘ついて悪かったね、晃宏。」
母さんが素直に謝ってくることは稀である。
「・・・いや、それは別にいいよ。」
・・・噴火を回避する・・・必要のない争いを避ける・・・よけいな心配を掛けたくない。理由は様々あるとは思うが・・・

「必要な嘘はあると思うし。」

翌日、5月4日水曜日、じいちゃんは真中総合病院に入院した。

102:鷦鷯(ミソサザイ)

2012-02-22 01:04:43 | ★DAILYLIFE★(acco小説)
 背の順で。下から、タツ、僕、真悟。民家の角で顔を縦に並べる。後は、ゆっくりと体重を前に傾けひょっこりと顔を出し、美声の持ち主を拝ませて頂くだけである。
“ピピピチュイ!チリリリリ・・・!”
移動せずにさえずりを続けているようだ。それにしても、かなり特徴的なさえずりだと思うが・・・。
「ねぇゴリラ。何の鳴き声かわからんの?」
「う~ん。こんだけ大きくて綺麗な声やしね~。聞いたことあれば覚えちょると思うんやけど、聞き覚えない。」
真上からの返事。真悟が喋るたび、顎がコツコツと僕の頭に当たって痛い。
「お~!そりゃ期待出来る。」
「あんさ~。早く見てみようぜ!中腰つらいしさ、この状態であっくんが喋ると、俺の賢い頭にダメージが蓄積するよね。」
「あっごめん。」
おっと、そうか。僕の下にいるタツもまた然りだった。真悟が少しずつ、僕とタツに体重を乗せていく。
「そんじゃタツがこれ以上バカにならんうちに・・・

拝見うっほぃ!!」

確認だが、ここに重なっている3人は、絶賛球拾い中である。

 1羽の鳥が、比較的大きな庭石の上にいた。見つけるのはなんとも簡単だった。あっちを向きこっちを向き、庭石の上でせわしなく動いているから、すぐに目に留まる。でも・・・本当にあの鳥が声の主なのか!?
“ピピピチュイ!”
ほ!今確実に鳴いた!!て事は本当に・・・信じられない出来事だ。

こんな声量と美声の持ち主が、スズメより遥かに小さく見える小鳥だとは!!

「・・・げっ!見つかった!?」
その小鳥と目が合った気がしたのは、気のせいではなかったようだ。その小鳥は慌てたように、上手く庭木の枝を掻き分けながらどこかへ飛び去った。3人とも緊張感が抜け、崩れる。
「あぁ~ん!!行ってしまわれた・・・。」
タツはかなり残念そうだが・・・真悟の方は姿を見られただけでも十分に。っと言った所だろうか。
 最近は少しずつだが経験を積み、あれくらいの短い観察時間にも慣れてきた。以前より、鳥の特徴が頭に残る。色は全体的に茶色で、丸いシルエット・・・というか今回の場合、サイズが特徴的過ぎる!目視でスズメより小さく感じる鳥なんていうのは、日本に何種かしかいない。さらにあの鳴き声!!図鑑で見た『そのサイズからは想像もつかないような美しい声でさえずる』っという情報とも完全一致。これはレア鳥だったんじゃないか?

「ゴリラさっきの、ミソサザイ?」

「おっ!あっくん!ほんとに最近詳しくなったよね!」
よっしゃ正解!
「そりゃゴリラ師匠のお陰やし。まぁあの声とサイズやもん。そんなに識別難しくないやろ。ただあのさえずりは反則。図鑑でさえずり声が綺麗で大きいのは知っちょったけど、あそこまでとは思わんかった。」
「なるほど。そっかそっか。確かに図鑑見れば、見た目、サイズとかはある程度正確にわかるけどさ、鳴き声って文字にされても想像するの難しいよね。そぉいや、観察パークには、機械を使って鳴き声も聞ける最新の図鑑があるらしいよ。俺もまだ使ったことないけど、ミソサザイみたいな野鳥に対しては、実用的よね。」
僕の発言から、図鑑の問題点を見事にあぶり出し、それを解決する術すらも、何気なくまとめる真悟。さらりとやってのけるが、案外難しい事だと思う。やっぱ真悟には学力以上の賢さがある。

「あのさあのさ、俺もどうにか話に加えて~や。」

「あ・・・ごめん。」
おっとっと。ついつい鳥の話となると夢中になってしまう。タツの存在を忘れかけていた。いや、すでに忘れていた。真悟が慌ててタツにも説明する。僕が説明するより、ちょっと知識が深い。
「さっきのはミソサザイって鳥でね。山に入って、渓流とかに多いけ、この辺りじゃ結構珍しいんよ?俺も初めて見たし。で、なんと言ってもバードウォッチャーから見た魅力はね。あのサイズに似合わない圧巻のさえずり!こんな場所で聞けるとは!あ~そうそう!!実はなんと!!日本で2番目に小さい鳥・・・ってのも考えたら凄い事よ!?ウホィ!!」
「ふ~むふむ。」
真悟の熱弁に、わざとらしくうなずくタツ。まぁ、日の山のバードウォッチングすら覚えてなかった奴だから、鳥の話なんてタツにとってはこんなもんか・・・と思ったらだ。
「うぬ??あっくん、ゴリラ、小さいっていうとさ・・・」
「うん?」

「ヤブサメも小さかったよね?」

ヤブサメ??・・・タツから飛び出したその名前を思い出すのに、多少の時間がかかった。
「・・・ぅあぁ!!懐かし!!」
 あれは・・・そう!去年の夏休み最後の事だ。僕、ゴリラ、タツ、オッキー、ウッチンの5人で霜降り山に出かけた。あの時は、長~い尾羽がチャーミングなサンコウチョウを探しに出かけたはずなのだが・・・
“なんか鳴きよらん!?”
“真上だ!!”
思いもよらず見つかったのは、ヤブサメというなかなかのレア鳥だったのだ。姿が見えたのはほんの一瞬だったが・・・そういえばあの鳥もめちゃくちゃ小さかった!
「えっと・・・。」
「・・・ゴリラ?ね?小さかったやろ?ね?」
「おっおぅ。ヤブサメはねぇ、日本で3番目に小さい鳥なんよ。ちなみに1番小さいのはキクイタダキってやつね。いや~!!タツがヤブサメを覚えちょるとは思わんかったわ!失礼ながら・・・。」
僕も全くの同感!!
「そこよね。正直ビックリ・・・。」
「え~!!ちょっと!!俺って周りにどんな人間やと思われよんや!!」
「結構なバカ?だってさ、初日の出の時も日の山登ったの覚えてなかったし・・・ねぇゴリラ。」
「そぉそぉ。あれはショックやった。持参した竹輪落としたもん。」
「そっちかぃ。」
2人の自分に対するイメージを聞き、呆れた顔でタツが答える。
「はぁ。あれはさぁ、ネタやん!!さっきも言った気がするけどさ、俺って意外と賢いからね。ほんとは日の山行った事も覚えちょるよ?鳥おらんやったけどさ、ゴリラがカラスの羽の解説してくれたやん?」
「そいやそんな話聞いたかも。」
・・・ほんとだ。予想以上に細かい所まで。
「それだけじゃないし!!初めてバードウォッチング行った日の事もちゃんとよ。ハクセキレイの幼鳥とか、めっっっちゃ可愛かったしさ・・・あんときに気付いたよね?

バードウォッチングがちょ~楽しいって事に!」

あれ。満面の笑みで断言するタツから、何だか真悟に似た賢さを感じた気がしたが・・・いやいやいやいや!!気のせいに違いない。間違ってもそんな事は有り得ない。ただ、1つわかった事がある。

タツはバードウォッチングに興味がない訳じゃない!

どうやら、自称ネタのキャラ設定やウッチン騒動もあってか、完全に誤解していたようだ。思えば、オッキー、ウッチン、おだちゃんと違って、タツからはバードウォッチングに対する気持ちをこれまで直接聞いた事がなかった。これほどバードウォッチングを気に入っていたなんて。それこそ、僕のバードウォッチング生活だって・・・
“今日の帰り道、3人でバードウォッチングしながら帰らん??”
図書館での何気ないタツの思いつきから始まったのだ。そう。ちょうど今ここにいる3人で。

「またさ。3人で行こうね。バードウォッチング。」

ここ最近は、僕と2人ですら鳥を見に行く機会が少なかったから、真悟にとっても嬉しい提案に違いない。
「・・・ぉおぅ!あっくん、いい事言うわぁ!タツ!木曜日は!?」
「あいにく予定がね。」
「う~ん。残念。」
そういえば、家族旅行とか言ってたな。
「まっ!また時間つくってさ!!絶対行こうや!!」
久しぶりのタツを加えてのバードウォッチングか・・・。実現すれば盛り上がることは間違いなさそうだ!
「さて、そろそろね。俺は球探しに戻ろ~。じゃぁまた後で。」
緑に消える真悟。真悟の一言が、僕とタツを一気に現実へと引き戻す。ラスト1球。かったるいが、そろそろ見つけないと、コウジの激怒が避けられなくなる。
「おぃ!あっくん!どっちがさきに見つけるか、勝負再開ぞ!」
ずんずんと、不法侵入の民家の庭をいくタツ。そういえばそんな話してたな!よっしゃ負けない!!っと気合を入れた・・・途端に勝負がついた。
「おっ!やっぱ俺の“ロストボールサーチング”すげぇ!!」
タツが庭石の影から、まぎれもなくテニスボールをがっしり掴み、勝ち誇った顔で僕に向けてボールを突き出す。・・・あら?その庭石は・・・。
「ねぇタツ。僕の負けでいいけどさ、その必殺技は譲ったら?」
「誰に!?」

「さっきのミソサザイ。」

その庭石の上であれほどの美声を響かせて、ボールの場所を教えてくれていたのだから。

101:必殺技

2012-01-23 00:01:12 | ★DAILYLIFE★(acco小説)
 ―5月3日午前、真中病院
1階の廊下を歩く、雅巳(父さん)、もとこ(母さん)、千代子(ばあちゃん)。この『苗字は藤村3人組』の足取りは、決して軽いものではない。隅端先生から、じいちゃんの大腸癌について詳しく説明を受けた訳だが、病状があまりよくない事は、3人にも隠さず伝えられた。3人ともが倒れこむように、意味もなく廊下に設置されたベンチに腰をおろす。
「はぁ、こりゃ親父の葬儀も近いかもしれんなぁ。」
そう言って、ネクタイを少し緩める父さん。スーツ姿である必要性は微妙だが、子どもたち、つまり僕と佳昭に休日出勤だと嘘をついて家を出るにはちょうどいい。
「あんたね、縁起でもない事を言うんじゃないよ。」
いつもより化粧濃い目のばあちゃん。父さんを軽く叩く。
「そうよお父さん!担当の隅端先生も、若い割によさそうな先生だったでしょ!?」
珍しくネックレスを着けた母さんも、父さんを睨みつける。朝っぱらからの派手なお出かけを、僕と佳昭には子ども会の集まりで通してある。昨日から母さんは、完全に隅端推しだ。ちなみにその隅端先生。実は説明しながら心臓バクバクで、3人と別れてすぐトイレへ駆け込んだ。
「いや~。そうは言ってもね・・・。大腸癌だけなら手術で・・・。や、でも、3,4年・・・転移がないってのは考えにくいじゃろ?先生も転移が見つかったらもう・・・って感じじゃった~ね。」
2人に非難される形にはなってしまっているが、父さんの意見は正しかった。そしてそれは、2人だってわかっていた。
「・・・。」
だから2人とも言い返せない。

