だめだ。どうしても、あのオレンジの鳥の名前がわからない。でも、よく考えたら、無理に嘘をつくことはないじゃないか。正直に言おう。
「ごめん。あの鳥の名前、僕にはわか・・・。」
その時、目の前を何かが横切った。救世主の登場だ。
“ギー”
そしてその鳥は、鳴き声と共にユーターンし、シジュウカラやオレンジの鳥より、さらに僕たちに近い、朽ち果てた木に止まった。おだちゃんの興奮は、ピークに達したようだ。
「うわ!出た!こいつや!!俺が昨日見たやつ!」
茶色と白のまだら模様。独特な、木に対して垂直なとまり方と細長いくちばし!やっと出会えた。
「コゲラや!・・・多分・・・。」
断言できないのは、霜降山で、頭の上えを飛んでいった一瞬しか見てないからだ。でも、あの特徴的な鳴き声は忘れていない。あの時の感動も。
そして今回は、とにかくコゲラとの距離が近い。羽の一枚、一枚までわかるほどだ。
「なぜか、コゲラも逃げんね。」
「どうなっちょるん、あっくん?」
「さぁ・・・。」
理由はわからないが、とにかく十分に観察をすることができた僕たちは、大満足!もし、バードウオッチングに出会っていなかったら、家の側にキツツキがいようとは夢にも思わなかったに違いない。カワセミだって、なんでもない川にいる。普通の人なら見落としてしまう感動の種が、そこら中にあるのだ、っと僕は思った。
シジュウカラもコゲラも、全く逃げようとしない。満足した僕たちの方が先に、帰ろうという話しになった。という訳で、さっきおだちゃんがこけた、根っこの方を振り返った。
そんな僕の目に飛び込んで来たのは、驚きの光景だった。なんと、元来た道にも、たくさんのシジュウカラ、オレンジの鳥が飛び回っているのだ!!良く見ると、数羽、コゲラもいる!!おだちゃんがあたりを見回して、驚いて言う。
「後ろだけじゃないぞ!左右にもいっぱいおる!」
「うん・・・。」
・・・一羽のコゲラに夢中で、気がつかなかったのだ。
二人は、鳥たちの群の中心に立っている!!!
まるで夢の世界だ。これは、すごいとか、そういう表現じゃ表せない。おだちゃんが呟く。
「・・・めっちゃ綺麗やん。」
「早起きした、甲斐があった。」
僕とおだちゃんは、幻想的な世界の余韻に浸りながら、のほほんとした気持ちで、さっき集合した家の前まで帰って来た。するとそこには、見慣れた顔の人が立っているのだ。
「おだちゃん、あれ・・・明やん。」
「おっ、確かに。どうしたんやろうね。お~い明~!!」
明も僕たちに気づいたようだ。
「なんだ、二人とももうおったんか。行こうや。」
僕とおだちゃんは、顔を見合わせる。
「どこに?」
「ははっ!冗談やろ!?・・・学校。」
・・・顔から血の気が引くのがわかった。
「やべ~!!!!すぐカバン!てか、朝ごはん食べてない!!」
「お~れなんか、さっきこけたけぇ着替えんと!」
「いったい、二人はなにしよったん・・・。」
階段を駆け上がりながらうなだれる。こりゃ、今日こそは遅刻かも。