水月光庵[sui gakko an]

『高学歴ワーキングプア』著者 水月昭道 による運営
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『ホームレス博士』、来週刊行に先立って一言。大学はまず、博士院生を「あきらめさせる」べきだ。

2010年09月10日 | 京都ぶらり [書 評]
先日、『希望難民ご一行様』(光文社新書)の書評を書きながらふと思った。
「俺たちをあきらめさせてくれ、か。全国の博士院生がもしこの台詞を聞いたとしたらどんな反応を示すだろうか・・」

高学歴ワーキングプア問題にかかわってきてしみじみと感じていることは、学ぶものたちにとって、今は展望が全く見えない世の中であるということだ。だとすれば、彼らがやるべきことは、まずはいろんなことに「あきらめをつける」ことなのかもしれない。そのうえで、しぶとく「学び」続けるしかないのではないか、と先の本を読んでみてそんな思いを強くしている。

大手私大や旧帝大などでは、就職が極めて厳しい状況にある大学院生(博士課程)に対して、やっと重い腰を上げ民間に仕事を見つけるための「キャリア支援」を行うところも増えてきた。が、うまくいっているという話はあまり聞かない。そもそも、お客さん(院生)が集まらないというぼやきもよく耳にする。当たり前だろう。

だって、彼らはまだ「アカデミアに残ること」を〝あきらめていない〟のだから。
大学の先生として残るための〝キャリア支援〟ならば、もしかすると参加者をたくさん集めることもできるかもしれない。だが、大学側がキャリア支援で行おうとしていることは、「大学の外にでること」の提案でしかない。これは、博士院生の心理を全く理解していないと言わざるを得ない。

「ここまで(博士課程まで)来たならば、大学の教員になりたい」。ほとんどの院生の本音はコチラである。

そうした強い思いを抱いている人たちに、「大学の外で仕事を得る方法としてはこんな道もありますよ」と説いたところで、だれも耳などかさないだろう。というか、そんな話、聞きたいと思わないんじゃないか?

でも、このままだと、多くの院生はたとえ博士号をとったところでその資格を活かす場はアカデミアのどこにも見つからない可能性が極めて高い。万一あったとしても、食べていくことを考えると、ほぼ絶望的だ。だからこそ、大学側に今求められていることは、自学で学んだ院生たちをまず「あきらめさせる」ことなのではないだろうか。

丁寧に現状を説明し、そして大学院重点化という流れのなかで自らも過ちを犯したことを認め謝る。そうした態度を示すことで、自学の学生との信頼関係を築き直すことからはじめなければ、いくらキャリア支援といったところでむしろ不信感が増すばかりではないのか。そもそも、自学出身者が「いまどうしているか」を把握している大学もあまりないようだが、こうした態度も、院生たちにいらぬ不信感を与えてしまう遠因となっているようにも思う。

さて、キャリア支援の中身に目を移すと、対象者が主に「現役院生」となっている場合が珍しくなく、実はここも非常に気になるところだ。すでに大学院を修了して、RA(リサーチアシスタント)やPD(ポスドク)で食いつないでいる卒業生だってあまた居るはずだし、そのポストすら見つからずに途方に暮れている博士たちだって少なくない。支援と銘打つなら、こうした卒業生も視野に入れて然るべきではないのか。

大学院志願者に陰りが見え始めるなか、院生の先行きについてもここらあたりで手を打っておかねば「まずいことになる」、という思惑がどうも透けて見えてくるのは私だけの気のせいだろうか。「だからこその〝現役生メイン〟なのではないか」、と訝る学生だって少なからずいるだろう。すでに卒業して行方が分からなくなっている者たちは〝臭いものに蓋〟とばかりに、切り捨て状態が続いている。だが、本当に助けを求めているのは、実は、ここの層がもっとも多いはずなのだ。院生らが自学に対する不信感を微妙に高める要因は、こんなふうにあげ始めるときりがない。

自学の卒業生たちに「なんとしても生き延びてもらいたい」。もし大学側が本気でそう願うのであれば、まずは彼らと真摯に向かい合うことから始める必要があるだろう。もちろん、OB・OGにも声をかけるべきだ。そのうえで、「残念だが大学に(専任教員として)残る道は基本的にあきらめて欲しい」。その代わりといってはなんだが「仕事を見つけるためのお手伝いは出来る限りします」と続けば、少しは耳を傾けてくれる院生たちも増えるのではないだろうか。

表向きのポーズなどそれこそ〝あきらめ〟、大学の真心を学生たちに届けることが急がれる。新入生に対しても、また入学前ガイダンスでも、ぜひそんな姿勢を見せて欲しいものだ。でなければ、大事な卒業生たちを「ホームレス博士」にしてしまうばかりだろう。食い止めるには、もうわずかの猶予もない。

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