重たい空気が流れる。

「あのっ!!」

突然、母さんが立ち上がり、真剣な表情で父さん、ばあちゃんと向かい合った。

 ―午後、学校テニスコート
前衛がボレーの練習中である。オッキーが華麗に決める!
「ナイッボレッ!!」
僕、ウッチンなどの後衛組は、それを見て声を出す。決まった掛け声である。
「うっほぃ!!」
次に、真悟が負けじと力強く決めた!
「背後霊!!」
おだちゃんのニックネームとかではない。『ナイスボレー』が正しい掛け声だが、通常『ナイッボレッ』のように語尾が濁る。『背後霊』は、その極限型と考えてもらって差し支えない。鬼顧問の阿藤工事は急用で、練習の最後辺りにしか来られなくなり、先輩も含めて今日はやりたい放題だ。オッキーと真悟も、綺麗にボレーを決めた為、戻ってきて後衛と一緒に掛け声に加わる。
 そして今日はついに・・・こいつが部活にも復活した。本井タツ!
「うりゃ!!!って・・・あ?あれ?」
人一倍気合が入っていたが、無常にもボールは構えたラケットの横を通過していく。オッキーの励ましの言葉が、大声で響く。
「どんまいどんまい!!次決めよう、次!!」
首をかしげなが列の後ろへと戻るタツ。はぁ、なんと頼りない相方。まぁ僕も、人の事言えたもんじゃないし、タツは久しぶりの部活だからあんなもんかもしれない・・・。
 さぁ次!こう言っては失礼極まりないと思うが、新入1年含めてもソフトテニス部最弱、おだちゃんのボレーである。先輩がなんとも絶妙な位置に、ボレーしやすいボールを出す。しかし!おだちゃんの動きは鈍い。ネットを越えるボールの側に、ラケットの影も形もない。

“ポテ”

聞いた事ない音だ。誰もが気づいた時には、おだちゃんとネットを挟んだ側にボールが転がっていた。・・・って、決まった!?またもオッキーが大声で叫ぶ!
「出たー!!!おだちゃんのインビジブルボレー!!!!!」
インビジ・・・なんて!?!?とりあえず情報通のウッチンに聞いてみよう。小声で尋ねる。
「ちょいちょい・・・何!?まず、今のボレー?で、オッキーは何を叫びよん?」
「ぎゃは!あっくん今頃!?最近おだちゃんがたまにやる奴!変な音がして、誰も気づかんうちにボレーが決まっちょんよね~!!通称“インビジブルボレー”!オッキーがネーミングしたおだちゃんの必殺技!!」
「オッキーが!?」
何かキャラと違う。・・・ん?必殺技と言えばもしや・・・。
「俺の“ローリングボール”も名前付けてもらった!ギャハハ!!」
「やはり!?」
オッキーと目が合う。よほど僕は引き気味な目つきでオッキーを見ていたのだろう。
「おい・・・あっくん。なんか俺に言いたい事でもあるならさぁ、遠慮せんでも大丈夫ぞ?」
「あ・・・いや・・・全然。こここ、今度さ!僕にもかっこいい必殺技考えてちょ~。」
厨二病の中二。いやなんと健やかな成長であろうか。

 っと、工事がいないのをいいことに楽しく進んだ練習。が、しかし・・・。練習後の球拾いで問題が起きた。ソフトテニス部は、テニスのプレーと共に、コウジの機嫌を損ねないという目標にも、多くの神経を注いでいる。本日の“コウジご機嫌プラン”はこうだ。
普段より早めに練習終了→球拾いを早めに終了→戻ってきたコウジを給食室前に整列でお出迎え→すんなりと終わりの会→コウジご機嫌
うむ!計画は悪くなかった!ただ、球拾いのラスト1球が見つからない!テニスコート内を探せば・・・という甘いものではない。上手い下手に関わらず、たまにはミスショットでフェンスを超え外にボールが飛んでいく事もある。捜索範囲は、プールを始め、雑木林、隣の民家・・・坂を転がってった可能性も考え、国道にまで及ぶ。もし仮に、給食室前でのお出迎えを優先し、この1球を諦めるとしよう。・・・いや、それでは駄目なのだ!特に最近は、無くなった球が見つからない事が多い。そんな事情もあり、ここの所のコウジは、球拾いにピリピリしているのだ。また無くなったなんて報告したら・・・ご機嫌どころか、コウジ山脈大噴火も見えてくる。

 「・・・どこだぁ。」
僕は盆栽の裏を覗く。おもいっきり民家!!しかも本日は足を伸ばし、普段勝手にうろうろさせてもらっているテニスコート真隣の民家から、更に隣の民家のお庭に進出!さすがにここまで探しに来ている部員はいない。それしにても、綺麗に手入れされた庭だ。庭石、盆栽、庭木がバランスよく配置されて・・・
「はわっ。」
思わず声を出してしまった!まずい!!

植木の向こう側に、しゃがんでモゾモゾやってる人が!!

家主か!?僕の脳裏に浮かぶ“不法侵入”の4文字。声に気づき、その人物が立ち上がる・・・。
「あれ!?タツ!?」
タツだった。
「ちょ~。やめてくれん?この家は俺のテリトリーなんやけど?」
いや、テリトリーとか知らんけど。しっかし・・・
「驚かすわぁ・・・家主かと思ったし。覚悟したよ?前科。」
「ふっ!あっくんもまだまだやな!!俺はさっき窓から部屋を覗いて、留守なのを確認済みやけどね!!」
こいつ・・・復帰したてでやりたい放題か!!でもなんか負けた気がする!!悔しい!!珍しく闘志が沸いてきた。
「ちょ~タツ。どっちが早くラスト1球を見つけるか、勝負ぞ!」
「ふっ。」
なんだ!?僕の戦線布告を軽くあしらうタツの余裕な表情からは、不気味さすら感じる。
「ちょいちょい本井さん・・・その自信はどのような・・・?」
「あっくん、知らんの?俺の必殺技“ロストボールサーチング”!!俺、な~んとなくで、球の場所わかるんよね~。この家の庭のどっかな気がするんやけどな~。」
そんな話がある訳・・・と思った。でも・・・もしかして・・・最近、無くなる球が多かったのって・・・

タツが胃腸炎で休んでたからか!?!?

そう考えると、つじつまは合う。それから、またあの言葉が聞こえたような。
「でさ・・・必殺技って言った?」
「おう!オッキーがプレゼントフォーミー!」
「やはり!?本日2度目やしこの流れ!!せめておだちゃんとかウッチンみたいにさ、テニスのプレーで必殺技編み出して~!」
ペアを組んでいるものとして・・・切実な願いだ。

“ピピピチュイ!チリリリリ・・・!”

突如響く、聞きなれない鳴き声。
「うわっ・・・なんやろ?やけに響く鳴き声やね。」
珍しい鳥かはわからないが、さえずりだけで、そこら辺でいつも見られる野鳥とは格の違いを感じる。タツもどこまで本気やらわからないが興味を示す。
「あっち側から聞こえるくね!?見てみようぜ!!」
声の主がいるであろう庭の側面を、家の角から顔を出して確認しようとするタツ。
「ちょい!タツ!ストップ!」
僕は慌ててタツを掴み止める。鳥の注意力は侮れない。タツが覗いた瞬間に、警戒して飛び去るかもしれない。
「わ~かったって。じゃぁあっくんもさ、一緒に覗こうぜ?」
そう言ってタツは、僕の手を振りほどく。
「まぁまぁ。ちょっと待って。」
「え?なんで?」
“ピピピチュイ!チリリリリ・・・!”
相変わらずのよく響くさえずり。これなら少々遠くにいても・・・聞こえるだろ。

「うっほ~~ぃ!!!!!」

「ほらね?」
やはり来た。
「あ~そういう事?」
納得するタツ。
「ふぅぅ~!!あれ!?早いね2人とも!!なんかめっちゃいい声がするやん!!」
息を切らしながらも、ニッっと笑うお決まりの表情で到着。

やっぱ真悟は色々な意味で、緑の背景に映えるっ!!

100:あたりはずれ

2012-01-16 16:29:39 | ★DAILYLIFE★(acco小説)
 ゴールデンウィーク中の貴重な平日である。真中総合病院2階の内科待合室は、多くの人で溢れている。
「はぁ。」
待合室のイスに座った僕の母さんは、その人込みを見ながらため息をつく。と、白髪のおばぁさんが、先生に礼をしながら診察室を出る。少しあたりを見回し、母さんを見つけるとまっすぐこちらに向かってくる。
「もとちゃん、おっ待たせ!」
「いえいえ。お母さん、大丈夫でした?」
病院に用事があったのは母さんではない。

僕のばあちゃん、藤村千夜子の糖尿病定期健診である。

ばあちゃんは嬉しそうに、胸を張って答える。
「全っ然!問題ないよ!健康そのもの!」
「それは・・・よかったですね・・・。」
糖尿病の定期健診の時点で、健康そのものなはずはないが、確かにここの所、病状は安定しているようだ。僕の母さんは、車を運転しないばあちゃんを、定期健診の度に病院へ連れて行っている。最近は診察時間が短い。病気が安定している証拠だ。
 さて、2人は階段の前へやってきた。1階へ降りようとするばあちゃんを、母さんがちょと申し訳なさそうに止める。
「お母さん・・・今日は4階に行かないと・・・。」
足を止めるばあちゃん。
「ああ今日は・・・そじゃったそじゃった!」
「・・・はい。」

