日の山というのは、この図書館のある町と、僕たちの住んでいる町の、丁度真ん中にある山だ。それほど大きな山ではないが、形が象に似ていて、別名「ゾウヤマ」と呼ばれている。毎年正月に、この山の頂上から初日の出を見ることは、僕たちの町の中でお決まりの行事となっている。
しかし、僕はその山に向かう途中も、こんがらがった頭を整理しようと格闘していた。なんといってもここまで、カラスやサギがいろいろな種類に分裂したりと、予想外のことばかりで大変だったからだ。バードウォッチングを楽しむということを、「?」という壁が、大きくそびえ立ち邪魔している。
「よし、こっからは本格的に鳥を探そう。よく周り見ちょって。」
真悟の言葉で気がついたが、もう日の山入り口だ。(山といっても、車で通れるように道路も整備されている。)
「OK~!探すぞ~~~。」
タツも張り切っている。きっと町中とは一味違う野鳥が現れるのだろう。楽しみだ。
まず現れたのは、僕がはじめに予想したあの鳥。そう!スズメだ。流石にこれは、真悟に聞かなくてもわかった。
「いっぱいおるね。」
よく家のそばにいるスズメと違うのは、とにかく数が多いことだ。何十羽の群れが木と木を行ったり来たりしている。聞いてみたが、スズメは分裂しないらしい。少し安心。
「スズメもこういう自然の多い所では、大きな群れを作って生活するそ。」
真悟はどこまで詳しいんだろう。
しばらくすると、スズメたちは何かから逃げるように、一斉に飛んでいった。
”ガー ガー”
聞き覚えのある声と共に、3羽の黒い鳥がスズメのいた木に止まった。カラス!いや、なんとかカラス!・・・であることは間違いなさそうだ。
「あっくん、タツ、あれがハシボソガラスよ。」
ハシボソガラス?あぁ!真悟が言っていた2種類のカラスのもう一方だ。(さっき見たのはハシブト)でも、やっぱり黒い。
「何で、見分けるん?」
「オレもわから~ん。教えてしんちゃん。」
「えぇ~とねぇ。まず鳴き声。ハシブトは”カー”やけどハシボソは”ガー”。」
確かに、そこのハシボソは”ガー”っと鳴いている。問題はハシブトガラスの鳴き声・・・。思い出せない・・・。
「あとは、名前の通り。くちばしの太さと・・・おでこの出方??図鑑に詳しく出てない?」
そうだ!僕には、さっき借りた図鑑がある。もっと早く思い出すべきだった。さっそく、目次からハシボソガラスを調べる。運のいいことにハシブトガラスと、隣どうしだ。タツと見比べる。
「うん。確かにだいぶ違うね。」
「やろ?姿だけじゃなくて、住む場所も少し違うんよ。街中にハシブトで、山・林にハシボソ。住む場所をお互いに分けて、上手く暮らしちょるわけよ。ゴミあさるのは、大体ハシブト。」
「へ~。」
僕もタツも納得した。自然界はよくできている。
さきほどは、スズメを追い出したハシボソガラスたちだったが、今度は逆に警戒している感じだ。空を見上げるとトンビが飛んでいる。
「トビやね。」
真悟によれば、トビ=トンビだが、正式にはトビと言うらしい。今度からはトビと言うように気をつけよう。
「おっ!真悟!トビよりもっとデカイ鳥が。」
タツがニヤニヤしながら言った。
「ほんとや。」
真悟も笑っている。僕もその鳥を見て思わず笑った。
きっと、「?」という壁が小さくなってきたからだろう。やっとバードウォッチングを楽しめそうだ。っと僕は思った。
雲の切れ間に向かって飛びたったばかりの、トビより遥かに大きな旅客機を見上げながら・・・。