「よし!じゃぁエスカベーターで行こうかね!」

思わず吹き出す母さん。
「ふふ・・・ちょっと!お母さん!エスカレーターかエレベーター、どっちかにして下さい!」
「こりゃ失礼♪そぉそぉ・・・エスカレーター。」

「エレベーターです。」

前にも触れたが、ばあちゃんの場合、こんな覚え間違いは日常茶飯事である。

 ―4階、外科
エレベーターを降りた2人は、正面のナースセンターへ向かう。ばあちゃんは、隅端(すみはし)と名前の書かれたメモを取り出す。
「あの~、お尋ねしますけど、こちらの隅端先生を呼んでいただけます?今日、お話を伺う予定になってるんですけども。」
看護師にも話は通っているようだ。
「あっはい。すぐ呼んでまいりますので、あちらの・・・診察室1の方でお待ち下さい。」
 ナースセンターから1番近くにある診察室1には、すでに3つのイスが用意されていた。そのうちの1つは、少し離れた場所にあるから、そっちは隅端先生が座るイスに違いない。2人はもう2つのイスに腰掛けるが、薄暗い部屋で特に会話もない。あの内科の人込みとのギャップが大きく、同じ病院内ではないようだ。
“パチンッ”
明かりがつけられる。入ってきたのは、医師だから当たり前だが、白衣を着たまだ若い男性だ。誠実な顔立ちで、自信に満ち、いかにも頭がよさそうである。
「そのままで。結構ですよ。」
立ち上がりお辞儀をしようとした母さんを謙虚に止め、続ける。
「真中総合病院で外科医をやっております、隅端角巳(かどみ)と申します。よろしくお願いいたします。」
「まぁご丁寧に。こちらこそ、よろしくお願いいたします。」
母さんとばあちゃんも頭を下げる。

「さっそくですが、千代子さんの旦那様、四郎さんの病状について、簡単に説明させていただきます。」

「はい。」
「原因不明の腹痛が続くという事でしたが、検査の結果・・・


大腸癌が見つかりました。」


 下へと向かうエレベーターがやってくるのを待ちながら、母さんは腕時計に目をやる。
「あぁ・・・まだ15分しか経ってないんですね。」
「・・・それかね。なんかもっと時間が経った気がするけどいね。」
詳しい病状やこれからの治療については、明日の午前中、息子にあたる僕の父さんを含めて・・・という事になった。明日は祝日だから、父さんも仕事が休みでちょうど都合がいい。
“ピンポーン”
エレベーターが到着しドアが開く。
「でも・・・あれですね!担当の隅端先生。まだ若いみたいですけど、感じのよさそうでハキハキした先生でしたから、きっと当たりですよお母さん!」
「まぁ・・・そうじゃね。もとちゃん、来たよエレベーター。」

間違えないばあちゃん。それはそれで、なんだか寂しい。

 ―院長室
真中総合病院の最上階である6階の角部屋が、当病院の院長、真中都丸(まなかとまる)の院長室である。それはもう大ベテランの医師で、カルテに目を通す目つきは、穏やかな中にも鋭さがある。余談だが、“まなか”という発音は、案外言い辛い。この病院名の読みが、“まなか”総合病院ではなく“まんなか”総合病院なのはその為だ。
“コンコン”
ノックと共に、ドアの向こうから声が聞こえる。
「外科の・・・隅端です。」
「どうぞ。」
入ってくるなり、隅端先生は院長に駆け寄る。その表情は、さっき2人に見せていた自信に満ちた表情とはかけ離れたものだった。
「本当に・・・ほんとうに・・・私が藤村四郎さんの担当をするんでしょうかっ・・・!?」

青ざめた顔には、さっきまでと間逆の不安しか感じられないない。

ちらりとその表情をみた真中院長はカルテに目を戻し、淡々と、しかし丁寧な口調で答える。
「そうですよ。まさか、そんな恐ろしい顔でご家族と面会したんじゃないでしょうね?」
「いえ・・・それは大丈夫だと思います。私なりに・・・頑張りましたから。」
「うん。いいですか?何度も言いいますが・・・患者さんやご家族に、希望を与えるのが医者の役目ですよ。」
「はい・・・わかってます。でも・・・やっぱり私には無理ですよ!医師としての経験もまだ浅いですし・・・あんな大きな大腸癌の症例、見た事ありません。」
院長は相変わらずの落ち着きで、机の上にある無数のカルテから、すっと藤村四郎のものを手にとる。
「うん・・・。テニスボール大ですか。確かに大きいですね。4、5年はほおっておられましたね。ただ、患者さんの年齢を考えると、手術で切除するに耐える体力はまだ残っていると思いますが・・・どうでしょ?」
もはや隅端先生には、自分と相手の立場とか、そんなものはどうでもよくなっている。思いっきりの呆れ顔で質問に答える。
「院長・・・4、5年ですよ!?あれだけ進行していますし、何処かに転移が見つかると考えるのが普通です!その場合は・・・さすがに・・・」
院長は、もう一度カルテをじっと見つめてから、意見を述べる。

「厳しいかもしれませんね。客観的にみて。」

「じゃぁやっぱり私よりも・・・!!」
隅端先生の弱気な意見をねじ伏せるように、真中院長は話を続ける。
「ですが!!それはどの先生が担当されても同じ事です。それに私は、隅端先生にはベテランの先生に負けない技術や才能があると思いますよ。唯一足りないのは、心の強さです!お願いですから、もっと自分に自信を持って下さい!」
「・・・。」
返す言葉がない。
「わかりましたね?それで・・・今日来られたご家族に、病状とこれからの治療についてはご説明されたんですか?」
「・・・いえ。大腸癌が見つかった事だけです。明日、息子さんも来られるので詳しくはその時に・・・。」
「そうですか。まずは手術の前に、転移の有無を徹底的に調べるべきでしょうね。なるべく早く、藤村さんには入院してもらって下さい。それから何度も言いますが、患者さんやご家族の前では・・・?」
「不安に・・・させないよう・・・笑顔で・・・自信を持った表情で・・・」
「よろしい!!」

「泣きたいですよほんとは・・・。」

母さんとばあちゃんが、心の支えとした当たりくじの担当医。しかしその実態は、なんの事はない経験の浅いヘタレ医師だったのであるっ!!ただ、その医師としての腕前は院長も認めるほど。まだはずれと決め付けるには・・・ちょっと早いかもしれない。

 ―県営住宅、藤村家
なんだか久しぶりの部活を終えた僕は、自宅に帰ってきた。
「ただいま~!!」
母さんと佳昭が返事をする。
「あぁ・・・お帰り。」
「お兄ちゃんお帰り!」

部活中も気がかりで気がかりで・・・早く帰りたくてしょうがなかった!!

「お母さん、どうなった!?!?」
「え!?!?いや・・・え!?!?」
なんだ?この異常な慌てふためき方は・・・。僕が聞きたいのは・・・

「スズちゃんの事よ?」

一瞬動きが止まった母さんの顔は、何とも遠い昔の出来事を思い出しているかのようだった。
「あぁ・・・はいはい。あ・・・うん。そっちね。」
「うん、そっち。」
てか、他にどうかしたのか?まぁいいや。とにかく結果が気になる。
「えっとね・・・晃宏に言われた通り五反田川に放してあげたんやけどね。しばらくしても全然飛び立たんでね。悩んだけど、結局また連れて帰ってきちゃった・・・。」
「え!?失敗!?」
まぁよく考えたらそうだ!家の中で一度も飛び立たないのに、外に出た途端に飛んでいく訳がない。っと辺りを見渡すが、『らぁめんやマダ』のダンボール箱は見当たらない。佳昭が隠している様子も・・・ない。
「渡中さんに連絡したらね・・・わざわざ家まで来てくださって、しばらく渡中さんの家で預かって貰える事になったんよ。骨とかには異常ないから・・・もしかしたら神経とかを痛めちょるんかもしれん・・・って。」
「おぉ・・・そっか。」
どうも2転、3転する。結局、何かしらの異常はあったという事か。それならやっぱり保護して正解だった!・・・いやでも、ダンボールに入れたまま自転車漕いだし、その時に痛めた可能性も・・・。そんな事を考えていると、母さんがふと思い出した伝言を付け加える。
「あっ、そうだ。渡中さんがね、『晃宏君は悪くないから悩まんように~!』ってよ。」
「えっ・・・はい。了解です。」
うわっ・・・お見通しだ。

 昨日保護されてきたカワラヒワの幼鳥たちの事も聞いてみた。落下したときの後遺症で何羽かは・・・という話だったが、奇跡的に5羽とも無事だったそうだ!その話をする渡中さんは、何とも嬉しそうだったらしい。そんな愛情に溢れた名医が面倒を見てくれるのだから、スズちゃんにも元気に飛び立てる日が来るに違いない。

「当たりやなぁ、スズちゃんは。」

じいちゃんの病気を知らないこの頃の僕はまだ・・・ある意味で命を甘く見ていたのかもしれない。

99:昼休み

2011-12-30 09:10:24 | ★DAILYLIFE★(acco小説)
 2年生になって1ヶ月弱。新しいクラスにも違和感がなくなってきた。ただクラス分けは、かなりバラバラになってしまった印象だ。僕の周りによくいる人でいくと、1組に僕とウッチン。2組に真悟とおだちゃん。3組におっきー・・・あと明。4組にタツ。そして今年、僕たちソフトテニス部の顧問でもあり1年の時は僕の担任、ロシアンルーレット的扱いの阿東工事が担任することとなったのは・・・4組!!始業式で担任が発表された時のタツの表情は、この世の終わりが来たかのようだった。
 昼休み。口元にミートソースを付けたままのウッチンが、丸い身体を弾ませながらやって来た。
「いや~今日のスパゲッティも絶品やったね!ギャハ!」
クラスが一緒になった事もあって、最近はウッチンとよく話をする。一時期、ウッチンと仲があまりよくなかったのが嘘のようだ。
「今日もさぁ、朝あっくんギリに来るけ~さ。ほんとは朝イチで話したかったのに~。」
「お!何なに?それから口元・・・反対側、うん、ミートソース。」
ウッチンは僕と反対に、朝は意味も無く早くから学校にいるタイプ。その甲斐あってか色々な情報が集まるようで、ウッチンが耳に入れた情報を聞くのが、僕の最近の楽しみの一つでもある。
「まず!今日はこの話題は外せんやろ!昨日のランキング戦!ぎゃは!」
おぉ!昨日は夕方から色々あって忘れていた!そうか。胃腸炎のタツと、不参加の僕以外は昨日がランキング戦だった。
「前衛の2年一番手争いはどうなった!?ど~せまたオッキーとゴリラの一騎打ちでファイナルセットとかやろ!?」
やっぱりそこの対決が一番気になる!

「いや・・・それがオッキーのラブゲーム。ぎゃは・・・は。」

「・・・え?」
意外だった。オッキーの方が、確かに実力では上だから勝つのはわかるが、真悟もいつもなら体格を生かして結構ネバる。真悟が1ゲームも取れないとは・・・。
「俺もさぁ~よくわからんのやけど、おだちゃんが言うにはよ?オッキーは目つきが変わったとか。1月・・・くらいから?」
「そっか・・・1月。」
“バードウォッチングをやめようと思う。”“今の東岐波の1番になる!!”
ナベヅルミーティングの帰り道、あれだけ自分の思いを話してくれたんだ。気合の入り方が誰よりも上なのはよくわかる。きっと練習量もハンパではないのだろう。それに実力が伴ってきたということだろうか。
「まぁとりあえず、ゴリラはかなり悔しそうやった。今日も凹み気味なんじゃね??」
「なるほどね。聞いといてよかった。」
真悟には後から、昨日のスズちゃん事件を報告に行こうと思っていたが・・・またでいいかもしれない。・・・で、ついでに。
「そいや、後衛は?」

「ぎゃはははは!!!!」

「うわっ!何!?」
うっちんの表情からして・・・今の笑いは「よくぞ聞いてくれました!!!!」という所か。

「俺1番手。」

「・・・すご!!!!」
いや、これは本当に凄い事なのだ!!そもそも、後衛は走らされる事が多く、ウッチンのようなぽっちゃり体型には向いてすらいない。勝てる理屈がわからない!
「ぎゃは~!俺さ!必殺技!“ローリングボール”生み出してさ!!」
「へ~!ローリングって事は、球がバウンドせんで転がるとか!?無敵じゃん!!」
「ぎゃは!違う違う!球じゃなくて俺が。」
ボール=ウッチンか。

「・・・え!?移動法!?」

 この日のウッチン情報はもう1つあった。ついにあいつが、学校に復帰したというのだ!これは一応・・・会いに行っておいた方がよさそうだ。ということで僕は早速、4組へと向かう。教室に入ると・・・ほんとにいた!落ち着きのないあいつが、昼休みだというのに静かに席に座っているのは見慣れない光景だ。病み上がりだからしょうがないのか。普段の元気は腹立つが、これはこれで・・・。
「タツ~。」
振り返るタツ。1週間の入院と、さらに1週間の自宅療養。病気で痩せたかと思いきや、しばらく運動してないせいで、逆にちょっと太ったように見える。
「おっほ!!出た~!!もっとはよ来い~や!!」
あれ?・・・元気だ。なんか僕のイメージと違う。さらにタツが続ける。
「俺さ。みんなが『タツぅ大丈夫??』って心配しに来てくれる感じ好きなそっちゃね!」
あ~それで大人しく席に・・・。
「でさ、お前はその7人目!!ちょっと遅くね!?一応テニスのペアなんやけ~さ!!そういう思いやりとか大事なんじゃないん!?」
こいつ・・・心配して損した。実際タツの登校をさっき知ったばっかり・・・なんて言ったら逆に文句言い出すな。で、そう!テニスで僕の有難味を思い知れ!
「そうそう!!昨日ランキング戦あったんよ。」
「・・・え?そうなん??じゃぁもう俺とあっくんって・・・」
よし、形勢逆転。
「まぁ僕もランキング戦不参加したけ!まだタツとペアやけどね。」
「お~!!やるじゃん!!まぁ当たり前か。」
「・・・。てか、テニスはいつから復帰?」
僕もそろそろ、ペアで試合形式の練習がしたい。
「う~ん。明日って午後から練習やっけ?明日の午前中に病院行くけぇね~。許可出たら明日の練習から行ける・・・かもね!」
「お~。頑張って許可貰って。」
このゴールデンウィーク、部活は楽なようなキツいような。明日火曜日は午後から練習。水曜日、木曜日、ここで2連休!金曜日学校で・・・土日は通常の午前中練習。という訳で水曜日、木曜日の有効活用が大切なのだが、今のところ予定がない。
「タツ、水木って暇なん?」
「いや、家族で旅行。ゴールデンウィーク外してくる辺りがね!空気読めるよね、胃腸炎。」

 ふ~む・・・。やっぱり、ゴールデンウィークのど真ん中に暇な奴なんてなかなかいないか。そんな事を考えながら教室に戻る途中だった。向かい側から背の高いゴリラ顔が歩いてくる。はっ!こんなときに!でもこうなると無視するのもおかしい。かなり凹んでそうだがこっちは元気に、いや、ユーモアたっぷりに話かけよう!
「お~!ゴリラ!最近どう?ドラミングの調子は?」

「うほぉ~!絶好調だぜ~!!」

ノリノリで胸を叩く真悟。圧倒的な迫力!
「ってゴリラも元気なんかい!!」
むしろ、普段よりノリいいぞ!
「ゴリラ“も”ってどういう意味?まぁいいや。ちょ~どあっくんに話があったんよ。木曜日って暇?」
なんてタイミング。
「うん。めちゃくちゃ暇。」
「よかった~。自然観察パークでさ、お祭りがあるんよ。」
「お祭り?」
「うん。毎年、子どもの日にあるんやけどさ。その年ごとにイベントがあるんよね~。今年は何やるんやろ?昨日あっくんに言おうと思ったら、ランキング戦来んかったけびっくりしたわぁ。」
ドキっとした。まさか自分からランキング戦の話を持ち出すとは・・・。
「あ~ごめん。ゴリラ・・・また2番手らしいやん。凄いね!」

・・・何言ってんだ~自分!!わざわざ番手の話に触れる必要なかったのに!!

しかし、真悟は笑って答える。
「いや~全然!オッキーが強すぎでさ!セットどころか、ほとんどポイントすら取れんかったけ~ね!」
・・・もしかして、意外と気にしてないのか?いやでも、そんな訳・・・。
「僕はさ!昨日も観察パーク行って来たんよ!まずね、原口さんがタマシギ見に行くとか言い出してさ・・・」
僕はこの後真悟に対して、昨日あった出来事を話しまくった。シオマネキの話、スズちゃんの話、カワラヒワの話、守田さんの話・・・。真悟はそれを聞き終わるまでずっと笑顔のままだった。
「あっくん・・・バードウォッチングの知識も増えたし・・・成長したよね。」
「・・・お!?そう!?」
「うん・・・


俺と違って。」


「ゴリラ、何か言った?」

「いんや~なんも~。うほぉ~。」 

 ―その頃、真中(まんなか)総合病院
僕たちの校区と、隣の校区の境目くらいにある比較的大きな総合病院が、真中総合病院である。ここの待合室で、深刻そうな顔をして待っている女性が一人。藤村もとこ・・・




僕の母さんだ。

98:軽鴨(カルガモ)~後編~

2011-12-30 03:57:33 | ★DAILYLIFE★(acco小説)
 僕は、県営住宅への近道となる林の急斜面を駆け上がる。五反田川との行き来にはやっぱりここ。元々近いのに更に近くなる近道だ。少しでも早く小学校に電話をかけ、おだちゃん、明の元に戻らなければならない。
「ただいま!!」
ものの3分で帰宅。よっしゃ!運のいいことに、母さんは揚げ物を揚げている。これは手が離せない。案外やっかいだったりする佳昭は・・・早めの風呂だ!
「晃宏!あんたね!5時には帰って来なさいっていつも言うじゃろ!」
台所で、すでに母さんはお怒りのようだがそんなのは関係ない。僕は財布から10円を何枚かつかむ。さて・・・
「ごめんごめん。でも今日は違うんよ。色々あってさ・・・行ってきます!」
「今夜は天ぷら・・・って、え?行ってきます?ちょっと・・・晃宏!!」
う~っ!捕まる前に逃げなければならない。急いで靴を履いて玄関を開ける。そして階段を下りながら、油のパチパチにも勝てるようなるべく大声で。
「ほんとごめ~ん!!あと30分!!」
こうして電話班は軽々と最初の関門をクリア!公衆電話へと向かう。

 ―五反田川、捕獲班
こちらでも、作戦が実行に移されようとしていた。
「じゃ頼んだぞ!おだちゃん。」
「・・・おぅ~ぃ。」
明はおだちゃんの爺臭い返事に若干の不安を抱きながらも、作戦通りカルガモを刺激しない距離をとって川に入る。それを確認したおだちゃんも、同じくカルガモを挟んで反対側から川へ。
「ぅおりゃ~!!」
おだちゃんが捕獲する作戦とはいえ、明が捕まえられるならそれでいい。鯉のリベンジにも燃える明は、予想通りの存在感でカルガモを捕まえにかかる!しかし、カルガモも負けちゃいない!腕を負傷していても、自慢の水掻きに支障はない。鯉ほどの速さはないものの、水の中を走る人間から逃げるには十分だ。明とカルガモとの距離は、縮まるどころか離されていく。
「あ~くそっ!おだちゃん!いったぞ!・・・あら?・・・いや、でも・・・これでいいんか。」
明の困惑の表情はすぐに笑みに変わった。

カルガモがグングン逃げていくその先に、おだちゃんの姿はなかったから。

―県営住宅、電話班
“プルルルル・・・プルルルル・・・"
その頃、僕は公衆電話ボックスに到着し、小学校に電話をかけている所だった。山田さんじゃないから公衆電話に詳しくはないが、緑色の、一般的な電話ボックスだと思う。さて。まだ先生はギリギリ残っている時間だが、誰が電話に出るかは案外重要な事だ。そういう意味で、この時の僕は幸運だったと思う。
『はい、もしもし。東岐波小学校、若友(わかとも)です。』
「あっ!若友先生!?えっと・・・藤村ですけど!」
たまたま電話に出たのは、若友こみえ先生。何を隠そう5年2組、この時の僕のクラスの担任である。見た感じ40才くらいで、先生の子どもも僕たちと同世代らしいから、それもあるのだろう。若若しく、ユーモアもある先生でとても接しやすい。先生というより友達感覚だ。当時は気づかなかったが・・・なんとそれっぽい苗字の持ち主であろう。僕は率直に質問をぶつける。
「先生!怪我したカルガモ捕まえた時ってどうすればいいん?」
突然こんな質問をされて、色々と疑問が浮かぶ先生の気持ちはわかる。
『あのさぁ藤村君・・・もうちょっと詳しく説明してくれる?』
正直、こっちとしては保護してくれる施設の連絡先なんかがさっさとわかればいいのだが・・・まぁこれくらいは想定済みだ。とりあえず手っ取り早くカルガモが怪我してしまった経緯を説明する。ただし、まだカルガモが捕っているかはわからないが、それを言うとややこしくなるから、カルガモはもう捕まった事にする。
『ほんとあんた達はいっつも危ない事ばっかりしよるね!もうとっくに家に帰る時間じゃろうがね!』
「そんなことより先生!僕たちはね、怪我したカルガモを助けてあげたいんよ!?」
なるべく先生の良心に訴えかける。もう捕まえたものはしょうがないと思ったのか、先生もしぶしぶ調べてくれた。
『もしもし・・・そういう怪我した野生動物はね、保護施設や市役所にもって行くものなんだって。この辺りだと・・・一番近いのは永久(とわ)公園じゃね~。』
「お~、先生ないす!」
永久公園。公園と動物園と遊園地を全部ひっつけてみたら、どれも中途半端になってしまった感のある公園だ。とはいっても、市民にとっては馴染みの深い公園で、公園部分の中心にある永久湖には、多くのハクチョウたちが飼われている。誰だって小さい頃にはそのハクチョウに餌をあげた経験がある。公園部分にはちゃんとジェットコースターもあり、あれ乗って気絶したタツが妹に揺すり起こされたという話は有名な実話である。動物園部分はなんとも言えない動物臭に溢れ、真悟はそこで生まれたという話もまた有名な実話である。という感じで、まぁ何だかんだ市民に愛されているのは間違いない。
「ありがと先生!じゃぁまた明日。」
『小村君と下田君と、なるべく早く帰りなさいよ!気をつけて!いいかね!?』
「・・・わかってます!」
よっしゃ!電話班は見事にミッション達成!

 ―五反田川、捕獲班
「おぉ・・・明・・・あっくん戻ってきたよ。」
「ほんとや!こっちこっち!」
捕獲班のミッションの結果は聞かずともわかった。

カルガモはおだちゃんの両手でがっしりと捕獲されている!!

「お~!やったね!凄いやん!」
「へへ・・・なんでかわからんけど・・・また俺に突っ込んできたけ~さ。」
“グワグワ・・・グワグワ・・・”
うむ。近くで見ると結構大きい。そして顔は結構可愛い。
「で、あっくんの方は?」
“グワグワ・・・グワグワ・・・”
「・・・あぁ、永久公園に連れていけばいいんだってさ。」
“グワグワ・・・グワグワ・・・”
「ほ~。で、誰がこいつ持って帰る?」
明の質問に、自主的には誰の手も上がらない。
“グワグワ・・・グワグワ・・・”
「ところでさ、このグワグワはずっとなん?」
「うん。捕まえたときから。」
“グワグワ・・・グワグワ・・・”
「・・・結構、気になるね。」
「・・・じゃんけん?」
“グワグワ・・・グワグワ・・・”
「賛成。」
「・・・俺も。」

「じゃーんけーん・・・ポン!!」

ツルの発表の時もそうだったが、こういう勝負事のじゃんけんに僕はめっぽう弱い。

 ―現代、5月2日(月)
「あ~、今日から学校かぁ!」
「何を言いよるんかね!今日1日行ったらゴールデンウィークでまた3日間休みじゃろ!」
「あっ!そっか!らっき!」
時計は8時10分を指そうとしている。父さんは仕事へ、佳暁もとっくに小学校に向かった。僕もそろそろ家を出ねば危ない。
「そういえば昨日の話の続きやけどさ、あのカルガモって僕が持って帰ってきて・・・どうなったんやっけ?」
母さんの表情が明らかに曇る。
「そりゃびっくりしたいね!永久公園に電話かけたら『明日にしていただけますか~?』とか言われて・・・。大きいダンボール箱に入れてあげたのはいいけど一晩中グワグワ・・・グワグワ・・・。気になって気になって!」
「ははは・・・。」
「で、お母さんがしょうがないから、次の日に車で永久公園まで連れていったんよ。あっ!対応してくれた年配の飼育員さんがかわった名前でね!今でも覚えちょるよ!煮干さん!」
「へ~。」
かなりどうでもいい情報・・・。それに比べると・・・

今現在僕の左手の上にいるスズちゃんはなんといい子だった事か!!

「スズちゃんさ・・・どこに放鳥するん?」
「渡中さんは、スズメが多い場所がいいって。すぐに群の仲間になれるように。晃宏、どこかいい場所ある?」
「う~ん・・・五反田川かな。昨日から話に出まくりやし。」
「確かに・・・スズメは多いね。じゃぁ・・・そうしようかな。午後からも用事あるのに、今日1日忙しくなりそ。」
「何の用事?」
「いや、大したことじゃないけど・・・。」
「ふ~ん・・・。」

 っと、外から叫び声が聞こえる。
「あっく~ん!!まだ~!?急げ!!」
明の声だ!って時計を見ると、8時20分前!?やばい!スズちゃんに夢中になり過ぎた!スズちゃんをダンボールに降ろし、窓から叫び返す。
「すぐ出る!!」
急いでリュックをかるって靴を履く。これでスズちゃんともお別れだ。こっちの勝手で保護しておきながら、放鳥まで面倒を見られないのはなんと無責任だと思う。でも母さんも、こういう事に関しては無責任な事をする人じゃない。
「じゃぁ行ってきます。スズちゃんの事・・・よろしくね。」
「うん。任せなさい!」
階段を駆け下りる。
「急ぐぞ・・・あっくん!」
あれ?明と・・・おだちゃん。
「おだちゃん、さっき窓から僕が顔出した時おったっけ?」
「おったし・・・失礼な。」

「・・・そっか。」

草むらにいたカルガモ。警戒してなかった訳じゃないんだ!この推理なら、あの転げ落ちるほどの驚きようも説明がつく。

 学校へ全力疾走しながら気づいた。あのときのカルガモには、自分に気づかず通り過ぎるであろう位置を歩く、明と僕の姿しか見えていなかったのではないかという事に。

97:軽鴨(カルガモ)~前編~

2011-12-16 22:08:32 | ★DAILYLIFE★(acco小説)
 学校が終わってからの時間だから、平日の遊ぶ時間なんてのは2時間程度である。ただ、あの頃は1日を遊びきっていた。実際の時間に対して、何倍もの充実感を得ていた気がする。この日もそんな充実感を胸に、“鯉バナ”に花咲かせながら五反田川沿いに帰宅していた時だった。
「やっぱ、今日のおだちゃんは凄かったね!」
「うん!まさかほんとに素手で鯉を捕まえるとは!」
僕と明にベタ褒めされ、地味に照れまくるおだちゃん。釣りテンションはもう抜けている。
「いやぁ~・・・まぁ・・・たまたま、たまたま。・・・!?うわっ!!!」

 事件は起こった。

“ゴトゴトゴト!!!・・・ボチャン!!”

一番川側にいたおだちゃんが、足を滑らせ川のサイドの急斜面な草むらを転がって水の中に落下した・・・のではなかった!!おだちゃんは隣にいる!もちろん明も。じゃぁ転がり落ちたのは・・・??・・・なんと!カモではないか!そのカモさん。水の上を泳ぎながらも、お尻を何度もブルブルと振るい、しきりに方向転換したりと、一瞬の出来事に動揺は隠せない様子である。そしてそれは、こちらの3人も同じだ。
「え~!!何!?何!?」
「なんかね・・・あのカモ、ここの草むらで休み中やったみたいなんやけどね・・・俺以上にカモはびっくりして落下したらしい・・・へへ。」
状況が理解できると、カモが草むらでここまで無警戒に休んでいた事と、あの驚いたときの完璧なリアクションを思い出して、僕たち3人は笑いに包まれた。落下したのがおだちゃんじゃなくて、笑い話で済んでよかった。
 一方のカモは、まだ少し慌てた様子で水の上を行ったり来たりしている。全体的に茶色い地味な色合いだ。ただ、くちばしの先端の方だけ黄色くてよく目立つ。この頃はまだバードウォッチングを始めていないが、日本人なら常識・・・みたいなものだと思う。
「多分やけど、カルガモじゃないかね?」
おだちゃんも僕の意見に同意する。
「うん。なんか・・・ニュースとかでよく見るやつよね。」
「へ~!何て?カルガモ?2人とも詳しいの~。」
言っては悪いが明は昔から・・・馬鹿だ。でも、そんな明がこの時ばかりは重大な発見をしたのだった。

「あれ!?あいつ羽おかしくね?」

「・・・うわっ!ほんと!」
転げ落ちたときにぶつけて、骨折でもしてしまったのだろうか?右の羽が上手く折りたためず、少し浮いたような状態になっているのだ!!僕たちが近くにいるのに、全然飛んで逃げないなとは思っていた。
「そっか・・・飛んで逃げられんのやね・・・。」
川の両サイドには、コンクリートの壁がある。
「これもし俺らが見捨てたらさ・・・あいつ一生、五反田川から出られんのじゃね?」
っと、心配そうに明。
「それは・・・まずいね。ちょっとは俺らにも・・・責任がね・・・あるやろ。」
っと、不安そうにおだちゃん。そして3人同時の
「・・・どうしよ。」
じっとカルガモを眺めながら、しばらく3人とも喋らなかった。しかし、思い切った事を言い出したのは明だった。

「よっしゃ!!助けようぜ!!俺たちだけで!!!」

「でも明・・・もし捕まえられたとしてもさぁ・・・その後はどうしたらいいかわからんじゃん。」
「それは・・・えっと・・・そう!小学校!小学校に電話して聞いてみようや!」
「でも明・・・それって・・・俺たちだけじゃ・・・なくね?」
「あっ・・・まぁ、親の助けは無しって意味って!」
おだちゃんの的確な指摘と、明のその場しのぎ2連発。でも・・・

ちょっと面白そうだと思った!

「やってみようか!」
もうとっくに帰りの時間は過ぎているが、僕は明の提案に乗ってみることにした。

 どうせ助けてあげないと、あのカルガモに未来はないんだ。そうと決まれば作戦会議である。
「また川に入って、3人で手で捕まえたらいいんじゃない?」
「でもさ・・・さすがに・・・厳しくないかね?羽ばたつかせて・・・抵抗とかされそうやし。」
「川の幅も結構広いしな~。泳ぐのも・・・結構速そうよ。」
「ん~!!じゃぁどうするん!?!?」
なぜか提案した明が、一番追い込まれている様子。羽を怪我をしているとはいえ、小学5年生3人でカモを一羽捕まえようなんて、無理がある気がする。でも、この時の僕だからこそ、無理じゃないかもしれない方法を思いついたのだ!

「おだちゃん、明。・・・できるかもよ!」

「マジかあっくん!どうやるん!?」
僕はおだちゃんを勢いよく指差す。
「おだちゃん・・・もう一回さっきのやつ出来る?」
「・・・ほ?」
そう!さっきの鯉を捕まえた時と全く同じことをするのである!小5の僕が考えた作戦の詳細はこうだ。まず、捕獲班に下田と小村。明は馬鹿だが、運よく存在感を、そしておだちゃんは、存在感を消すという類まれな能力を持っている。捕獲班のプランは至ってシンプルだ。明とおだちゃんがカルガモを真ん中に挟むように川に入る。明が少しずつカルガモに寄っていく。そうするとカルガモは反対側に泳いで逃げるが、あら不思議!気づいた時にカルガモは、おだちゃんの手の中だ。次に、もはや班でもないが電話班に藤村。僕はまず、小銭をとりに家へ戻る。家にいるであろう母さんには、この作戦の事は内緒である。すぐに家を出て、僕は県営住宅に設置されている公衆電話に向かう。なんと優秀な僕は、小学校の電話番号を暗記している。ここで小学校に電話。怪我した野鳥を捕まえたときのアドバイスを貰う。
「よし!それでいこう!うぉ~!燃えてきたよ!」
一番仕事のない明の気合が凄い。
「おれも・・・出来るかわからんけど・・・頑張ってみる。」
おだちゃんは・・・変に気合を入れず自然体のほうがいいかもしれない。
「じゃぁ2人とも頑張ってね!」
ここから僕は別行動。
「おう!あっくんもミスんなよ。」

成功のカギは、8割がたおだちゃんにあると言ってもいいこの計画。果たして・・・!!後編に続く!!

96:予感と存在感

2011-11-16 02:01:59 | ★DAILYLIFE★(acco小説)
 先のいろいろで、観察パークで話し合いをする時間がなくなった原口さんと守田さんは、近くのファミレスに座っている。この2人、特に原口さんは居酒屋なんかの方が似合うが、飲酒運転は出来ないから仕方がない。『いちごパフェ』の守田さんが、『なんこつから揚げ』の原口さんに原稿を手渡す。
「今週の『野鳥の楽園ダヨ!伊豆背自然観察パーク!』、まだサブタイトルと~、内容は少ししか決まってないんだケドモ。」
「ん?何?『ゴールデンウィークダヨ!年に一度のお祭り開催!』か。そ~いえば、藤村兄弟に祭りの話を言い忘れたのぉ・・・。ま、部活の都合もあろうし・・・植村君もおるから大丈夫か。」
今さらな説明ではあるが、今日は5月1日の日曜日。明日、2日は平日で学校なんかもあるが、3日からは子どもも大人も泣いて喜ぶゴールデンウィークが到来するのだ!!実際の所、平日は月曜日と金曜日になる訳だから、この土日からゴールデンウィークが始まっていたと言うことも出来るかもしれない。パフェをちょくちょく挟みつつ、原口さんに記事の内容について質問する守田さん。原口さんも同じくなんこつを挟みながら、それに1つ1つ答える。
「えっと、じゃ最後に・・・このゴールデンウィーク、自然観察パークで観察するのにオススメの野鳥があれば。」
原口さんは即答する。

「シギ・チ。」

「あら?今年は随分遅いノネ。」
「おぉ。かなり遅いの。わしの見立てでは、このゴールデンウィークがピークじゃな。」
シギ・チとは、シギ類とチドリ類をまとめた言い方で、どちらの種も、多くは春と秋の渡りのシーズンに全国の干潟や水田に立ち寄る旅鳥で、クサシギのように冬鳥のものや、イソシギのように夏鳥、留鳥のものは珍しい。シギ・チドリは、生活環境や体系が似ているが、チドリ目シギ科とチドリ目チドリ科として分けられており、くちばしの長さ、足の長さなんかに違いがある。とにかく伊豆背自然観察パーク自体、渡り鳥が多くやってくることを謳った施設だから、観察するにはメインの種であると言えよう。
「了解~ット。それじゃそんな感じで記事にしとくわネ。ふぅ~。あっ・・・ところで原口さん。ちょっと同僚から、小耳に挟んだ話があるんだケド。」
「・・・なんか?」
守田さんの言いづらそうな表情から、原口さんも不安そうにせかす。

「今、県庁で、『県の公共施設、運営と一部見直しについて』って会議が行なわれてて・・・そこに観察パークの名前も上がってるとか・・・上がってない・・・トカ。」

「いや・・・初耳じゃ。」
「大丈夫だとは思うんだけど・・・私の担当コーナーがなくなるような事態にはならない・・・ヨネ?」
「そんな馬鹿な事言うやつがあるか!」
そうは言われても、明らかに不安気な守田さん。一方、この話を聞いた原口さんの言葉は、ただの強がりという訳ではなかった。確かにお客さんが多い施設とは言えない。でもそれ以上に、伊豆背自然観察パークには、伊豆背博の会場の片隅に残されたヨシ原や干潟、そこに住む生物を守るという使命があると信じているからだ。・・・ただ、ふと嫌な予感がしたのも事実だった。

「ところで・・・突然話を変えて悪いんじゃがのぉ・・・。さっきの過呼吸はなんじゃったんじゃ?」

「そ、その事には・・・ふっ、触れないで・・・はふっ、ハフッ。」

 ―藤村家
「あら~!可愛いわ~!これは・・・スズメ?」
「お~!お父さん凄い!正解や!」
凄くない!幼稚園児でも見ればわかる。ダンボール箱の前から離れないのは、仕事から帰ってきた父さんと佳昭だ。僕と母さんは、そんな2人を食卓から眺めている。父さんはスズメを言い当て大喜び。
「あれ!?当たり!?やったぁ~!佳昭、お父さんは何見ても全部スズメに見えるからね。へっへっひっひ!!」
あの気持ち悪い笑い方が、スズちゃんのストレスにならないか心配だ・・・。
「お~!お父さんダサい!」
 母さんによると、スズちゃんがウチにいるのは今夜だけらしい。結局どこも怪我してなかったのだから当たり前だが、渡中さんから、明日自然に帰す許可が出たのだ。どうせならせっかく保護したんだから、最後まで藤村家で・・・という渡中さんの計らいだそうだ。とは言っても、保護した本人は明日学校があるから、自然に帰すのは母さんの役目となる。それにしても・・・あんな殺風景なダンボールの中でスズちゃんを一晩過ごさせて、大丈夫なのだろうか!
「ねぇねぇ、母さん。スズちゃんさ、ほんとにあれで一晩大丈夫なん!?うちってミルワームないやん!?渡中さんの受け売りやけどさ、一晩とはいえ命を預かるんやけ責任あるんよ!?」

「その渡中さんに許可もらったんでしょ。」

「・・・おっしゃる通り。」
「ミルワームもさっき渡中さんが、食べさせてくれちゃったから。一晩なら大丈夫ってよ。ちょっとは落ち着きなさい・・・。」
・・・反論は特にない。落ち着くことにする。
「しっかしね。まさかペット禁止の県営住宅でさ、一晩鳥を飼う日が来るとはね。」

「前にもあった~ね。」

母さんのさらっとした反論が、僕には理解できない。
「え?」
母さんは信じられないといった顔である。
「あんた・・・忘れたとは言わせんよ?あの時は、スズちゃんよりよっぽど厄介じゃった~ね!大きいし、夜中ずっとグワグワ鳴くし・・・。」
・・・グワグワ??・・・おぉ!!あ~あれか!!なんか一気に思い出した!!成る程。あれの後と思えば、母さんの落ち着きも納得出来る。あれは確か・・・僕が小5の秋の出来事だ!!

 ―3年前、秋
「絶対捕まえるけ!」
藤村晃宏、下田明、小村雅之の3人は、すでに冷たい11月の五反田川の中に足を浸けて身構えている。なぜだかこの3人、鯉を素手で捕まえるというミッションに、こんなシーズン外れで挑戦中なのだ。一番先頭、僕の手が伸びるギリギリのところで、鯉の群は身をくねらせる。簡単に突破を許してしまった!
「ごめん!明!頼んだ!」
「任せろ!・・・こい!」
鯉だけに。3人の中では、1番運動神経のある明。正直、さらに後ろで待つ骨のような体のおだちゃんでは望みが薄い!

ここが勝負!

「おりゃ!!!・・・あ~くそっ!!」
明をもってしても!やはり鯉の水中での能力に、人間は到底及ばないということなのか・・・っ!!いや、まだ終わってはいない!
「おだちゃん!!・・・ってあれ?」
いるはずのおだちゃんがいない!いや・・・一瞬いない気がしたというのが正しい。次の瞬間!

驚いたことに、おだちゃんは大きな鯉を両手に抱えて本来の立ち位置に立っていたのだ!!

おだちゃんはミッション達成に、釣りテンション気味でこちらに叫ぶ。
「お~~い!!あっく~ん!明~!捕まえた!なんか・・・普通に鯉の方から突進してきたぞ~!!」
僕は明に駆け寄る。おだちゃんには悪いが、目の異常が気になって鯉どころじゃない。
「僕・・・今ね。一瞬おだちゃんが見えんかったんやけど。」
「あっくんも!?俺も・・・なんやけど。」
「明も!?てことは・・・おだちゃんほんとに・・・。」
僕と明はなんだか急に恐ろしくなって、元々ちょっと離れた所で、暴れる鯉を離すまいと格闘するおだちゃんから、さらに後ずさりする。しかしここで、普段はひらめかない明がひらめいた。
「ひらめいた!おだちゃんさ、ただ存在感ないだけやろ!鯉にもおだちゃんが見えてなくて、そのまま突進してきたんじゃないかね?」
「う~ん、確かに存在感ないね。それあるかもね!」
そんな不名誉な疑惑をかけられたおだちゃんが、悲痛な叫びを上げる。
「お~い2人とも~!ちょっと早く助けにきてくれ~い!」
鯉のバタつきで、おだちゃんの腕ならすぐにポキっといきそうだ。
「助けに行こうか。」
「やね。」

 現在では当たり前となった性質だが、おだちゃんの存在感のなさを初めて痛感したこの日の帰り道。カワセミ死体事件から1年の月日を経て、ここ五反田川で、鳥に関わる第2の事件が巻き起こる事となるのだった・・・。

95:一途

2011-11-15 01:02:38 | ★DAILYLIFE★(acco小説)
 ・・・西南西新聞?聞き覚えがあるような・・・ってそうだ!九黒ナベヅルミーティングの時!参加していた砂井あゆみさんが、東南新聞の記者だった!会話無いのつらいし、ちょっと聞いてみよっと。
「この西南西新聞っていうのは、東南新聞とも何か関係あるんですか?」
「あら!?いい質問ジャナ~イ?」
守田さん・・・驚いた時の口の塞ぎ方まで微妙におしとやか。そして・・・関係大有りらしい。大元は方角新聞社という地方紙の新聞社だったのが、今では、それぞれの方角に分かれて県内の地方紙を発行しているそうだ。九黒町あたりは東南新聞、伊豆背町あたりは東南東新聞という訳だ。それはいいんだけども、特別大きな県じゃないんだから。

せいぜい8方位でよかったと思う。

僕は、そういえば手に持ったままだった守田さんの名刺を、財布にしまう。
「新聞記者の人って、みんな子どもにも名刺渡すんですか?前に知り合いになった人にも貰ったんですけど。」
「う~ん?まぁなるべく渡すケド。・・・って。藤村ちゃんさっき・・・東南新聞って言ったカシラ?もしかして名刺くれたのも東南新聞の人なんて言わないでしょうネ?」
なんだ!?キリリとした目でこちらを睨む守田さん。こりゃなんかあるぞ・・・。答えが答えなだけに非常に怖い。
「えっと・・・いや・・・東南新聞の人です。あゆみちゃんっていうんですけど!」
なるべく笑顔で答えてみた。
「・・・。」
あれ?守田さん、反応がない。というか、口が半開きで固まっている。
「守田さん?」
「・・・はふっ、はっ、はフッ!」

過呼吸!?!?!?

「え~!ちょっ・・・!大丈夫ですか!?守田さん!?」
「はふっ・・・ハハ。何・・・とかね。まさか・・・ほっ、本当にあの人の名前が出てくるとは・・・思わなかったノヨ。」
「え!?守田さんも知り合いですか!?」
そりゃまぁ系列会社だもんな。知り合いでもおかしくない。ただ普通の知り合いなら、名前を聞いただけで過呼吸は起こさないだろうけど。
「知り合いも何も・・・今から話す事は絶!対!誰にも内緒ヨ?」
「はい。・・・場合によりますけど。」
つばを飲む。

「あゆみちゃんは、私の初恋の人ナノ!!」

「・・・ぁ。」
・・・踏み込んではいけない領域だった気がする。

 ―観察パークロビー
僕が事務室でこんな状態の頃、ロビーでは母さんと渡中さんがカワラヒワのヒナを見ながら話をしていた。原口さんを呼びに行った人がこんな状態だから、いつまでも事務室に原口さんがこないはずである。話はちょうど佳境辺りだ。
「かなり高い所から巣ごと落下してますからね~。この中の何羽が明日まで生きておられるかね~・・・。」
「そうなんですか。・・・厳しい世界ですね。」
っとここで佳昭登場。トイレにでも行っていたのだろう。すぐに母さんが呼ぶ。
「佳昭~。おいで。カワラヒワのヒナって。かわいいけ見せてもらわんかね?」
「お~。かわいいね!でもお母さん。そろそろ帰った方がいいんじゃない?」
佳昭はなんと冷静である。普段からお客さん少ないから実感が沸きにくいが、よく考えたらとっくに閉園しているのだ。
「そうじゃね。そろそろ帰らせてもらおうか。晃宏も迷惑かけまして・・・こんな遅い時間まですいませんでした。」
「いえいえ、全然問題ないですよ。佳昭君も、また来てね。」
「・・・はい。さようなら。」
池に挟まれたビジターセンターから駐車場までの道を、歩く2人。
「お母さん、今日はね!原口さんの車でカニを見に行ったんやけどね、運転がね!凄いんよ!」
「そうかね・・・。カニの感想が聞きたいかな。」
っとビジターセンターの入り口から、渡中さんが2人を呼びとめた。

「お母さ~ん!!ちょっと忘れ物です~!!」

しょうがなく、小走りで戻る2人
「何かねぇ?佳昭、何か忘れた?」
「ううん。・・・わかった!お兄ちゃん!?」
「あ~でも。あれは自分の自転車じゃ~ね。」
この兄弟での扱いの差が・・・時々本気で嫌になる。

 ―観察パーク事務室
再び。さて、こちらは守田さんの初恋相手が、まさかの砂井あゆみちゃんだった場面からである。てことは!あっち系風だけどあっち系じゃなくてこっち系って事か?いや、そういう系もあるのか?どっち系?駄目だ。知識不足。
「あれはネ。中学生の頃の事ヨ。あのあどけない笑顔とちょっとうっかりな性格!いわゆる一目惚れネ!」
聞いてもないのに話し始めたぞ。てか笑顔はわかるけど、性格まで気にしたら一目惚れとは違おう。
「しかし、思いを伝えることが出来ないまま卒業!別々の高校、私は二浪で別の大学と、あっという間に月日が流れたノヨ!」
うわ~!よくありそうな話!でも、中学生の僕にはわからないが、実際には多分あんまりない話!で、守田さんの二浪の話はここで関係ないやろ!
「そして大学4年の就活が始まる頃、先に大学を卒業した彼女が、方角新聞社に入社したと噂で聞いたノ!」
ごめん二浪の話関係あった!
「運よく文系に進んでいた私は、その話を聞いて方角新聞社の入社試験を受けることを決意!そして無事に合格!」
「お~。おめでとうございます。」
何気この段落で、僕が気持ちを声にしたの初だ。
「ついに再会の時!私はそう思ったノヨ!しかし!悲劇は起きた。」
「え?」

「16方位に分かれたノ。」

うわ~!!!ここでか!!!
「そういう訳で、中学校の卒業式から一度も再会できてないノヨ・・・。それにしても、中学の頃からずっと片思いなんて・・・相手は私の事覚えてるかもわからないのに・・・可笑しいでショ?」
「そんな事は・・・ないと思いますよ。」
確かに面白半分で聞いていたし、守田さんは色々と可笑しくなくもないが、とても素直で一途ないい人でもあるようだ。なんだかちょっとかわいそうな気もしてきた。
「そぉ~かぁ~。藤村君は会えたのネェ~。いいなぁ~。藤村君から見てどうだった!?」
どうって・・・。こういうの恥ずかしいし焦るな。でも、きちんと答えてあげないと失礼だ。
「う~ん・・・一泊二日だけの感想ですけど。今もちょっとうっかりな所はかわってなくて・・・でも仕事には一生懸命で・・・。」
あとは・・・そうだ!

「“自然なままを記事に”出来る人です。」

「・・・。」
・・・あれ?また口が半開きで・・・。
「一泊・・・一泊・・・。・・・はふっ、ハフッ。」
また過呼吸!?!?
「守田さん考えて!まだ僕中学生ですから!」
そして事務室のドアが開き、原口さんが入ってくる。
「お~い。なんか守田が来たとか、渡中さんから聞いたんじゃがぁ~。」

「遅かったですね!やけに!」

 ―県営住宅
「はぁ~。」
辺りはもう真っ暗だ。やっと帰って来た。階段を登る足がやけに重たい。思えば今日一日で、色々な事があった。守田さん、スズちゃん・・・カニを見に行ったのなんて本当に今日の出来事だろうか・・・。家の扉に手をかける。さて、今日はもうゆっくり休むとしよう。
「ただいまぁ~。・・・ってあれ?」
玄関の隅に、見覚えのあるダンボール箱。
「あら、晃宏おかえり。疲れたじゃろ。」
「うんまぁ・・・で母さん。このダンボール箱って・・・。」
「あぁ・・・それね・・・。」
よく見ると、箱の隅にボールペンで小さくメモがある。『らぁめんやマダ』。その文字が僕の予感を確信に変える。焦ってふたを開ける。・・・やっぱりか。

「スズちゃん!?え!?なんでウチに!?」

「色々あって、渡中さんがね・・・。」
“チュン”
スズちゃんは、僕の顔を見て小さな声で鳴いた。何気に鳴き声を聞いたのは、これが初めてだ。

94:幼鳥~瓦鶸(カワラヒワ)~

2011-09-08 23:45:16 | ★DAILYLIFE★(acco小説)
 カワラヒワ。一般的にはあまり聞きなれない名前の野鳥かもしれないが、僕の図鑑でも『身近な野鳥』に分類されていて、案外どこにでもいる鳥だ。大きさはスズメと同じくらいで、飛んでいるときは、羽の緑と黄色のコントラストが映える。アトリ科に属しており、ここの科の鳥は皆、真ん中が凹んだ尾羽の形と、なんといっても、図体の割に巨大なくちばしに特徴がある。コロコロいう鳴き声もわかりやすい。
 渡中さんによると、この5羽のカワラヒワのヒナは、ある植木屋さんが剪定をしているときに、気づかず巣のある枝をカットしてしまい、巣ごと落下してしまったのだそうだ。ありゃ困った植木屋さんは、自然観察パークに電話をかけ、渡中さんが引き取りに行ったというわけである。
 しっかしさっきから、渡中さんはヒナたちにメロメロだ。ヒナもヒナで、餌だと勘違いしているのか、渡中さんが差し出す人差し指に可愛く噛り付くもんだから、渡中さんが調子に乗る。
「きゃ~!可愛いわね~。そうだ!まだ名前付けてなかったわね。う~ん・・・じゃ左から、か~君、わ~君、ら~君、ひ~君、わ~君でどう?。あっ!これじゃ、わ~君が2羽になるわね!ま、いいかね?」
話し相手は僕じゃない。カワラヒワたちだ。そりゃぁヒナたちは可愛いけど、そもそも僕は何でここに連れて来られたんだ?
「私ねぇ・・・ヒナの事では原口さんと対立してるのよ。」
目線はヒナ・・・いやでも、これは僕に話しかけてるっぽい。
「対立・・・何でですか?」
「私はね、あの人と考え方が間逆でね。断っ然っ保護派じゃからね~。というより、ここのレンジャーで私くらいなのよ。嬉しいわ~。晃宏君が仲間になってくれて。」
“レンジャーの中にも、保護する派はおるし。”原口さんが言っていたのは、渡中さんのことだったのか。喜んでいただけるのは嬉しくはあるが・・・。
「いや~でも!今回のはミスですよ!結果的に僕はスズちゃんを誘拐してきただけですから・・・。」
「そう?よっぽどよかったと思うわよ?車にひかれてペチャンコより。」
「そりゃまぁ・・・そうですね。」
・・・あっさり凄い事言うな渡中さん。
「大体よ!?1、2羽助けたくらいで自然界のバランスが壊れる!?極端過ぎるじゃろ!?」
「それは確かに!」
な~んか熱がこもってきた。っとここで突然トーンダウン。
「ただよ。保護した野鳥に対する責任・・・。こっちは本当に大きな問題でね。」
「あっ、そんな事を原口さんも言ってました。人間が育てたヒナって自然に戻るのが難しいんですよね?」
「そぉそぉ。自然界で生きていく術を学べないからやっぱりね~。でも一番申し訳なかったと思うのは・・・

死んでしまった時じゃね。」

「あ・・・。」

渡中さんは5羽のカワラヒワの喉辺りを、順番に人指し指でなでる。
「この子たちも危ないのよ?」
「え?」
「巣ごと落下したって話したじゃろ?地面でかなり強く打っちょるからね。ちょっと時間をおいてから、麻痺が出る事も少なくなくてね・・・。明日の朝まで・・・

3羽生きてればええ方かな。」

 これからもし、怪我をしたり弱ったりした野鳥を見つけた時、やっぱり見捨てるのは嫌だ。ただ、保護したところで、自分が治療したり育てたりは無理だ。きっと渡中さんに連絡して、引き取ってもらうことになるのだろう。そして間違いなく渡中さんは、僕の代わりに責任を持って世話してくれるだろう。ただ僕自身も、預けて終わりじゃ駄目だ!同じように、命を預かった責任を感じなければ!

「あ~、何か悪かったね。晃宏君を励ますつもりが・・・こんな内容になってしまってから。」
まだ黒っぽい産毛であどけないヒナたち。でもよく見ると所どころに、カワラヒワ特有の綺麗な緑と黄色の羽が見える。

「5羽揃って・・・成鳥になった姿が見られるといいですね。」


 嵐は・・・突然やって来た。
「どぉ~もぉ~!原口さ~ん??」
声高らかに事務室に入ってきたのは、30歳前くらいの普通のお兄さん。スーツ姿で、顔も髪型もとくに取り上げる所がなく・・・うん、普通のお兄さんだ。ただ、腰にはスーツに似合わないウエストポーチ。とたんに、渡中さんの表情が曇る。
「あら、面倒な人が・・・。ちょ~と静かに隠れててね~。」
そう小声でカワラヒワたちに話かけて、バスケットのフタを閉める。誰だこの人?原口さんに用事っぽいが・・・もう閉園してるから関係者?
「まぁ渡中さん!原口さんは・・・って、あら!?」
お兄さんが、僕に気づいた。そして一直線にこちらにやってくる!
「もしかしてあなた!!噂の鳥好き中学生、植村君ジャナ~イ?長身でゴリラ似の!」
よくその情報で、勘違いできたな!というか、ジャナ~イ??もしかしてこの人・・・

あっち系なのか?

「あのっ・・・すいません。植村君は友達ですけど・・・僕は藤村です。」
「え・・・そ~なの?是非インタビューしたかったのに~。そんな事より、私の空耳カシラ?さっきからこの辺りで、鳥の鳴き声がするような・・・。」
バスケットを持って、慌てて立ち上がる渡中さん。スタスタと出口に歩いていく。
「晃宏君。原口さん呼んでくるから、しばらく頼んだよ。」
「渡中さん!?」
いきなり現れた得体の知れないお兄さんと二人きり。これはシュールに面倒な展開だ。お兄さんは、ニコっとしたままで何も喋らない。これはつらい。何か話しかけよう。えっと・・・

「誰ですか?」

「おっとっと。失礼しまシタ~。」
正直気持ち悪いがちょっと舌を出してハニカミながら、名刺入れから名刺を取り出し僕に手渡す。・・・!インタビューって・・・そういう意味でか!!

「初めまして!毎週水曜日のコーナー『野鳥の楽園ダヨ!伊豆背自然観察パーク!』担当してマ~ス!西南西新聞記者の守田大治郎(もりただいじろう)デス!」

93:幼鳥~誘拐~

2011-07-05 01:58:24 | ★DAILYLIFE★(acco小説)
 「う~ん・・・うん、う~ん・・・。」
僕は全速力で観察パークに戻ってきた。渡中さんがダンボール箱の中にいるスズメの幼鳥を、時々触ったりしながら体の状態を調べてくれている。大丈夫だろうか?しっかり足で立ってはいるし・・・今すぐ死にそうという訳じゃなさそうだが・・・。
「ほぉぉぉ~ぃ・・・。渡中さん、どんな感じか?」
現れたな原口さん。真悟の鳴き声かっ!大あくびをしながら登場とは・・・緊張感ないわぁ・・・。ついさっき、本当に慌てて観察パークに帰ってきてスズメを見せた時の反応もひどかった。“お!戻ったか!渡中さんも戻っとるぞ!よかったの。”なんて投げやりな!!そりゃ渡中さんが怪我した野鳥の手当てが得意なのはわかる。とはいえ、あれだけ電話で大きな決断を迫っておきながら・・・って腹を立てている場合ではない。僕だってスズメの怪我の状態は気になる。というか、原口さんよりも気になってる自信ある。
「そ~ね~・・・」

渡中さんから告げられたのは衝撃の言葉だった。

「無傷!」

「・・・え?」
「私が見た限りだけど・・・外傷もないし・・・弱ってる様子もないわよ。」
そんな馬鹿な!
「かなり大人しいし、飛べないみたいですけど・・・それは?」
「ただ巣立ったばっかりなだけかしらね?」
「・・・あれ?」
・・・これは、やってしまったかもしれない。

俗に言う、正義感に溢れたおじさんの誘拐パターン!?

「お母さんもさっきポスター読んだよ!あんたは余計な事をしてから!ね?佳昭。」
「ほんとね。お兄ちゃん迷惑やね。」
この2人・・・。話に入ってくるのなら、触れなければしょうがなかろう。佳昭と、それを迎えに来た母さんだ。僕が戻って来ると聞いて、待っている事にしたのだそうだ。僕が観察パークに頻繁に来ることもあり、母さんも最近はここで望遠鏡を覗くし、レンジャーの皆さん、特に渡中さんとはやけに仲よくなっている。
「まぁまぁ~お母さん。そんなに気にされんでも。車にひかれなかったんだし、スズちゃんが無事で何よりじゃないですか。」
っと渡中さん。で、何?スズちゃん?名前ついたのか。
「わしも悪いんです。まさか車道にうずくまったままのスズちゃんが、どこも異常がないとは思いませんで・・・。」
おっ!原口さんナイスフォロー。んで、スズちゃんって呼び名を、みごと素直に受け入れたな。
 確かに原口さんは電話の時、怪我確定のような言い方だった。でも、こうして今スズちゃんを見ると、巣立ったばかりでまだ飛べないだけのように見える。原口さんには僕とは比べ物にならない野鳥の知識があるが、スズちゃんを実際に見る事ができたわけじゃない。自分の目で見ることが出来た僕も同じだった。車道という危険な場所にうずくまっている、という状況に囚われ過ぎた。

もっとスズちゃん自身を観察して電話で報告していれば、別の判断が出来たかもしれない!

そういえば、二町さんは草むらに移動するだけでって・・・なんかちょっと様子が変だったけど。というか原口さんも、理由は違えど草むら移動派だったか・・・。
「はぁ~。大失敗ですね・・・。すみません。」
渡中さんは察しがいい。相当落ち込んでいる僕に言う。
「晃宏君・・・ちょっとこっちに来て。お母さんと佳昭君と原口さんでスズちゃん様子見といてね。」
「ええんぇーーっ!!!何でわしまで!?」
立ち上がった渡中さんは、僕を事務室の方へ手招きする。

 ―県庁、副知事室
3年前まで、現在は園長である伊背さんが使っていたこの部屋を、今はこの2人が使っている。
「ね~ね~、ちょっと。明日の会議の資料とってくれる~?」
一人目。夏目雪(なつめゆき)副知事。まだ30代後半で、3年前の選挙で伊背さんを破り副知事に就任したときは、全国最年少副知事として、ちょっとした話題になった。スタイルもよく、今は多少おばさんっぽいものの、もう少し若い頃は美人だったに違いない。
「あ~はい・・・どぉぞ。本当にあなたは人使いが荒いですね、全く。」
二人目。秘書、野々口学(ののぐちまなぶ)。トレードマークの銀縁眼鏡は、今も3年前も変わらない。
「野々口~。次は私、コーヒーが飲みたくなったな~。」
「はぁ~。勘弁して下さいよ~。」
夏目副知事と野々口は、立場こそ違うものの同世代。伊背園長と野々口の上下関係より、かなり友達に近い、ゆるい上下関係だ。ただ、夏目副知事は伊背園長みたいに単純じゃないし、馬鹿じゃない。あの頃のように、野々口お得意の悪知恵で、副知事を自分がコントロールすることは出来ないのだ。野々口はコーヒーをカップに注ぎながら思わず愚痴をこぼす。
「正直言って頭のいい人じゃなかったですけど、伊背さんが副知事の頃はよかったですよ。今の数倍仕事は楽でした。」
「上手いことサボってただけでしょ。私の前じゃそうはいかないから。」
「そりゃまぁやりたい放題でしたよ。元気にやってるんですかね、あの人。・・・どうぞ。キリマンジャロです。」
コーヒーを机に置く野々口。夏目副知事は、早速それを口に運ぶ。
「はい、どうも。伊背さんって私に負けた後・・・どこ行ったんだったかしら?」
野々口は、一瞬考えるような表情を浮かべたが、すぐに思い出したようだ。

「あ・・・伊豆背自然観察パークですよ。」

野々口は、さらに何かを思い出したような顔で引き出しに駆け寄ると、その一つを開けて、何かを探し始めた。
「確かここにしまったはずですが・・・あった。あった。」
野々口が引き出しから取り出したのは、3つ折の冊子である。
「野々口、何なのそれ?」
「自然観察パークのパンフレットですよ。見てみます?」
「ちょっと見てみようかしら?行ったことないのよね~私。」
パンフレットは、3年前に、野々口が伊背さんを園長にしてくれるよう頼みに行ったときに、二町さんが帰り際の野々口に渡したものだ。興味が無いものでも、きっちりと引き出しの中に整理して管理しているところから、野々口の性格が伺える。パンフレットの隣には、さっき野々口が副知事に渡した翌日の会議の資料。
「あっ副知事覚えてます?3年前に僕がこのパンフレットを貰ったときに、電話で話した内容ですけど。」
「う~ん、全然。というかへ~!あそここんなに鳥いるの!?」
勿論、副知事は本当に覚えていないのだろうが、パンフレットに夢中で、会話が二の次になっている感はある。野々口は会話を諦めて、独り言気味に呟く。
「あと2、3年。僕の予想が当たるんじゃないかと思いましてね。載ってるんですよ。この会議の資料に名前が。」
資料には、太字でこうタイトルが印刷されている。

『県の公共施設、運営と一部見直しについて』

自然観察パークのパンフレットを読み進めていた副知事が、小さく載っているレンジャーの名簿の欄で、驚いたような声を上げた。
「あれ!?この名前!!」
「副知事・・・お知り合いでもいたんですか?」
「・・・かも。」
夏目副知事の目線の先にある名前は・・・

“猿越かずき”だ。

 ―観察パーク
「猿越さ~ん。ありがと。助かった。」
そうお礼を言って、渡中さんは、猿越さんから取っ手のついたバスケットを受け取る。事務室。初めて入った。見た事はないが、きっと大学の研究室もこんな感じなのだろう。どなたの机の上も意外と乱雑で、野鳥の資料や本、お弁当のゴミが散らかっている。左の机には・・・え!?白ヤギのフィギア!?あっ間違いない。二町さんの机だな。姿はないが・・・もう帰られたのだろうか?猿越さんは目の前の机に座っていたがゆっくりと立ち上がる。どうやらこっちは渡中さんの机のようだ。
「今のところは・・・全部元気じゃ。ミルワームもやっとったから。それじゃわしは・・・帰る。」
カバンを持ち、部屋から出て行く猿越さん。お疲れ様でした~。ところでだ。確かミルワームというのは、鳥などの生餌として与えられる幼虫の総称。つまりあのバスケットの中身は・・・いや。実際の所、話を聞く前からわかっていた。事務室に入ったときからずっとだ。

小さいけど高い鳴き声が、“チィ チィ”と事務室いっぱいに響いている!

「晃宏君、ほら。」
「おぉ!可愛い!」
底に新聞紙の敷かれたバスケットの中には、5羽もの鳥のヒナが1列に並んでいる!まだ巣立ち前に見える。産毛が多く、成鳥の羽がまだ全然生え揃っていない。ただこの特徴的なくちばし!あの鳥のヒナじゃなかろうか。そこまで自信はないけど。

「カワラヒワです・・・よね?」